Hollow_Perception 2021/02/13 18:52

『ReIn∽Alter』完全解説記事・第四回(Ep.2後半)

 お疲れ様です、anubisです。
 今回もノベルゲーム作品『ReIn∽Alter』のストーリーや設定などに関する解説を行っていきたいと思います。
 ネタバレ有り記事につき注意。
 前回はこちら






Ep.2「Conflict」後半


・比較的明るめなシーンが続くEp.2ですが、終盤からは一転して、絶望的展開へと転がり落ちていきます。

世界に失望した「凡人」

 静音を一時的に家に泊めることになった高嶺姉弟。
 そこから視点は変わり、とある「男」と青年――神了光騎の会話が描写されます。


・光騎のこの台詞、煌華の主張と通ずるものがありますね。実は一緒に居る描写って無いのですが、ダーティーな生き方をしてきた者同士、それなりには仲良しな二人です。

 一般的な会社員である「男」は、この時点で描かれる心情描写にも出ている通り、非常に生真面目な「普通の人」です。下品で軽薄そうな光騎のことも内心、見下しています。
 しかし、そんな性格ゆえに「当たり前の倫理・常識で動いてくれない世界」に、男は怒りを感じていました。
 大学時代の恋人と結婚し、起業して真面目に、必死に働いてきたのにも関わらず、不況によって業績が悪化し。
 その結果、妻に離婚を突きつけられ、一人娘を連れて自分のもとから離れていきました。
 経験を活かして優良企業に入社したものの、その上層部は腐敗しており、彼は是正を図ろうとしました。
 しかしその行為が怒りを買い、彼は社内の立場を奪われていきます。
 そんな、ありふれた「不幸」の連続。それは「報われぬ善人」であった彼を狂わせました。
「男」は復讐を誓いながら、光騎から何らかの薬を受け取り、それを飲み干します。

 本エピソードの終盤にて判明することとなりますが、この「男」は 高坂真司(こうさか・しんじ)――静音の父親 です。
 彼は他のキャラクターと違い「充分に幸せに生きられる素質を持った普通の人間」なのですが、そんな人間でも”ちょっとした不運から簡単に絶望的状況に陥る”という”不幸の普遍性”が描きたくて、このような立場の人物を登場させました。
(まさに彼自身が独白しているように)人間というものは他者が不幸な時には自己責任論を押し付けがちですが、世の中、大半のことは一人の力ではどうしようもないのです。

 また、彼が服用した薬は、後に登場しますが 「ソルリベラ」 と呼ばれるものです。
 その効果が説明されるのは更に物語が進んでからですが、ざっくり説明すると 「特定の遺伝子を活性化させ、遺伝的素質を有する者は異能者に、素質無き者は魔族に変容させる」 というものです。

少女達との日常

 視点は零に戻ります。
 濃密な非日常を体験した彼ですが、「この先なにをしようか」ということの取っ掛かりは特に得られず、結局は普通に通学を行うことになりました。
 そして、唯理や煌華と学園生活を送っていきます。


・煌華ちゃんは人々を魅了する甘々ボイスを持つASMRアーティストでもあります。彼女は異能者であり、持つ力は「感覚に影響するもの」ですが、この辺りの特技は異能ではなく純粋に彼女自身の技術です。

 朝の会話で、煌華は新作の雑談動画をアップロードしたことを伝えます。
 
 昼休み、零は唯理と二人きりで昼食を取っていました。
 そんな中で、唯理は零に「煌華以外の生徒から避けられていること」について質問しました。
 異能によって零を監視していたとはいえ、常に彼(の視点)に付きっきりであった訳ではない唯理。
 故に、零が学園内でいじめを受けていたことを知りませんでした。
 彼女は激昂し、こんなことを言います。


