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吸血鬼の記事 (14)

シャルねる 2024/01/18 08:06

27話:セナが言ってたことでしょ?

「ます、たぁ、ごめ、んなさい……こ、殺し、ちゃい、ました。偉い、人を……ご、ごめっん、なさい……ますたぁに迷惑を、かけちゃい、ます。……み、身分、証使えなくなるかも、知れません……」
「…………取り敢えず、出てきてくれない? 私が中に行けたら一番いいんだけど、そういうのを見るのは、私にはきつそうだからさ」

 私が扉の方を見ないようにしてからそう言うと、扉が開く音がして、直ぐに扉を閉じる音がした。
 私が振り向くと、セナが目を腫らして、涙を零していた。

「ま、すたぁ、ご、めん、なさい……わ、たしの、せいで……身分、証、使えっ、なくなるかも、しれませ、ん……」

 そしてそのまま、さらに涙を流しながら顔をぐちゃぐちゃにして、そう言ってきた。
 セナの言葉を聞く限り、多分だけどギルドマスターを殺しちゃったんだよね……
 と言うことは、ギルドにも追われるようになって、身分証を使えなくされる……と。だから、セナはこんなに必死に謝ってきてるって事だよね。
 
「セナ、私さ、今安心してるんだよ?」

 私は安心してくれるようにセナを抱きしめながら、優しくそう言った。
 
「あ、安、心……です、か?」
「うん。だって、大っきい音がして、セナに何かあったんじゃないかと、心配だったんだよ」

 いくら強いとはいえ、万が一の事が無いとは言いきれないから。
 私がそう言うと、セナはさらに顔をぐちゃぐちゃにして、泣き出してしまった。
 
「ご、ご、ごめ、んな、さい。せ、せっかく、ま、ます、たぁが心、配してくれたのに、そ、その、気持ちを、だ、台無しに、してしまい、ました……」

 嗚咽で上手く喋れてないセナの頭を撫でながら、私は言う。

「まぁ、ギルドに追われるかもしれないし、身分証が使えなくなっちゃうのは不便だし、嫌だよ?」

 そこまで言うと、セナがまた泣き出しそうになってしまったから、私は慌てて言葉を続けた。

「でもさ、セナが居てくれるでしょ? 私はセナが居てくれればそれでいいからさ。最初に会った時、セナ言ってたじゃん。私が居れば充分、みたいなこと。その時は正直不安だったけど、今はセナ以外には何かが欲しいなんて思わないよ」
「ま、ます、たぁ……」

 私の言葉を聞いたセナは、今度は嬉しそうにしながら泣いている。
 こんなセナを見て思う。
 どうせギルドマスターが余計なことを言ったから、こうなったんだろうな、と。

「セナ、大丈夫だから。もう泣かないで」

 セナの頭を撫でながら、私はそう言った。
 正直、今の状態のセナの顔も全然可愛いけど、やっぱり泣いてない方が可愛いし、セナには笑顔でいて欲しいから。

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シャルねる 2024/01/15 08:06

26話:ごめんなさい

「ぐっ、あぁぁぁああぁ」

 四肢をを吹き飛ばされた痛みに声を我慢できてないゴミの様子を見た私は、直ぐに私がやってしまったことに気がついて、音を外に漏れないようにした。
 ただ、最初の四肢を吹き飛ばした時の音が下の階まで聞こえてたみたいで、マスターが私を心配して階段を急いで登ってきてる音が聞こえてきた。
 マスターが私を心配してくれていることに一瞬顔がほころびそうになったけど、今の状況を思い出して必死に我慢した。

 幸いにも、マスターとこのゴミ以外の人は何も思考出来ないようにしてあるから、マスター以外の人がこの部屋に来る心配は無い。……けど、マスターがこの部屋に来ることが一番の問題だ。だって、マスターにこんなもの見せる訳にはいかないから。

