梅谷理花 2022/06/27 19:30

『月1道壱一族』SS「麒麟の詮索」

今回の投稿では、Twitterにも投稿した道壱一族のショートショート、「麒麟の詮索」を載せようと思います。

「大樹のこころを聴かせて」の雰囲気をふんわり感じていただければ嬉しいです。

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 高校から自分の家――黄道《おうどう》家当主屋敷に帰ってきた黄道晃麒《こうき》は、廊下で道壱《どういつ》一族宗主、青道縹悟《せいどうひょうご》が女中と立ち話をしているのを見て、もともと細い目をさらに細めた。
 ローファーを脱ぎ、玄関を上がって廊下に進む。縹悟の近くで足を止め、にんまりと笑った。
「こんばんは、宗主サマ」
「やあ、晃麒。学校帰りかい?」
 青い絽《ろ》の長着、耳のやや下で切りそろえられた黒髪、ふちなし眼鏡。縹悟はいつも通りの服装だが、一方の晃麒は学ラン姿だ。嘘をつく意味もないので、晃麒は頷く。
「ま、平日の夕方なんでそんなところですねー。宗主サマは……うちんとこの女中のナンパ中とみた」
 ふ、と表情の薄い縹悟の口角が小さく上がる。
「それは心外だな。では晃麒にも少し話を聞いてもらおうか」
「僕、そういう趣味ないんですけどー」
「私にだってないさ」
 軽口を叩きつつ、女中に空き部屋を案内してもらう。適当に押し入れの中から座布団を二枚引っ張り出して、晃麒はひょいと縹悟に一枚を投げ渡した。
 特にその失礼を咎めることもない縹悟は、しかし今この里の台風の目だ。なぜ宗主の座にこだわるのか、それは晃麒だけでなく、里のほとんどの人間が知るよしもないのだろう。
 ふたり、向かい合って座る。正座をする縹悟、あぐらをかいた晃麒。ここでも無礼は咎められるそぶりがない。
「そんで、宗主サマは僕になんの御用で?」
「なに、たいした話じゃないさ。最近、君のお父上がなにか私について言っていなかったかと思ってね」
 黄道家は現在、縹悟が宗主にふさわしいかどうかで割れている道壱一族五家の中で中立を保っている。おかげで縹悟の実効支配のような形になっているわけだが――。
「そりゃ、父上に直接聞いたほうが早いんじゃないですか?」
「直接聞いて話してくれる御仁じゃないだろうに」
「あっは、そうかも」
 天然パーマの少し入った髪を揺らして晃麒が笑うと、縹悟は目を細める。
「まあ……君も、お父上に似ているところがあるから。そこまで期待していないよ」
「だから女中を狙ったわけですね。ずるいなー」
「どちらがずるいか、だね」
 中身のない会話。ふと、晃麒が細い目を少し開けた。
「そんな宗主サマは、なにか新しいことを企んでたりして?」
「……どうかな」
 返答に間はあったものの、縹悟の表情は変わらない。晃麒は目をいつもの糸目に戻して笑みを作った。
「まーた一族大騒ぎの気配かー。父上も忙しくなるだろうなー」
「私に賛同してくれれば、多少心労が減ると思うけどね」
「あっは、一応伝えておきますね?」
「よろしく頼むよ」
 縹悟は立ち上がる。晃麒は座ったままひらりと手を振って、去っていく縹悟を見送った。

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いかがだったでしょうか。ご感想などいただければ嬉しく思います。

また次回の投稿でお会いしましょう。

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