【小説】ハジマリの引き金
「誰か、この子を引き取ってくれる者はいないのか?」
それは、タチの悪いオークションのようだった。
大伯母の葬儀で、その夫……大伯父にあたるゴードンは親族を集めこういい言い放った。
「妻も死んだ。ワシ一人では到底育てられない。そこで誰かにこの子を任せたい」
自分たちが引き取った、14歳の養子・ミューシャを。
始まったのは競りではなく押し付け合いだ。
聞かれてもいないのに、口々にお断りの理由を語りだす。
それは俺も同じ。俺は元々、お呼びでない身だ。
一人帰ろうと席を立つ。
「おお、この娘を引き取ってくれるかイアン」
「え……?」
立ちあがった俺に一同が視線を向ける。例の娘もだ。
「いや、俺は帰らせてもらいます。俺には関係のない話だ」
「ほう、どうしてそう思う?」
「俺は独り身です。子供を育てた経験なんてない」
「独り身? 余計なしがらみがなくていいじゃないか。なに、成人するまでたったの6年だ。6歳児を引き取るよりマシだろう?」
ゴードンは愚かな獲物を逃がす気はないらしい。
「その子の意志はどうなる?」
「! わ、私は……おじい様がいいとおっしゃるのなら、それで……」
そう、うつむき加減に答えた。
つまり、この子の意志も関係ないということか。
「申し訳ないが、他を当たって欲しい」
そう言って扉に向かう。
部屋から出てこの話は終わり。そうなるはずだった……。
「お前たちがどれだけ我々に迷惑をかけたか忘れたか?」
ぴたりと足が止まる。否、動かなくなる。
「それは……」
「兄弟そろって家族に迷惑をかけたのだから、たまには役にたて」
どうやら、俺に拒否権というものは存在しないらしい。
「……ついてこい」
「あ、はい……」
娘は大祖父の前で立ち止まり頭を下げる。
「おじい様、お世話に……なりました」
「いいから早く行け」
「……」
一人来たはずの道を二人で帰る。
この決断が、何かの引き金になるだろう。
その銃口がどこに向けられたのか、俺にはまだ分からない。