「せ、セナ! 大丈夫!?」

 私がどうしようかを考えていると、マスターの足音や心音がどんどん近づいてきて、とうとう扉をノックしながら、そう言われてしまった。

「だ、大丈夫です! ほんとに大丈夫ですから、マスターは下に戻っていてください」

 私はマスターのことを考えながら深呼吸をして、動揺しないように落ち着いてから、そう言った。私の声だけが外に聞こえるようにして。

「……ほんと? 嘘だったら怒るよ?」
「大丈夫です」
「……分かった。でも、ここで待ってるから」
「わ、分かりました」

 マスターが近くにいることに心の安らぎを覚えながら、私はこのゴミをどうしようか考えた。
 一応、出血死しないように血を操ってるから、死ぬことは無いんだけど、死なないだけで元に戻すことは出来ない。

「ますっ、たぁ……」
「……セナ? どうしたの?」

 私はさっき大丈夫って言ったのを申し訳なく思いながらも、隠し通せないことを察して、マスターに迷惑をかけてしまうことを謝るために声を出した。
 マスターは声だけで私の様子がおかしいのを察してくれたのか、心配するような声色で、そう言ってくれた。
 普段だったら、嬉しくて、幸せな気持ちになれるのに、今はそんな声をかけられて、私の心は張り裂けそうになった。
 だって、私は今からマスターに迷惑をかけるんだから。

「ごめっん、なさ……い、ごめ、ごめん……なさい、ますたぁ……」
「セナ? よく分からないけど、大丈夫だよ? 取り敢えず、扉、開けていい?」

 マスターが私を心配するように、そう言ってくれる。
 
「だ、め……です……」

 私は声を振り絞るようにして、そう言った。
 だって、こんな光景、マスターに見せられるわけないから。

「なんで? 何があったの? セナは大丈夫なんだよね?」

 マスターのそんな言葉を聞いて、私は涙を流すのを我慢出来なかった。

「ます、たぁ、ごめ、んなさい……こ、殺し、ちゃい、ました。偉い、人を……ご、ごめっん、なさい……ますたぁに迷惑を、かけちゃい、ます。……み、身分、証使えなくなるかも、知れません……」
「…………取り敢えず、出てきてくれない? 私が中に行けたら一番いいんだけど、そういうのを見るのは、私にはきつそうだからさ」

 マスターに、こんな顔、見られたくない。でも、マスターがそう言ってるのに、出ない訳にもいかないから、私はマスターに中が見えないように小さく扉を開けて、部屋を出た。

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シャルねる 2024/01/11 08:06

24話:呼び出し?

「お待たせ致しました」

 そう言って、さっきとは別のギルドの職員がやって来た。

「ギルドマスターがお呼びです。上の階へどうぞ」

 そしてやって来て早々に、ギルドの職員の人は《《セナに》》そう言った。
 
「そんなことより、早く依頼の報酬を渡してください」

 さっきの人じゃない人が来たんだとしても、さっさと報酬を貰いたいのは事実だから、私はそう言った。

 可能性はかなり低いと思うけど、私たちの身元がバレて、捕まえようとしてる罠の可能性があるから、私は警戒しながらそう言った。
 まぁ、そんなこと関係なしにギルドマスターなんてどうでもいいし、単純に怪しいから、会う気もセナを会わせる気もないんだけどさ。……セナが吸血鬼だってバレた可能性だって全然あるし。……さっきの技? 魔法? が吸血鬼しか使えないものだった可能性もあるし。
 
