たくさんの私がいる~短編ファンタジー7月
1
「亜紀ちゃん、今、実家にいるの?」
夜、夕飯を食べようとすると、従姉妹の夏美からライン電話があった。
従姉妹の声を聴くのは、3,4年ぶりだ。
「ううん、東京だよ」
実家には、1年くらい帰っていない。
「え、ほんと?
亜紀ちゃんそっくりな人、今日見たよ。
バスが止まってる時でね、そうだ、写メしたのよ。
ラインで送るね」
送られてきた写真を見て、亜紀は目をしばたたいた。
「私だ」
「やっぱり」
「あ、違う違う、私じゃないよ。
でも、私そっくり」
「でしょ?
ほんとに亜紀ちゃんじゃないの?」
夏美はまだ疑っている。
それもそうだ、これだけうり二つなのだから。
「違うよ。
東京にいた」
「へえ。
世界にそっくりな人は3人いるって言うけど、こんなそっくりな人いるんだね」
その後お互いに近況を言い合って、電話を切った。
夏美がDVの夫に苦労していることは母親から聞いていたが、お互いそんなことは一言も言わなかった。
夏美は子どもの頃、かなりわがままだった。
亜紀はそのわがままに、嫌な思いもしたものだった。
それが大人になると、夏美はすっかり良い人になっていた。
良い人になりすぎて、DVの人に見初められてしまったのだろう。
結婚したからと言って、幸せになれるわけじゃない。
けれど、独身女性は東京でもまだまだ肩身がせまい。
ついこの前までちやほやされていたのに、33歳の亜紀はもうお局扱いだ。
田舎に行けばなおさらのことで、何か言われるのが嫌で、夏休みにもお正月にも帰らなかった。
今度の夏休みも、友だちと旅行に行く予定だった。
「いただきます」
冷めてしまった夕飯を、亜紀は一人食べ始めた。
水気のとんだおかゆは、おいしくなかった。
そっくりさんのことは、仕事の忙しさのなかで忘れていくはずだった。
ところが次の日、今度は中学時代の友人からラインがあった。
「今日、T市にいた?」
そして、写真が送られてきた。
なにこれ。
どういうこと?
写真は、亜紀そのものだった。
けれど、亜紀じゃない。
亜紀は、ラインを返した。
「私じゃないよ」
亜紀は、首をかしげた。
実家とT市は離れている。
そっくりさんは、2人いるのだろうか。
それとも、そっくりさんが移動しているのだろうか。
同じ県内だから、移動していても不思議ではないが。
そしてその次の日、今度は高校時代の友人からラインがあった。
「今日、W市にいた?」
どういうこと?
亜紀は、背筋が冷たくなった。
実家とT市は同じ県内だからいい。
けれど、W市は違う県だ。
同じ人が移動しているとは考えづらい。
そもそも私そっくりな人が、こうも私の知り合いに立て続けに目撃されるって、どういうことなんだろう?
このことを友人にラインで送ると、
「なにそれ、気持ち悪い」
少し相手をしてくれたが、
「子どもを寝かしつけないといけないから、またね」
その夜、亜紀はなかなか寝つけなかった。
身体のふしぶしが痛かった。
そして、亜紀のそっくりさんが知り合いに目撃される状況は、6日間続いた。
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