梅谷理花 2023/04/24 19:30

『月1道壱一族』SS「麒麟の好みは練切よりも」

今回の投稿は、毎月おなじみ(?)「大樹のこころを聴かせて」の世界観をふんわり楽しめるショートショートのお時間です。

先月のとセットでお楽しみいただきたいSSになりました。

それでは、どうぞ。

〜〜〜〜〜

 丨道壱《どういつ》一族の里の和菓子屋。数件ある中で比較的高級なほうののれんをくぐった丨白道練《はくどうれん》は、そこに丨黄道晃麒《おうどうこうき》がいるのを見て思わず吹き出した。晃麒の菓子店への出没頻度はなかなかだが、こうも一致するとは。
「あれ、練にいじゃん」
 練の声に気付いた晃麒が後ろを振り返る。練は口を片手で押さえてしばし笑いを堪えてから、晃麒の方へ近寄った。
「今日もおやつの物色か?」
「んー、まあね」
「あまり食べすぎると太るぞ」
「食べたぶんの運動もしてますー」
「どうだか」
 練が隣まで来ると、晃麒はまた陳列棚へ顔を戻す。
「練にいは……雪乃サンにおみやげって感じじゃなさそうだね」
「…………」
 図星だ。練が黙ると、晃麒はちらりと視線を投げた。
「たまには甘やかしてあげたらいーのに。知らないけどー」
「……晃麒のおすすめはどれだ?」
「うっわ、話逸らすし」
 言葉のわりに楽しんでいるふうなのが小憎らしい。
 練は並べられた和菓子を覗き込むように背をかがめた。抑えてあるのだろうが、嗅覚の鋭い練にはやはり砂糖の甘ったるい香りが鼻につく。
 晃麒はまあいいけどさー、と唇をとがらせる。
「僕が練にいにおすすめするなら……ねりきりとか? 練りだけに」
「今日は洒落が冴えないな」
「ひどーい」
 くすくす笑ったかと思えば、ふいに晃麒が真顔になる。
「……おねーさんにおすすめするなら、この店は選ばないかな」
「……晃麒?」
 しかしそれもほんのわずかのことで、晃麒はまた小馬鹿にしたような笑顔に戻る。
「おねーさん、和菓子あんま好きじゃないっぽいんだよねー。僕なら父上に里の外から日持ちする洋菓子買ってきてもらうかな」
「……そうか、参考にしよう」
「僕の言うことを信用しちゃっていいんですかー」
「味に関して、お前は厳しいだろう」
「んーまあね?」
 得意げに頷くと、晃麒はくるりときびすを返す。
「買わないのか?」
「気分が変わっちゃった。僕もおねーさんにおみやげ買いに行こーっと」
 見透かしたような発言に練は少しだけ焦る。
「いや、まだそうだとは言っていな」
「じゃね、練にい。健闘を祈る!」
 駆け出した晃麒の背をぽかんと見送ったあとで、練は晃麒が結局彼女へどの菓子を勧めるか言っていなかったことに気付く。
「……やられたかもしれないな」
 今日は和菓子にするが、次回は別のものにしよう。そんなことを考えながら、練はまた和菓子選びにとりかかったのであった。

〜〜〜〜〜
いかがだったでしょうか。バチバチするイケメン、おいしいですね。

また次回お会いしましょう。

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