「……そんなこと? そもそも私はあなたには言ってませんが?」

 実質ギルドマスターの呼び出しをそんなこと呼ばわりしたのが気に触ったのか、職員の人は声を低くさせてそう言ってきた。
 
「あなた、是非ギルドマスター室へどうぞ。ギルドマスターがお待ちですよ」

 そして、続け様に職員の人はセナに向かってそう言った。
 身分証に名前を書いてないから、名前を呼ばれてないけど、セナに向かって言ってるのは明らかだった。

「マスター、少しだけ、待っててもらってもいいですか?」
「えっ、うん。……いいけど」

 行かないと思ってたセナが、私にそう聞いてきたのを聞いて、思わず声が裏返ってしまったけど、何とか答えることが出来た。

「マスター、すぐに戻ってくるので大丈夫ですよ」

 私が思わず不安な顔をしてしまったからか、セナは安心させるような声色で、私の耳元に向かってそう言ってきた。

「あ、でも、心配なので、こうしておきますね」

 続けてセナがそう言った瞬間、受付の人を待ってる間に回復していたお酒を飲んでいた冒険者達のうるささが、一気にまた静かになった。……目の焦点をズラしながら。

「行ってきますね。何かあったら、私を呼んでもらえれば直ぐに来ますので」
「えっ、う、うん。こ、この人達、元に戻るんだよね?」
「マスターが望むのなら、戻しますよ」

 セナはそう言って、一人で階段を上がって行った。
 職員の人はついて行くつもりだったのか、階段の近くに居たけど、ついて行くことはなかった。
 だって、職員の人の目の焦点も合ってなかったから。
 
「セナ、早く戻ってこないかな……」

 早くも、セナが居ないことに不安になりながら、私はそう呟いた。
 セナが近くに居なくて……いや、近くにはいるのか。……私の見える範囲に居なくて、不安な気持ちももちろんあるんだけど、単純に焦点がズレてる人達に囲まれてるこの状況が怖いから、本当に早く帰ってきて欲しい。

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シャルねる 2024/01/10 08:13

23話:よく分からないけど、セナは凄い

 街の門を通る時に、さっきと門番の人が変わってたのに気がついたけど、別にどうでもいい事だったし、特に気にしないで近くの森にセナと一緒に行った。

 この前と同じで、やっぱりセナのオーラ? 的なので魔物が出てこない。……この街に来る時もそんな感じだったし、分かってたんだけどさ。

「セナ、この前みたいな感じでセナだけで狩ってきていいよ」
「……分かりました。すぐ戻ってきますから、動かないでくださいね?」

 セナは心配そうな顔でそう言った。
 セナが過保護なのはもう分かってるから、どうせすぐに戻ってくるんだろうなぁ、と思いながら頷くと、セナが目の前から消えて、不安な気持ちが出てきそうになるけど、そんな気持ちが出てくる前に血飛沫ひとつ浴びてない綺麗なセナが目の前に現れて、私に抱きついてきた。

 わざわざ私に見えるように抱きついてくれたセナに感謝しながら、私もセナを抱きしめ返した。

「そう言えば……討伐部位持ってきた?」

 セナが満足してくれた辺りで、私は抱きしめるのをやめて、そう聞いた。
 
「はい! ちゃんと持ってるので、安心してください」

 どこを見てもセナが討伐部位を持ってるようには見えないけど、セナがそんなすぐにバレる嘘なんて……いや、すぐにバレない嘘でも言うわけが無いから、セナに改めてお礼を言いながら頷いた。
 
「うん。じゃあ戻ろっか」
「はい!」

 私は指は絡めてないけど、セナの手を握って、歩き出した。

 門を通る時に冒険者の身分証をまた見せたけど、さっきとは違って、バカにするような目では見られなかった。別にそんな目で見られても気にしないけど、見られないに超したことはないし、さっきの人じゃなくて良かったと思いながら冒険者ギルドに戻った。



「……一度受けた依頼を取り消す場合は罰金が発生しますが」

 まださっきの受付の人が居たから、その人の前に行くとそう言われた。
 私たちは完全な手ぶらだし、見た目も見た目だから、こう思われるのは仕方ないよね。と思いながら、私はセナの方を見た。
 すると、赤黒い渦のような私には理解できないものが受付の人の前に出てきて、そこからゴブリンやオークの討伐部位が大量に出てきた。

 そんな様子を見た受付の人は、目を見開いて動かなくなってしまった。……適当にお酒とかを飲んでた冒険者達も一気に静かになっていたけど、私はそんなこと特に気にせずに、セナに向かって言う。

