お菓子で小説シリーズ「ザッハトルテ」
お菓子で小説シリーズも残りわずか。
お題「ザッハトルテ」
真っ黒なドレスを着込んだ悪魔のお菓子。とろける濃厚なチョコレートで全身を包み、歯さえ溶かす勢いで濃密な甘さを口いっぱいに広げてくる魅惑のお菓子。
「お嬢様、顔が崩壊しております」
呆れたような視線が痛い。毒舌がウリのこの執事は、香りのいい豆を手に入れたからとホットコーヒーを用意してくれている。
「ねぇ、もう食べてもいい?」
そのキラキラした瞳を向けられて誰が断ることなど出来るだろうか。
「まだ、でございます」
親よりも躾けに厳しい執事に、散々甘やかされて育ったお嬢さまの顔はひきつる。けれど、さすが躾けの賜物。彼女は両手を膝の上にジッと乗せて待っていた。ただ少しばかり、体が前のめりな気がするのは気のせいではないだろう。
それに執事はふふっと上越な笑いを飲み込みながら「お待たせしました」と彼女の横に濃厚な黒い液体を差し出した。