【小説】カワイイ私、カワイクナイ私
新しいお洋服が届いた。
看護師のアニーは待ちに待ったそれをノリノリで受け取る。
淡いピンクのチェック柄ワンピースをベースに、フリル付きのエプロンがついている。通販サイトで一目ぼれした、特注品だ。
子供が大好きなテディベアにするように、アニーは届いた洋服に抱きついた。
この服にはどんな髪飾りが似合うだろうか。今はツインテールにしている髪をどうしようか。靴もこだわりたい。そんな思いを巡らせる。
また、インターホンが鳴った。
他に注文した覚えはない。奥からドクターが顔を出す。
「アニー、急患ですよ」
ドクターが言い終わる前に、アニーは短く返事をして届いたばかりの服を片付ける。
彼が奥から出てくる理由はほぼ1つ。急患だ。しかも生死の境をさまようほどの重症患者。
そこからは彼らにとっての日常、他から見れば戦場だった。
緊急手術は数時間にもおよび、アニーの着ている服も血やら何やらでドロドロに汚れた。
彼女はそれでもお構いなしだ。これは戦闘服、そして汚れが落ちやすい特注品だ。
丁寧に洗えば、何がついてたか分からないぐらいに綺麗さっぱり落ちるだろう。
ほどなくして死神は去った。というのは、死神のような姿をしたドクターの口癖だ。
アニーは器具を片付けてシャワーを浴びに行く。
シャワー室には大きな姿鏡があった。そこでアニーの目に映ったのは、キズダラケでカワイクナイ自分の姿。
アニーは自分がどうしてこうなったか分からない。過去の記憶がないからだ。ある日急患としてドクターの元に来るより前の記憶が、キレイさっぱり抜けていた。
シャワーからあがり、先ほど届いた服に袖を通す。
そしたらおしゃれでカワイイ、傷一つない自分の出来上がりだ。