ラスボスのレベルデザイン
はじめ
Twitterでチラッと見かけた、ラスボスのレベルデザインについて語ります。
「倒せないと誰もがエンディング見れないし、だからといって誰でも倒せる設計にしたら今まで育成した意味が無くて歯ごたえもない!」
が主な概要だと思っていますが、ほんとにチラッとしか見てないので真偽は知らないし、他のことも好きに語ります。
筆者自身、久しぶりに敵データを作ろうとして「雑魚敵ってどうやって作るんだ……?」状態なので、あくまで消費者として好きに語っているなという認識で本記事を読んで頂けると幸い。
こういう設計にした方がこういった理由で効果的――じゃなくて、単にこうだといいなだったり、あのゲームの設計良かった! と語りたいだけです。
この前置き見て欲しい、Twitterじゃ語り切れるわけない。
本文
命題「ラスボスの強さ」
1.イベント戦
パッと思い出せる限り古いタイトルだとやはり「MOTHER2」
到底正攻法では倒せない強さのラスボスを、独自のコマンドで倒すというイベント戦設計。かなり有名。
ストーリー重視の物語においてイベント戦というのは正攻法の一つでしょう。
歯ごたえのあるラスボス戦よりも、物語の結末を望む人の方がそこまで辿り着いたユーザーには多く、居たとしても作風から少数派、あるいは弱い評価点なのでイベント戦として物語を盛り上げて感情滅茶苦茶にしたほうが総幸福度は増すと思われます。
MOTHER2自体はラストダンジョンがそこそこ難しく、マップ全体が最後の壁という認識にもなるので達成感にも繋がります。
ボス以外にも壁を用意して、感情以外の技術的満足感に繋げるという構造はいいですね。
2.技術の必要なイベント戦
例として「プロナント・シンフォニー」
長期に渡るラスボス戦の途中でメンバーが覚醒し、独自のステータスや、技構成といったイベント用ビルドに変更される仕様。
絶対に勝てるビルドにはなるものの、プレイングはかなり研ぎ澄ませなければ普通に全滅するので、今まで旅をして来たプレイ感やシステムへの理解度といったプレイヤースキルを採点されている感じ。
ラスボス以外の後戻り出来ないボス戦でもこの仕様だったはず。
プレイヤーがカスタマイズしたビルドを変更されるに値する説得力が脚本部分に求められますが、どうしても戦う必要があり、倒す必要がある敵に対してイベント仕様を割り振るのは良い設計かと。
説得力はもちろん必要なのですが、シナリオ部分に凝れるのならそのコスト以上に盛り上がりも作りやすいはずです。
ラストダンジョンやラスボス戦の前半部分はプレイヤーのビルドで挑むので、今までの積み重ねが決して無為だったわけでもありません。
ちょっとここでレベルデザインの定義を。今やっておかないと後々長くなるので。
システムが上限とするレベルまで稼ぎ続けられる、ないしステータスを強化出来るアイテムを無限に手に入れることが出来るゲームデザインを「レベル無限型」
普通にプレイしていて引っ掛かるようなレベル上限、もしくは入手出来る経験値の上限が意識する段階で決まっているゲームデザインを「レベル有限型」とでも呼んでおきます(ちょっと調べた感じ名称が無い)
拙作「最果てを目指す」は一エリア毎に入手できる経験値総量が設定されており、かつ引継ぎシステムでも20というレベル上限を超えることは出来ないので、二つの要因から強いレベル有限型ゲームといった認識でいいでしょう。
ドラクエなんかはラスボス討伐に必要なレベルがカンストには程遠く、それでいて大きな手間さえかければ種も大概無限に手に入るので、ちょっと強めのレベル無限型ぐらいの認識。まぁ大体こんなイメージで。
ラスボスの話に戻ります。
3.稼ぎ場を用意する
ようはラスボスの前、ダンジョンでも何でも構わないので、必要水準まで育成できる環境を用意します。
育成か、プレイヤースキルが足りない場合は勝てるようになってから来てね……なデザインです。
詰みセーブを生まない構造も広義でこれに含みます。
個人的にはかなり避けたいデザインです。
時間が無い、展開が読めた――そういった要員達のラストダンジョン症候群の「難しく面倒で準備し直さないといけない」という、最悪な要因を満たす原因になるからですね。
言葉を強くしたら「クリア出来ないお前が悪い」になるので、暗にゲーム側からこのような印象を受け取ってしまえばクリア寸前で投げたくもなります。
対応策として、クリア出来る条件が整わない限りラスボスに辿り着けない構造にしたらマシになります。
具体的には回避不可能な中ボスを幾つか配置し、クリア出来る戦力があるかチェックすること。
極端な話、一定レベルが無ければ進行不可能な仕様でも構わないです。
進行状況に置ける想定レベルを表だって、あるいは暗に知ることが出来る仕様もいいですね。
リソースの稼ぎや、プレイヤースキル含めた育成を終える必要があり、そこまで熱量のある人でしか辿り着けない構造になりますが「ラスボスで諦める」や「勿体無いから苦しいけど頑張ってクリアしよう」よりは個人的にマシかなと。
ラスボスに歯ごたえを求める層には一つの答えになりますが、自然とターゲット層を狭くしていますね。
余談ですがわたしは古いRPGだと中々クリアまで行けてません。ゲーム自体は面白いと思って何度も初めからやり直すのですが、中盤ないし後半のダンジョン、ボス辺りで自然とゲームを起動しなくなります。
今思うとプレイヤーとして歯ごたえよりも物語を重視していたからかもしれません。難易度が低い方とは言え、MOTHER2は何度もクリアしましたし。
マリオRPG辺りは辛うじてクリア出来るのですが、あれはレベル上限が普通にプレイしていても到達するというレベル有限型デザインなので、プレイングさえどうにかなければクリア出来る算段が高いところが問題点少なくて楽だったかも知れません。
レベルを上げて物理で殴ればクリア出来る方が楽ではあると思いますが、それがゲームとして面白いかはまた別の話で。
4.誰でも勝てるボス
ごく少数しか勝てないラスボスよりは、誰でも勝てるラスボスを!