 以前から零を知っていたがゆえの発言ですが、やはり零の側からは意図は分かりません。
 怒る唯理の気持ちが分からない零は「自分が反論・反撃をしなかったのが悪い」と言い、宥めます。
 ここで語られる零の思想は、彼という人間や物語の軸となっているものですが、メタ的には、彼に対する共感が難しくなっている部分でもあると思います。

 彼はあまりにも善人であり、また、諦め過ぎていました。
「社会全体と比して自分の存在が”間違っている”のならば、社会の幸福の総量の為にそれを受け入れるしかない」と考えています。
 そんな零に「もっと自分を大事にしろ」と伝える唯理ですが、人から愛されることを諦め過ぎている彼には、そのような在り方は受け入れられませんでした。
 しかし、飽くまでも自己を否定する零を彼女は抱きしめ、肯定します。
 それはまるで夢の中で体験した心地良さのようで、心の壁は少しだけ解けていきました。
 唯理の優しさの根拠に疑問を持ちつつも、改めて彼女に希望を見出し、シーンは切り替わります。

 このシーンですが、謎の解明や劇的な展開自体は無いものの、本作のテーマの中でも最重要なもの――「”孤独感”と”孤独な者に愛を与える少女”」に繋がっている描写になっています。
 ここでは零の心の中にある「世界に対する尊重と、それに伴う自己否定」が描かれています。
 これは「記憶を封印しているが故の自滅衝動」とはまた違う、もっと根源的な心理です。
 そもそも彼は、元から自己否定的なのです。
 何故このような考えに至ったか、具体的なことはEp.4にて描かれます。

 さて。次のシーンでは、帰宅後の零が静音と接する描写がなされます。
 二人は格闘ゲームで楽しく遊びました。


・「ツルギちゃん」とはこの子のことです。静音の推しキャラであり、ざっくり言えば「人類全てを利用して世界を救おうとした、孤独な王女」です。その魔王じみた生き様はまさしく静音、そして「静音の友人」が憧れるに値するものです。
また、零が使っているキャラクターである「大正時代の軍人」とは「鳴神六堂」のことであり、彼もまた多くの犠牲を出しながら世界を救おうとした、魔王のような男でした。

 ゲームを終えたあと、静音は過去に友達(=煌華)が一人だけ居たことを話しました。
 その子と疎遠になったことを聞き、零が「自分は友人になれるか」と言いましたが、もはや「友人」という関係性に失望している静音は「自分には勿体ない」と言うのでした。
 余談ですが、過去に煌華に対して零が似たようなことを言っていますね。(後に煌華が言っているように)零と静音は似たもの同士です。

 静音が風呂に入ることになったので会話を終えて、零は煌華の雑談動画を観ることにしました。
 興味本位で「何の動画を観るのか」と聞く静音。それに対し、零は何の気なしに煌華のことを話します。
 すると静音は逃げるように部屋を去ってしまいました。
 その様子を見て零は「まさか、”疎遠になった友人”が煌華だったり……」などと予想しつつも「あの二人が仲良くしているのを想像出来ない」と、すぐに否定します。
(真実はまさにその予想通りだった訳ですが。)

 ともかく、動画を表示する零。
 今回の話題は「ソルリベラ」なる合法サプリメントについて。
 他者の使用体験と共に、「気分や思考能力の向上にとても効く」と煌華は語ります。
(完全に、怪しい通販ですね……。)
 煌華自身は楽しんで仕事や学業に従事しているので使おうと思ったことはないようですが、何かとストレスの多い現代社会においては頼れる味方――とのことです。
 また「すぐ治まる、ちょっとした頭痛がある」以外は副作用も無いようです。
 動画を見終えた零は、「現役トップアイドルが語るような真っ当な内容じゃない」と不審に思いつつも、翌日は唯理や煌華と遊ぶ約束をしているというのもあり、ひとまずは流して明日に備えることにしました。
 
