梅谷理花 2022/11/28 19:30

『月1道壱一族』SS「蘇芳の雲間に麒麟」

今回の投稿では、Twitterにも投稿した道壱一族のショートショートを載せようと思います。
「大樹のこころを聴かせて」の雰囲気をふんわり感じていただければ嬉しいです。

時系列は縹悟ルート(原作小説)です。

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「やっほー、蘇芳にい」
 里にひとつの高校の、放課後三年二組の教室。聞き慣れた、しかしこの場では聞き慣れない声を耳が拾って、|赤道蘇芳《せきどうすおう》は廊下の方へ顔を向けた。
「なあ、あれって黄道家の……」
「蘇芳に用事ってことは……」
 クラスメイトのひそひそ声を聞き流しながら、蘇芳は教室の引き戸にもたれている声の主に近寄る。|黄道晃麒《おうどうこうき》。ボタンを外した学ランの内側は、これまた見慣れたマカロンのTシャツだ。
「どうしたんだよ晃麒、わざわざ教室まで来て」
「んー、なんとなく? 蘇芳にいってメッセージの返事にむらがあるからねー」
 細い目をさらに細くして笑う晃麒に、蘇芳は多少むっとするものの文句は言えない。スマホを見る頻度にむらがあるのは自覚している。
「そんなに急ぐ用事なのか?」
「まあそんな感じ? ほら、おねーさんが宗主サマと喧嘩したって話じゃんか」
「ああ……」
 昨夜遅くグループチャットに短く『彼女』から書き込まれたメッセージを思い出して、蘇芳は曖昧に相槌を打つ。
「でも、おれたちにどうこうできる話なのか? それって」
「うーん、そこはわからないけど」
「いや、わからないのかよ」
「あっは、鋭いツッコミ!」
 軽口を叩き合って、一転して二人は神妙な面持ちになった。
「事情は詳しく知らないけど、たぶん悪いのは宗主様だと思うんだよな」
 蘇芳が顔をしかめると、晃麒もうんうんと頷く。
「僕もそう思う」
「ってことは、おれたちにできることは……あいつの気分転換とか?」
「おねーさんが気分転換したい気分なのかにもよるけどねー」
「言葉遊びみたいになってきたな……」
 考え込みそうになった蘇芳は、ふと思い出したように晃麒の顔を見直した。
「ていうか晃麒おまえ、おれとこういう結論がない話すんのそんなに好きじゃないよな? もう結論出てるんじゃないのか」
「えー? そんなことはないよー?」
 晃麒はぷいと蘇芳から顔をそらす。……怪しい。
「なんだよ、おれをからかうなら席に戻るぞ」
「あー、ごめん、ごめんって蘇芳にい」
 さすがに普段マイペースを貫く晃麒でも、ひとりでフロア中の一学年上の生徒たちから視線を浴びるのは避けたいらしい。慌てたように蘇芳の腕をつかんだ。
「……で?」
「や、えっと、うーん」
 晃麒の歯切れが悪い。蘇芳が晃麒に向き直ると、困ったようにうつむいた。
「普段の僕なら自然に解決するまでそっとしておくんだけど、なんかそれじゃ納得いかなくて、蘇芳にいの意見を聞いてみたいなと思った次第でして……」
 蘇芳はきょとんとして、しばし言葉の意味を噛み砕き、ぷっと吹き出した。
「なんだそれ、ははっ」
「はあ? 僕は真剣に困ってるんですけどー」
「だって……単純なことだろ?」
 むくれた様子の晃麒の肩に、蘇芳は腕を回す。
「放っておけないってことは、なんとかしてやりたいってことだ。ひとりで行くのが心細いなら、おれもついてってやる」
「いや、そこまでは言ってな――」
「帰りの支度して正門で待ち合わせな。ふたりで黄道家の車で宗主屋敷へゴーだ」
「……やっぱ鳶雄にいにしとけばよかったかな……」
 晃麒の呟きは無視して、蘇芳は『彼女』にどんなふうに話しかけようかとうきうきしながら席に戻ったのであった。


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いかがだったでしょうか。ご感想などいただければ嬉しく思います。
それでは、また次の投稿でお会いしましょう。

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