架神恭介ワークス 2023/08/02 11:10

SCP紹介(1)「SCP-093(紅海の円盤)」

 私が原作を担当するWEBTOON作品『国立人体実験所』がdブックにて連載開始した。

https://twitter.com/cagamiincage/status/1685824079646064640

 それを記念し、私の好きなSCPを幾つか紹介したいと思う。有名なものばかりなので、一部の方々には既知の作品ばかりかとは思うが、ご容赦頂きたい。本日はSCP-093「紅海の円盤」だ。


■SCP-093(紅海の円盤)

アイテム番号: SCP-093
オブジェクトクラス: Euclid

 私の大好物である「異世界へのポータル」系SCPであり、複層的なミステリーを備えた重厚な作品である。謎に満ちた異世界を命懸けで探索し、少しずつ手掛かりを持ち帰って情報を綜合し、真相に迫る。大好物だ。

 本作に出てくるSCPは表面的には至ってシンプルで、「鏡面まで勝手に移動する円盤」というだけのものだ。鏡面に至るとそこで停止する。これだけならAnomalousアイテム(ちょっと不思議なだけのアイテム)なのだが、人間がこの円盤を持って鏡面に接触することで別世界へと移動できることが明らかになったことで、異世界の探査実験が行われることになる。

 こういった異世界探索を作劇する上では、転移先の世界においていかなる脅威(敵性存在)を用意するか、という点に作り手は注意を向けがちだろう。読者に恐怖を与えることを考えた時、敵性存在による襲撃はもっとも簡単なアンサーだからだ。

 実際、こちらのSCPにおいても「不浄」なるモンスターが存在しており、探索者への脅威として位置付けられている。だが、探索者が「不浄」に遭遇・襲撃される頻度は比較的少なく、無事に情報を持ち帰れたケースも多い。特に実験4などは、相応の情報を得た段階で撤収し、危なげなく帰還している(ホラー作劇では逆に珍しい展開だ)。

 これは本作が、転移先での冒険活劇ではなく、転移先世界の異常な状況(何らかの理由により既に滅んでいる)の真相を紐解く下りにこそ、面白さの重点を定めているためだろう。「不浄」による襲撃やバトル、「不浄」の解決を目指さずとも部分的な真相解明によりエピソードとして成り立っているわけだ。

 本作は複層的なミステリーにより成り立っていると書いたが、通常のSCiPに相当しそうなアイテムがざっと4つは存在する。まず「円盤」、謎の敵性存在「不浄」、不浄との関連が明らかになってくる「主の涙」、そして、さらに別の異世界からの介入者であり、これらのアイテムをもたらしたであろう「主」。

 読者は調査パートにおいて、次々と提示されるこれらのミステリーに困惑させられ続ける。しかし、最終的にはそれぞれアイテムの詳細が(部分的に)明らかとなり、相互の関連が示されていく中で、この世界が崩壊した全体像を朧気ながら把握するに至る。こういったミステリー性の複層構造に加え、訪れた先の異世界では基底世界を含む複数の異世界が既に介入しており、そのことも本作のSF的な重厚さを底上げしている。多くのアイテムと多くの世界が絡み合う謎なのだ。

 というわけで、本作は読み応えたっぷりの重厚な作品なのだが、それだけにボリューミーだ。私も久しぶりに読み返したが読破するのに1時間以上掛かった。

 本家の翻訳文はやや読みづらさもあろうし、ざっと一読しただけでは状況を理解しがたい面もあるだろう。掴みづらい本家の文章に翻弄されながら雰囲気を味わうのも良いし、じっくり考えながら読み解くのも良いだろう。アニヲタwikiには解説付きの紹介文もあるので、こちらを併用して解像度を上げるのも良いと思う。

 Youtubeにも解説動画がある。

https://www.youtube.com/watch?v=dWU19aQIGVE

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

月別アーカイブ

限定特典から探す

記事を検索