「凄いね」

 具体的に何が凄いのかは全然分からないけど、凄いことだってのは分かったから、私はそう言った。

「えへへ」

 セナは私に言われた言葉が嬉しかったのか、嬉しそうな声が漏れ出ていた。

「あの、早く依頼達成の報酬をください」

 受付の人が回復するまで待つのが嫌だったから、私がそう言うと、頭を下げながら「し、少々お待ちください」と言って、奥の方に消えていってしまった。
 ……いや、普通に早く報酬を早く渡して欲しいんだけど。

「……私が取って来ましょうか?」

 私のそんな気持ちがセナに伝わったのか、さっきまでの嬉しそうな感じとは打って変わって、苛立ちを含んだ声で、私に聞いてきた。……もちろんその苛立ちが私に向けられたものじゃないのが分かるように。
 私はセナに大丈夫と言って、首を横に振っておいた。
 だって、実感は全然ないけど、私たちはただでさえ追われてる立場なのに、そんなことをして冒険者ギルドにまで追われることになったら、堪らないから。
 ……まぁ、どうしても、本当にどうしても無理な要求をされた場合、セナが大丈夫って言ってくれたら断るけど。

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シャルねる 2024/01/07 08:03

22話:私に出来ること

 私達は歩ける限界くらいまでくっついて、冒険者ギルドに行くために宿を出た。
 正直、恥ずかしい気持ちはある。でも、それ以上にセナの近くに居れて嬉しい気持ちが勝っているから、気にしないようにして、歩いていると、セナが急に笑を漏らし出した。

「えへへ」
「セナ? どうしたの?」
「マスターがさっき言ってくれた言葉を思い出して、嬉しくなっちゃったんです」

 セナは可愛い顔でそんなことを言ってくる。
 ……セナが喜んでくれるのは嬉しいけどさ、わ、私が恥ずかしいんだけど。
 さっき嬉しい気持ちが勝ってるから、恥ずかしい気持ちなんて気にしないようにするって思ったばっかりだけど、これは恥ずかしいよ……

「わ、私も、う、嬉しかった、よ?」

 顔が熱くて、耳の先まで熱くなってきてるのを我慢しながら、私はセナにそう言った。
 すると、セナも私みたいに、恥ずかしそうにしつつも、嬉しそうに、手を繋いで、指を搦めてきた。
 ……特に抵抗する理由もないので、私はそれを受け入れながらセナに案内してもらって、冒険者ギルドに向かった。
 
 ギルドに入ると、視線を集めたりしたけど、特に話しかけられることはなかった。……良かったと思いながら、適当な依頼を取って、受付の人に持って行った。
 討伐系の依頼だったから、武器も何も持ってない私たちでできるのかという目で見られたけど、何も言われずに受けさせてくれた。
 多分、冒険者は何が起きても自己責任だからなんだろうけど、私的には変に心配する振りをされるより、よっぽどいい。

「セナ、行こ」
「はい!」

 セナにそう言って、街の門に向かう。
 ……私がいたところで何も出来ないんだけどさ。……セナから離れたくなかったんだから、しょうがないよね。……あ、でも、囮くらいならできるかも。セナなら絶対助けてくれると思うし。
 いや、セナが囮を必要とする相手なんて、街の近くにはいないか。

「セナ、私は何もすることがないし、囮でもしようか?」

 いないとは思うけど、そういう魔物とかに街を滅ぼされたっていう話を聞いた事あるし、いる可能性だってあるから、一応、セナにそう言っておいた。

「絶対だめです! マスターを囮にするなんて、有り得ません!」

 セナは私の言葉を最初理解出来てなかったみたいだけど、直ぐに理解したみたいで、絶対にダメだと訴えかけてきた。
 私的にはセナが居たら全然大丈夫なんだけど、セナ的にはダメだっみたい。
 
「そっか、変なこと言ってごめんね」
「大丈夫です。ただ、もう変なこと言わないでくださいね」
 
 変なことを言ったつもりはないんだけど、素直に頷いておいた。

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