 この動画は、Ep.2後半の冒頭にて男――高坂真司が服用した薬について述べたものです。
 何の目的か、煌華は「異能の発現、ないしは魔族化」をもたらす薬を、効果を偽って人々に飲ませようと誘導しています。
 なお、「煌華自身は使用していないこと」と「”頭痛がある”という副作用」は事実です。
 まず前者に関しては、煌華は三年前の「櫻岡駅火災」にて、星生の《共振》の影響を受けて異能者として覚醒させられています。
 また後者に関しては、異能者特有である脳の特殊なタンパク質が痛むことを示しています。それらの部位は異能の連続使用によって疲労することが前半にて述べられていますが、「ソルリベラ」による半強○的な合成の際には痛みが生じます。
 もっとも、遺伝的適性が無ければ魔族化してしまうので、「痛む」だけで済むのは幸運な人間に限りますが。

三人の休日

 休日。
 零は予定通り、唯理や煌華と過ごすことになります。
 らしくないことに、「他人と過ごす平穏な日常」に胸躍る彼。唯理にデレデレです。
「メインヒロインが明確に定まってるギャルゲー」だからこそ出来る心理描写ですね。(※本作がギャルゲーがどうかは諸説あり)
 待ち合わせの時間に若干遅れてやってくる煌華。これは別に伏線とかそういう訳ではなく、彼女自身がこう話している通りです。

 集合後、電車でいわゆる「オタク街」に向かう三人。


・この台詞に対する唯理の「人生、簡単に無くなりすぎだろ」ってツッコミ、好き。ところで、本当はこのあと煌華がライブするシーンを入れようと思っていたのですが、作業量的な都合により割愛することに……。

 煌華は超有名人なので、街中でサインを求められたりします。
 しかし、「今の私はただの学生だから」と言い、断ります。
 


・煌華先生によるコミュニケーション術講座。

 この辺りのシーン……というかこのイベントは全体的に、「日常の中の思い出作り」であると同時に、煌華の性格描写も兼ねていますね。
 一見、何も考えていなさそうな彼女。その実は、孤独であるがゆえに人の本質を見抜き、自身の側に惹き込む技術を極めてしまった人間です。
 しかし、少なくともこの時は「友達と一緒に平和な日常を楽しむ、普通の女の子」でした。
 そんな様子を見て零も、ずっと苦手意識を持っていた彼女にもっと歩み寄ろうとするような心理を抱いていきます。

 さて。三人は街中のメイド喫茶にやってきました。


・ここの掛け合い好き。


・衣装がレンタル出来る謎の店です。ここで唯理が煌華に対して言う「猫被った悪魔め」って台詞、まさにその通りですね。

 メイド喫茶でしばらく過ごした後は、ゲームセンターに移動します。
 煌華は、唯理にクレーンゲームでフィギュアを取ってもらっていました。
(ちなみに唯理がクレーンゲーム上手いのは、異能を用いた格闘術を極める過程で、全体的な身体制御技術自体も高まった為です。)


・ここで煌華が受け取ったフィギュアのキャラクターは「ツルギ」。静音と推しキャラが同じです。そういえば、どことなく煌華に容姿が似てますね。

 何気ない描写ですが、ここで「静音と煌華が友人」ということをほぼ明言しています。
(飽くまで「メタ的に察しがつく描写」であり、零自身は単なる偶然である可能性も考慮していますが。)

 ゲームセンターで遊んだ後、三人は櫻岡市に帰ってきます。
 それぞれ色々な秘密や苦悩を抱えた彼女たちですが、この日だけは「普通の学生」として楽しく過ごすことが出来ました。
「きっと全てはいつか不幸に転ずるのだとしても、せめて”今”を肯定出来るようになりたい」と、零は希望を持ちます。

 しかし、そんな希望は、突然の爆発音と共に打ち砕かれるのでした。
 唯理は特事委員会に呼び出され、爆発の現場である近くのデパートに向かうことになります。
「何か出来ることはないか」と言う零ですが、彼を非日常に巻き込みたくない唯理は「何もない」と一蹴し、彼に帰宅するように言います。
 そして「(異能者同士の戦いになる可能性があることを指して)いざという時に人を死なせる覚悟があるのか」、とも。
 それがとどめとなり、「傷つけ合いによる負の連鎖」を嫌う零は、唯理を心配しつつも独りで帰宅せざるを得なくなりました。

