梅谷理花 2022/08/29 19:30

『月1道壱一族』SS「鳶色の提案」

今回の投稿では、Twitterにも投稿した道壱一族のショートショートを載せようと思います。
「大樹のこころを聴かせて」の雰囲気をふんわり感じていただければ嬉しいです。

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「はー、相変わらず長旅だ」
 実家へ帰ってきた|黒道鳶雄《こくどうとびお》は車から降りてひとつ伸びをした。迎えに出てきた女中に荷物を預け、豪勢な日本屋敷の中へ入る。
 大学の夏休みに帰省する予定はなかったのだが、呼び戻された理由はだいたい電話で聞いている。
 ――宗主家の血を継いだ少女を、ついに里へ連れてきたのだと。
 どんなやり方で連れてきたのかは知らないが、少女の母親は一族から逃げ隠れして暮らしていた人物だ、それなりに強引な手を使ったのだろう。
 もちろん反対派の家は反発。そこで急遽決まったのが、「相談役」の設置だ。各家の長男を少女の側に侍らせ、策略を弄したければすればいい、というもの。
「宗主様もなかなか強気だなあ……」
 鳶雄は廊下を歩きながらひとりごちる。どこへ向かうでもない足に、ひとりの女中が近付いてきた。
「鳶雄様。宗主様が当主様のお部屋へおみえになっておられますよ」
「ありがとう」
 女中の言葉に頷いて、鳶雄は黒道家当主――父親の部屋へ向かう。廊下に座って、ふすま越しに声をかけた。
「父上、宗主様。鳶雄です、ただいま帰りました」
「おお、鳶雄か。入りなさい」
「失礼します」
 鳶雄が部屋に入ると、当主と道壱一族宗主――|青道縹悟《せいどうひょうご》が向かい合って座っていた。鳶雄は当主の隣に座るよう促される。
「お疲れだったね」
「恐縮です」
 縹悟の淡々とした労いの言葉に微笑みで返して、鳶雄は父親のほうをちらりと見る。
「今、どんな話を?」
「赤道家と白道家の動きをどう封じるかについてな」
「なるほど」
 赤道家と白道家は現宗主のやり方に反発している。「相談役」を通じてなにかよからぬことを少女に吹き込むおそれがあるということだろう。
 ……よからぬこともなにも、それもただのいち意見でしかない、と、鳶雄は思うのだが。
 まあ、少女の中にある黒道家の血を残したいというのが黒道家の主張だ。それに逆らうほど、鳶雄は愚かではない。
「相談役のことなら、オレがグループチャットでも作りましょうか」
「グループチャット?」
 縹悟がふちなし眼鏡の向こうから無機質な瞳を向ける。鳶雄はただ微笑んだ。
「ほら、スマホの連絡アプリがあるでしょう。あれで、相談役としての動きを報告させるんです」
「ほう」
「蘇芳は単純だし、練さんは真面目なところがあるから、よっぽどのことがなければ活用してくれるはずです。そうすれば監視も楽になる」
 『監視』という単語を使ったことで、当主の怪訝な雰囲気が少し和らぐ。大人はこういうの疎いからな、と鳶雄は他人事のように思った。
「鳶雄がそれがいいと考えるなら、任せようか」
「ありがとうございます」
 強硬な姿勢を見せたかと思えば、こういうところは無頓着。縹悟のことはよくわからないが、自分で自分の仕事を増やしたことに気付いて、鳶雄は内心苦笑したのだった。
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いかがだったでしょうか。ご感想などいただければ嬉しく思います。
それでは、また次の投稿でお会いしましょう。

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