投稿記事

2020年 09月の記事 (16)

宮波笹 2020/09/01 18:16

【小説】私たちの関係はちょっと複雑

「どんな風の吹き回しですか?」
「別に、夕食奢ってやるってだけ。いいからなんか頼めよミューシャ」

レストランで向かい合わせに座っている彼……ケヴィンと私の関係はちょっと複雑だ。
私は最近ある人の養女になった。その義父の弟が、目の前のケヴィン。
つまり彼は私の叔父ということになる。
お互いの関係は最悪と言ってもよかった。……ほんの少し前までは。

そんな複雑な関係の叔父に、夕食に誘われた。
しかも、義父兼兄抜きの二人っきりで。

「奢ってやるって言ってんだから素直に注文しろよ。ここのハンバーグはうまいんだぜ」
「夕食なら、家で十分です」
「兄貴の家じゃレンチンパスタしかないだろ。それともハンバーグは嫌いか?」
「別に嫌いってわけじゃ……」
「じゃあ何が好物なんだ? 何かあるだろ、冷凍パスタ以外に」
「何も……ありません」

私は幼い頃、養護施設に預けられた。
施設では日々決められたメニューが出され、残さず食べるのがルールだった。
前の引き取り先はとても裕福な家庭だったけど、誰かと一緒に食事をしたことなどなかった。
食事にあまりいい思い出がない。好物と言われても分からない。

しびれを切らしたケヴィンが、呼び出しのベルを鳴らして勝手に注文する。

「待ってください、私は何も……」
「じゃあ今すぐ決めて、3、2、1、ハイ!」

急に言われて答えられるはずがない、結局勝手に注文されてしまった。

しばらくして、この店自慢だという特製ハンバーグが2人分届く。
ハンバーグは別に嫌いではない、特別好きでもないというだけだ。
見るからにふっくらと、ナイフを入れたら肉汁が溢れそうなそれを1口食べる。

「……ここのハンバーグ美味しいですね」
「だろ?」

そう答えた彼の顔は、歳の割には妙に子供っぽかった。

「そんな顔も出来るんですね」
「そんな顔? は? 何のこと?」

そして、いつも私に向けている不機嫌な顔に戻る。

「また、連れて来てくれます?」
「ん~……お前の奢りなら」
「私、中学生なんですけど?」

私たちの関係はちょっと複雑。

1 2 3 4 »

月別アーカイブ

記事のタグから探す

限定特典から探す

記事を検索