……一応正論です。ただそれではゲームとは呼べない戦闘がおまけの物語になる可能性が高く、最低限ゲーム性を持たせた方が皆の為かも。
イベント戦とは一応別分類です。こちらはプレイヤービルドのままで、勝つことを想定しているので。
パッと思い出せる悪い例は幾つもあるので口を噤みつつ、良い例としては「風来のシレン」でしょうか。
ラスボスに至るまでの過程が厳し過ぎて、ラスボスはリソース吐き切ったらまず勝てるデザイン。今まで我慢を重ねて来た故に吐き切ると達成感のほかに満足感にも繋がるでしょう。
リソースほぼ尽きて、何とか辿り着いた場合でも結構裏技じみた解法が幾つか用意されているので、マスクデータの耐性ガバというのもいいでしょう。
なんか足掻いたら突破出来たとか、割と詰んでいる状況でも攻略情報見たらどうにかなるというのは、メタ式窮鼠猫を噛みで盛り上がるはずです。
ただこの手法、シレンがレベル有限型であるため通用する物です。
レベル無限型ゲームで採用してしまうと、準備万端で挑んだらサンドバッグ程度すら持たなかった……といったケースに繋がります。
こうなると余程稼ぎなどを放棄し縛りプレイ気味に進行したプレイヤーか、余程そのゲームジャンルが苦手なプレイヤーしかクリーンヒット出来ないターゲット層になります。
個人的には狭すぎるという次元ではないので、多くの人がクリア出来ないよりは全然良い仕様だと思うのですが。
5.程よい歯ごたえのラスボス
これが出来たら苦労しないよなー! 問題が難しくなって来たぞー!!
ここまで散々ユーザーの個人差が大きいと言って来たと思います。
どれだけ稼いで進行するのかは人それぞれですし、どんなラスボスを求めているか、プレイヤースキルがどれ程あるのか――そんな中「程よい」なんて曖昧な言葉でレベルデザイン出来たら神の所業ですね。
しかもクリエイターだって十人十色。
ゲームバランス作るのは得意と言う人も居れば、カジュアルなプレイ感が正しいと思って優し目の難易度設計をする人もいるでしょう。何が言いたいかと言うと、常に打てる、全員へ有効な答えは何処にも存在しないということです。
ある程度、切り捨てるユーザーを選ぶべきです。
大勢を狙うと決めても、ターゲットの真ん中にダーツを投げるわけで、極端にゲームが上手いプレイヤーや操作のおぼつかない子供、どんなゲームでも縛りプレイをしてしまう変態は基本ターゲットから逸れてしまいます。
自分がどんなゲームを作りたいか、どんなターゲットを狙うのか、レベルデザインとして常に意識していきたいなと。
6.難易度設定
最近増えて来た万能な解答。銀の弾丸とまでは言いませんが、割と何でも解決してくれます。
デメリットとしては開発コストが増えること。
雑に補正すると狙った層が楽しめないケースもあると思うので、最低限意識やテストプレイを行う必要があると思います。
他にも作者が想定している難易度=一番丁寧に調整した難易度はしっかりと伝えられなければいけませんし、各難易度がどのような層向けなのか説明し切る必要もあると思います。
また注意すべき点として、敗北時などに難易度変更を促さず、あくまでオプションなどから変更出来るようにすること。
全く同じシステムを評価する場合、ゲームやシステム、クリエイターに責任を押し付けられる状況を与える場合と、プレイヤー自身が自己責任で難易度を調整する場合、後者の方が幸福度は上がります。
例え不満を抱いたとしても自分が選んだプレイ難易度のほうが納得できるんです。
もちろんこれは同じ物から得られる手段による感じ方の差異で、どれだけバランス崩壊している物の原因をプレイヤーに押し付けても悪い物は悪いままです。
7.納得出来るデザイン
ローグ系なんかはシナリオを最低限に抑え、盛り上がりよりも繰り返しのプレイによりラスボスという最後の障害を突破出来る高揚を重視していることが多いです。
ソウル系は死んで覚えるタイプながらも、死んで当たり前という世界観が構築出来ているので物語自体もラスボスで苦戦してもそう盛り下がる物では無いですし、死ぬことを前提にした回復アイテムだったり、マップデザインで生まれるだろう不満を徹底的に排除しています。
デッキビルド型のゲームでもリプレイ性が強くプレイヤースキルを高めると同時に、毎度のツモ運に笑ったり泣いたりすることを楽しむデザインで、ラスボスには歯ごたえしか求められないことが多く、その歯ごたえもプレイングミスだったとしても「もう少しツモが良ければ」という言い訳の道筋が出来ているので不満が貯まりにくいと思います。
誰でも勝てるようなボスである説得力、強い人しか乗り越えられないようなボスの説得力。
死んで覚える必要性、プレイングよりキャラの育成度合いが重視されるデザイン。
あらゆる作品でコレと呼べる答えは無く、コンセプトとターゲット層の意識、組み合わせが大切だと思います。