「大叔母からの遺産」2月の短編ファンタジー
1
占星術師の大叔母が亡くなって、遺産が遺された。
享年八十六歳。父の叔母である大叔母は、占い好きの間で大占星術師として有名だった。海外のお金持ちたちにも、幾度も海外に招待されていたほどだ。
十二年前、私は大叔母のように未来を拓こうと、一生懸命勉強して田舎から東京の大学に入学した。なのに結局三十歳にもなって、心療内科に通院する派遣の独身女性にしかなれていない。結珠(ゆじゅ)という名前を付けてくれたのは大叔母だというのに、いったい何が悪かったのだろう。
遺産は大叔母の手配した弁護士から宅配便で届いた。配達員から渡された段ボールは、ワインが入るようなサイズの縦長のものだった。
「高価なネックレスとか?」
どきどきしながら段ボールを開けると、入っていたのは美しい宇宙柄の筒だった。なめらかな手触りで素材もいい。
筒のふたを開けると、すぽんと音がした。
入っていたのは、一枚の紙だった。
「紙? 土地の証書とか?」
けれどそれは、どうやら地図のようだった。まさか、宝の地図っていうわけじゃないよね。
よく見るとそこには、私の人生が書かれていた。卒業証書くらいの紙に、私の人生が細かくびっしり書かれている。不思議なことに、それは過去だけではなく未来も書かれていた。
大叔母は大占星術師と呼ばれていたけれど、同時に魔術師とも呼ばれていた。それは、単なるブランディングだと思っていた。けれど目の前の人生地図は、それが魔術であることを私に見せつけていた。まるでスマホのマップのように、詳しく見たいところを手で触るとぐわんと拡大する。どう見ても紙なのに。
「私の未来はどうなるの?」
なんと私は、三年後の三十三歳で死ぬことになっていた。死因を指先で拡大して見ると、アパートで睡眠薬を大量に飲んでいた。しかも、発見されたのは死後一ヶ月後。
「ちょ、ちょっと、こんな最期、じょうだんじゃないわ!」
思わず大きな声を出してしまった。確かに大学新卒で就職できたのはブラック企業、四年で心を患って退職。それからずっと派遣をしては休みまた派遣をしての繰り返し、心療内科に通院中で恋人もできない。未来が見えない。
これが後三年も続いたら? 死後一ヶ月後にアパートで発見される無残な姿が脳裏に浮かんで、ぞっとした。
「これが大叔母さんからの遺産? こんなのってひどい! 大叔母さんは昔の女性なのに自分の力で活躍してすごいって、憧れていたのに。私だって、東京で頑張りたかったのに! 頑張ったはずなのに!」
平凡な人間ばかりの親族で、大叔母だけがスターのように光り輝いていた。そんな大叔母に憧れて、高校生の頃に熱烈な手紙を送ったことがある。
すると、大叔母の書いた本『占星術入門』と私の生まれた時の星の配置(ホロスコープ)、簡単な解説が大叔母から送られてきた。
そこには、「三十歳で大きく運命が変わる」と書かれてあった。
「何も変わらないじゃない! それどころか、三年後に死ぬなんて!」
涙があふれて視界がぼやけた。
すると、筒が光りだした。
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