異能者同士の対決

 視点切り替えの演出が入り、唯理の視点に変わります。
 彼女は四条一義から状況説明を受けます。
 現在、デパートに一人の(特事委員会では未把握の)推定・異能者「高坂真司」が立てこもっており、投降を呼びかけているものの反応が無い――とのこと。
 対テロ部隊の動員も検討されているものの、異能者への対応経験が無いため、上層部が判断を渋っているという状態です。
 爆発が起きたのはデパートの中に入っているレストラン。内部は全壊しており、数多くの死傷者が出ています。
 そのような甚大な被害をもたらした異能者・真司の捕縛を命じられた唯理。
 異能を使った戦闘には慣れていても、対・異能者戦自体は彼女とて初めてであるため、気を強く引き締めます。

 現場に到着した唯理を、悲痛な面持ちの真司が出迎えました。
(このとき周囲に、恐怖で身を隠している一般人が多く居たことが、後の災厄に繋がります。)
 唯理は説得を試みますが、多くの人を殺めた彼は既に、地獄まで突き走る覚悟で居ました。
「ソルリベラ」によって彼は「空間を爆発させる力」――《破砕》の異能に覚醒していました。
 そして彼にとっての「間違った社会を構成する愚かな人間たち」の代表例であった、自身の居た会社の役員たちを皆殺しにしたのです。
 彼の中にはもはや正義も悪も理性もありません。ただ積もり積もった世界への怒りだけが彼を突き動かしていました。
 社会の理不尽は、一人の善良な人間を「人の形をした魔」へと変えてしまったのです。
 唯理はそれを察すると共に、もはや説得の余地がないことを理解し、真司との交戦を開始しました。

 人体など容易に破壊出来る、強力な異能を持った真司。
 しかし戦いの経験で言えば唯理に圧倒的な分があります。
 そして「素質レベルでの圧倒的な差」が無い状況において、唯理の異能は強力に働きます。
 彼女は真司に対して「知覚の盗聴」を試み、異能の性質を見抜いた上で、視線誘導などを駆使して有利に立ち回っていきます。
 最終的に、唯理は体術によって真司を制圧することに成功します。
 彼女の異能には一切の攻撃性が無いので、こういった戦闘スタイルは本人の技術によるところが大きく、そう考えると(正直なところ異能者としてはかなり弱い)唯理もなかなか凄まじいですね。

 戦いに勝利した唯理ですが、周囲の人々がスマートフォンで戦いの様子を撮影していたのを見て、不安を覚えます。
 社会混乱を引き起こさないための情報統制にも限度があります。これだけの事態に発展してしまえば、異能に関する情報が表沙汰になってしまうのです。
 そんな彼女の不安は杞憂に終わることなく、後の世界の動きへと繋がっていきます。

 この戦いは、異能者と人類の争いの発端となっているものです。
 最終的には世界を巻き込んだ壮大な戦いが描かれる本作ですが、その始まりが「平凡な人間の、平凡な怒り」に在るというのが独特かも知れません。
「櫻岡駅火災の夢に出てくる少女」――星生が抱える想いもそうですが、本作は結局のところ、どこまでも「救われぬ人々の苦悩」を描いた物語なのです。
 個人の苦悩など他者にとっては取るに足らない、ちっぽけなものかも知れませんが、本人にとっては「ちっぽけだから諦めて受け入れる」という訳にはいきません。

狂いゆく社会

 視点は零に戻ります。
 彼は自室で、逃げ出してしまった自己嫌悪に苛まれています。


・彼はずっとこの気持ちを強く抱いています。そもそも彼は「主人公らしく在ること」を拒絶しているのです。そのため、彼に「(王道な)主人公らしさ」を求めると、どうしても違和感を抱くことになってしまうかも知れません。

