「暑い夜に、怖い話はいかがでしょう」7月の短編ファンタジー
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暑い夜に、怖い話はいかがでしょう。これは、実話だと聞いているお話です。
聡美は双子でした。一卵性の双子で性格も似ているはずなのに、なぜか双子の姉の悠美(はるみ)にいつも精神的に抑えこまれてしまっていました。
もう32歳になっても、あれこれ悠美に言われる毎日です。
「その服ダサ過ぎ」から始まり、
「今日の仕事ぶり、何あれ」
まるで会社での仕事を見てきたように、ダメ出しをされます。
「いいかげんにして」
そう強く言い返したいのに、聡美はなぜかいつも言えずに終わってしまいます。
大学入学から田舎の実家を出て、東京に2人暮らし。いいかげん1人暮らしをしたいのに、それも言えません。
これまで彼氏ができそうになっても、悠美にダメ出しをされうまくいかなくなるという繰り返しです。同性の友人すら、悠美の存在にあきれられてうまく作ることができませんでした。
小学校3年時に、友達にはっきり言われたことがあります。
「悠美悠美って、変だよ!」
それから変なうわさが立って、小学中学と聡美は孤立してしまいました。
高校で心機一転して新しい友達を作ろうと思いましたが、うまくできそうなところでやはり悠美にダメ出しをされてしまいました。大学入学、入社でも同じでした。
双子だからって、そんなに生活を支配されることはないんじゃない? 生活どころか、人生さえ支配されているじゃない。
あなたはそう思ったことでしょう。まわりの人もそう言いました。両親でさえ言いました。聡美自身もそう思っているのです。
けれどなぜでしょう。いざ悠美にはっきり言おうとすると、聡美は抑えられてしまうのです。
「あんたの人生は、あんただけのものじゃない」
悠美はずっと聡美に言い続けてきました。聡美はどうしても、そうじゃないと言い返せないのです。
一卵性の双子なのに、なぜこうも性格が違うのでしょう。悠美のようにはっきり言えたなら。そうしたら、私の人生はもっと違ったものになったはずなのに。
聡美はもう32歳です。会社ではそこそこ仕事をこなしていますが、仲のいい同僚はいません。聡美はまわりと距離を置き、まわりも聡美はそういうものだと思って距離を置いています。男性社員も入社当時はあれこれ話しかけてきましたが、30歳近くなると誰も個人的に話しかけてこなくなりました。
このままなのかあ。
このままじゃ嫌だなあ。
でも・・・・。
そんな毎日が、まるで永遠のように続いていました。
「変えたい。人生を変えたい」
あなたももしかすると、そう思ったことがあるかもしれません。35度を超えた猛暑の日、お昼休みに1人で外に出てぎらぎらの太陽に全身の皮膚が焼かれてしまうかと思った時、聡美はふいに心の底から思ったのです。
「このままじゃ嫌だ」
けれどどうすればいいのか、聡美には見当もつきませんでした。
いったい、どうすればいいんだろう。
その時、声をかけられました。見知らぬ40代くらいのきれいな女性です。
「あなた、取り憑かれているわね」
「へ?」
宗教の勧誘かと思いました。足速に立ち去ろうとすると、
「あなた、姉妹が亡くなっている?」
「いえ」
女性はじっと聡美を見つめました。
「本当に?」
「本当です!」
失礼な人だと聡美は憤慨して立ち去り、いつものレストランに入りました。
すると、その女性もレストランに入ってきたではありませんか。
な、何? ついて来たの?
女性はカウンターに座ると、店主の奥さんと話し始めました。
「あら、塔子さん、いらっしゃい。めずらしいいわね。お仕事?」
「近くでお祓いを頼まれて」
奥さんがうなずきました。
「ひっぱりだこでしょ? 塔子さんみたいな本物は、なかなかいないもの」
お祓い? やっぱり宗教とかそっち系の人だ、と聡美は思いました。
なんとなく聞き耳を立ててしまいます。
「うちも塔子さんのおかげで助かったわ。おかげでもうすっきりよ」
「それは、あなた方ご夫婦がきちんと向き合って断ち切ったからよ。私は介助しかできないわ」
奥さんが、スペシャルランチを女性に出します。
「これは、うちからのサービスよ」
「あら、それは悪いわ」
「いいえ! こうしてまだ商売できてるのも、塔子さんのおかげだもの」
よほど信頼されているんだなあと、聡美は思いました。
勘定を支払っていると、塔子と呼ばれていた女性がやってきました。
「もし困ったら、連絡して」
連絡なんてしない、そう思いながらも聡美は名刺を受け取りました。
夜仕事を終えてマンションに帰ると、悠美がすかさず怒りまくりました。
「なんで名刺なんかもらうの! 早く破って捨てなさいよ!」
聡美はいつも不思議でした。どうして悠美はいつも私のすべてを知っているのだろう。まるでずっと一緒にいるかのようだ。
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