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誰かが名前を呼んでいる。
眠いのに。
ねっとりした沼の底にいるように眠い。
まただ、また誰かが私の名前を呼んでいる。
眠すぎて、まぶたが開かない。
「みや」
しつこい。いったい誰だろう。
「みや。
みや」
重たいまぶたをやっとのことで開けると、白く透き通った人が空に浮かんでいた。
「え!!」
いっぺんに目が覚めた。
「ゆ、幽霊!」
すると、幽霊が言った。
「幽霊は、みやだよ」
「は?」
思わずすっとんきょうな声が出た。
何を言ってるんだろう、この幽霊は。
「何言って・・」
すると幽霊が、下を指さした。
私は、空に浮かんでいた。
マンションの屋上がはるか下に見える。
「え? 何これ、どういうこと?」
幽霊が答える。
「正確に言うと、まだ正式な幽霊じゃない。
幽体離脱状態ってことだね」
「な、なんでそんなことに?」
「覚えてない?
バイクにはねられたでしょ?」
「え?」
記憶をたどる。
ゆっくりと、記憶が戻ってくる。
そういえば、スーパーからの帰り、突然背中に激痛が走った。
キキーっという音。
それから記憶がない。
あれは、バイクにはねられたのか。
「じゃ私、死んじゃったってこと?」
「まだ確定してない」
「死にかけてるってこと?」
「そういうことだね」
ああそうなのか。
病気もなく健康でまだ21歳なのに、人はこんなふうに死んでしまうんだな。
両親が悲しむだろうな。
すると、幽霊が言った。
「助かる道はある」
「え? そうなの?」
「この子の命をみやにあげれば、みやは助かる」
「この子?」
すると、幽霊の隣にすうっと小学生くらいの男の子が姿をあらわした。
ぐあいが悪いのだろうか、横たわって目を閉じている。
白い着物を着ている。
なんだろう、どこかなつかしい気がする。
「この子の命をみやにあげれば、みやは助かる」
幽霊はもう一度言った。
「21歳で死にたくはないだろう?」
「そうだけど。
でも、この子はもっと若いわ。
9歳くらい?」
「この子は人じゃない」
「人じゃない?」
「そう。雲龍だ」
「うんりゅう?」
「雲に住む龍だ。
この子は雲龍の子どもだ。
弱っていて、どちらにせよこのままだと危ない」
幽霊が、みやの顔をのぞきこむように見る。
「どうだ?
この子の命をもらって、生きながらえるか?」
雲龍の子の命をもらえば、私はまだ生きられるの?
この子は人じゃない。
雲龍の子の小さな肩が、息に合わせて小さく動く。
人じゃなくても、生きている。
「逆はあるの?」
みやは聞いた。
「私の命で、この子は助かるの?」
「助かる」
幽霊が言った。
みやは、ふうっと息をはいた。
「じゃあ、この子を助けて。
私はここで死ぬことになっていたんでしょ?
この子の命をうばってまで、生きようと思わない」
そもそも、私はこの世界にそんなに執着がない。
小さな頃から、まわりと合わなかった。
自分がどこか異人のようにいつも感じていた。
それは母親と合わなかったからかもしれないし、母親だけではなく性質が他のみんなと違っていたからかもしれない。
もうずっと、この世界で深い孤独を抱えていた。
この世界に執着はない。
幽霊が、みやをじっと見た。
怖いくらいに。
「本当に、それでいいんだな?」
「うん」
すると、幽霊の姿がみるみると大きくなった。
はっきりとあらわれた姿は、白い大きな龍だった。
「あっ!」
雲龍の子も、白い龍の姿になっていた。
大きな龍の顔がみやに近づいた。
食べられる!
目をぎゅっとつぶると、ふうっと吹き飛ばされた。
声が聞こえてきた。
「おまえはこれから、この子を守っていくんだ。
この子がおまえを守ってきたように」
*
気がつくと、道路わきに倒れていた。
大勢の人が、みやを取り囲んでいる。
「あ、目を覚ました!」
「だいじょうぶか? 救急車呼んでるからしっかりしろ」
どこも痛くなかった。
血も出ていない。
私、助かってる?
どうして?
結局みやは救急車で病院に運ばれたものの、どこもけがをしていなかった。
「奇跡ですね」
医者も看護師もそう言った。
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