 しかし唯理からのメールが来ると、「しばらく学校には行けなくなる」という連絡に「何があったのか」と疑問を抱きつつも、彼女が無事だったことに安心します。
 その後、優利と静音と共に夕食を取ります。


・優利の貴重な表情差分。明るいシーンが想定以上に少なくなったので、使う機会も……。

 束の間の平和な時間。
 しかし、それはテレビのとあるニュースによって、すぐに終わりを告げました。
 夕方に起きた爆発事故(=先のシーン)の件であり、犯人である真司の名が報道されます。
 それを聞いて静音は「パパが、そんなことする訳ない」と。
 ここで二人は親子であったことが明かされます。
 既に離婚済みの為、真司が父親らしい振る舞いをしている描写は見られませんが、反応からも察せられる通り、静音からは何だかんだ父親として程々に愛されています。

 ひとまず、あまり考え込まず続報を待つことになりました。
 翌日、零は学校にやってきます。
 そこでいつも通り、煌華に話しかけられます。
 いわく、「先日の事件の犯人は魔族だ」などという噂がネットで流れているとのこと。
 もはや「魔族」という言葉は、他者を糾弾する為のレッテルになっていました。
 事態の不透明さや社会の流れに何となく不安を抱えながらも会話を終える二人。
 実のところ、煌華は真相を知っており、わざと零を不安にさせるようなことを言っているのですが。
 そして、ネットには真司の元・家族である静音やその母を中傷する言葉が溢れかえりますが、これも自然とそうなった面が強いものの、煌華も拡散に加担しています。

孤独な少女の真相

 それから一週間経った、ある日。
 寂しく思った静音は、零の自室にて彼に昔話をします。

 少なくとも静音が幼い頃、彼女は幸せでした。
「私はきっと、祝福されて生まれてきたんだと思う」と語るくらいに。
 しかし、真司の仕事の業績が悪化し、徐々に家庭は崩壊していきます。
 やがて両親への不信感、そして、自分自身への不信感を抱くようになった静音は、塞ぎがちな性格になっていきました。
 


・この辺りの心情、零とそっくりですね。

 現在の学校に入学後、他者との繋がりを放棄し、孤独に学校生活を過ごす静音。
 そんな彼女のもとに、煌華はやってきます。
 何度そっけない対応をされても、煌華は静音にしつこく声を掛けました。
 まるで、零にそうしているみたいに。
(後に煌華の真意が描かれますが)煌華は静音の本質を見抜いているのに対し、静音は煌華のことを「自分も他人も世界も大好きな人間」だと捉えており、あまり理解しているとは言えません。
 完全に一方通行な興味でした。
 しかし、何度も付き合わされているうちに静音の心の壁はだんだんと溶かされていき、少しずつ煌華を友人として認めるようになります。

 ある日、二人で遊びに出かけた帰りで、彼女たちは犯罪組織に出くわしてしまいます。
 この時、煌華は恐怖に駆られ、静音を置いて一人で逃げてしまいました。
(実は静音に苦しんでもらう為に、既に覚醒していた異能で身を隠して観察していました。)
 このことが、静音の煌華に対する強い不信感の原因になっています。
 ともかく、独りになってしまった静音。「何とか逃げ出せた」と零に語る彼女ですが、これは嘘であり、実際はこのとき異能に覚醒していて、犯罪組織の男達を惨殺していたのです。
 この一件以降、彼女は家から出なくなりました。
 その後、「犯罪組織の連中が惨殺された”謎の事件”」(と静音は誤魔化して語ります)について、ネット上で「静音は魔族であり、人を惨殺した」と語られるようになります。
 煌華の異能のことを知らない静音には知る由もありませんが、煌華は状況を見ていたので、その噂を流したのは彼女ということになる訳です。
 そうして、今に繋がります。

