次元の穴~11月の短編ファンタジー
~~11月は連載はいったんお休みします。短編ファンタジーをどうぞ。
1
世界は、私たちが思っている以上に複雑にできている。
スマホの文字が、にじんできた。
やっぱり今日もみつからない。
もう会えないの?
もう2度と。
結羽(ゆう)は、スマホを胸にぎゅっと抱いた。
悲しみをなんとかこらえるように。
ラインが鳴った。
「結羽、また次元の穴、探してるの?」
美沙だ。
「あれは、都市伝説の一つだから」
「でも、もしあったら?」
「結羽、もう1年だよ。
新しい人生を考えないと。
会社にいい人がいるんだけど、会ってみない?」
「ごめん、むり。
これからお風呂入るから、お休み」
結羽は、早々にラインを切り上げた。
美沙が心配してくれているのはわかる。
だけど無理。
他の男性(ひと)だなんて。
私には、類しかいない。
大学で初めて類に出会って、ふしぎになつかしい感じがした。
それからつきあいだして、たまにけんかもしたけれど、一緒にいて自然でいられる関係だった。
大学を卒業してお互いに就職して3年、25歳の終わりに婚約した。
式場や新婚旅行をあれこれ2人で相談していた。
お互いの両親も賛成してくれていて、友人たちにも祝福されていた。
本当だったら今頃、結婚して一緒にいるはずだった。
それなのに、神様は残酷だった。
1年前突然、私から類を取り上げてしまった。
いつものようにラインで連絡しあって、それからまたラインをした。
「やっぱり式はあんまりお金かけないで、新婚旅行で楽しもう」
なかなか既読にならなかった。
仕事が忙しいんだな、と思っていた。
そして、彼の両親から電話があった。
営業で外まわりをしている時、車にはねられ病院に運ばれる途中で亡くなったと。
結羽の時間は、その時から止まっている。
現実感が失われてしまった。
見る世界のすべてに、薄いベールがかかっているようだった。
文字どおり、死んだように過ごした。
そして半年後、ようやく希望の小さな光をみつけたのだ。
それは、あるSNSで広まっていた。
次元の穴というものがあって、そこを通れば、死んだ人に会える、と。
体験談もちらほら出ていた。
美沙は都市伝説だと言ったけれど、結羽は伝説だろうがなんだろうがよかった。
ほんの10分の1ミリでも希望が持てるなら、それにすがりたかった。
そうでなければ、結羽には絶望しかなかった。
「新しい恋人を作ったほうがいい。
まだ若いんだから。
人生はこれからよ」
誰もがそう言ってなぐさめようとしたけれど、結羽をかたくなにさせるだけだった。
新しい恋人ですって?
私にとって、類がどんなに大切な人だったかわかりもしないで。
類と私は1体だったのに。
他の人なんて考えられない。
結羽はあきらめなかった。
そして秋の終わり、結羽はようやくみつけた。
次元の穴を教えてくれるという女性を。
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