 静音が幸せとは言えない家庭環境になってしまったのは不運が原因ですが、彼女が完全に追い詰められるに至った理由はほぼ全て煌華にありました。

 静音の話を聞き終えた零は、「君の味方で居たい」と伝えつつ、自身の話もします。
 二人は共に「似たもの同士かも知れない」と感じるのでした。

終わりの始まり

 翌日。
 零と対話したことで気持ちの整理が出来た静音は、家に戻ることにします。
 しかし、そこには噂につられて「魔族の娘」を見に来た、多くの野次馬が居ました。
 嫌悪感を覚えながらも、彼らを押しのけて家に入る静音。
 そんな彼女を待ち受けていたのは、首を吊って自殺した母でした。

 静音は絶望し、憎悪し、その果てに「私から何かを奪うことは許さない」という「拒絶」の意志を抱きます。
 ついに彼女は、煌華との仲違い以降、恐怖ゆえにずっと封印していた異能を解き放ってしまったのです。


「拒絶」の異能は「不可視の壁を作る」というものであり、物体の中に壁を作ることで、それを切断することが出来ます。
 この力を利用し、野次馬たちを惨殺する静音。
 そのまま憎き人間たちを殺して回る発想もありましたが、内に眠る最後の良心が、両親への愛が、それを拒絶します。
 だから彼女は「私を殺せばもう他人からは何も奪われない」と独白し、自殺することを決意しました。

 ビルの屋上にやってきた静音。
 そんな彼女にもとに、かつて友人であった少女――煌華はやってきました。
 彼女が自分の死を後押ししに来たと考える静音。
 しかし、真相は違いました。
 煌華は静音の自殺を心待ちにしている野次馬たちを見下し、罵り、そして提案します。

 煌華の目的は、静音と共に異能を用いて暴虐の限りを尽くすことでした。
 静音に対する全ての行いはその為の過程であり、彼女に世界への絶望を抱かせ、自身の仲間に引き入れようとしたのです。
「自分の代わりに世界に復讐してくれる『魔王』が欲しい」と語る静音に、煌華は「自分が魔王になる」と語りますが、静音は受け入れません。
 彼女には良心がありました。(これは、まともな家庭環境で育たなかった煌華には無かったものです。)
 臆病さがありました。
 そしてなにより、自分を見捨てた煌華に対する強い復讐心がありました。
 それゆえに彼女の誘いを断り、屋上から飛び降りて自殺してしまいます。
「もし死後に生まれ変われるなら、その時は協力する」と語る静音には、煌華の想いを受け入れる余地がありました。
 しかし今は、「最も嫌いな他者」である煌華に、自殺でもって復讐を果たすことを優先したのでした。

 静音の死が描写され、Ep.2は幕を閉じます。


・分割版だと、次回予告が入ります。

 かくして、我儘で寂しがり屋な少女と、その友人であった内気な少女――二人の関係は「一旦」、ここで精算されました。
 ですが、静音はまだ舞台から降りた訳ではありません。
 静音と煌華の想いは、本作の物語の最後の瞬間まで継承されることになります。
 まさしく彼女たちが望んだ存在、「魔王」と呼ばれた少女によって。

 Ep.2は起承転結における「承」を押さえつつ、煌華と静音について重点的に掘り下げた回ですね。
 一見、物語の根本的な謎とは無関係な彼女たちですが、その存在は本作の重要な要素である「魔王」なるものに関わっており、決して欠かすことが出来ないキャラクターとなっています。

 次回はEp.3。これまでの伏線の多くを回収する「解答回」であり、急展開を迎えるパートでもあります。
 静音の素性は判明したものの、煌華についてはまだ明かされていない部分が多いですが、Ep.3にて掘り下げられます。
 彼女はざっくり言うと「世界に対する憎しみ」「静音に対する愛」「零に対する興味」「”所属組織”の方針」の四軸で動いているので、かなり掴み所がないキャラクターなんですよね。(但し、この四つは全て連動しています。)

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