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シャルねる 2023/12/17 08:04

3話:ゴミ掃除

「さっきのは何の音だ!」

 そう先頭に立った騎士が、声を張り上げながら階段を降りてきた。
 男の人の大きな声に思わず体がビクッとしてしまう。
 その瞬間をさっき私が作った子に見られたけど、今の私に恥ずかしがる余裕なんてない。
 ……ただ、私のそんな姿を見たその子の様子が少し変わった気がした。
 
「――しますよ」
「ん? ……なんだお前は。どこから入ってきた」
「――ろす、殺す、コロスコロスコロスコロス」

 その子は突然何かをブツブツ言い出したと思ったら、そんな物騒な言葉を何度も何度も繰り返していた。
 多分、私の為に怒ってくれてるんだろうけど……なんか、言っちゃ悪いけど、怖い。
 いや、なんかもうさっき降りてきた騎士なんかより、よっぽどこの子の方が怖く見えてきたよ。……なんなら、あの騎士達もあの子のただならぬ雰囲気を感じてちょっとビビってるし。

「だ、大丈夫?」

 割とほんとに怖かったから、私は小さい声でそう聞いた。

「ッ、はい! 大丈夫です! 今、このゴミを掃除しますね」

 するとその子は我に返った様子で、そう言った。
 そしてその子の言葉を聞いた騎士たちも我に返ったようで、こんな少女に怯えていたことが恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら持っていた剣を抜き、先頭に立っていたやつが他のやつに何かを言うとほかの騎士たちも剣を抜き、その子に向かって振り下ろそうとした。

「騎士を舐めた事をこ――」
「黙れ。マスターの耳を汚すな」

 その際何かを叫んでいるように口を開けていたけど、何故か途中までしか聞き取れなかった。
 あの子も何か言ってた気がするけど、背中を向けられてるし、それは気の所為かもしれない。

 私がそう不思議に思っていると、騎士達が剣を振り上げたまま一瞬だけ固まり、すぐにその場に倒れた。

「え……うわっ」

 私が疑問の言葉をぶつけようとしたところで、その子が私に向かって可愛らしい笑顔で抱きついてきた。
 私はびっくりして思わず一歩下がった。

「……嫌、ですか?」

 私が一歩下がったのを嫌だったからと思ったのか、悲しそうにそう聞いてきた。

「びっくりしただけで、嫌な訳じゃないよ」

 うん。ほんとにびっくりしただけだ。……だっていきなり騎士の人達が倒れたし。

「これ、あなたがやったの?」

 私は抱きつかれながら、そう聞いた。

「はい! マスターの為ですから!」
「……死んでるの?」
「マスターが怯えていたので、殺しました。……少しだけ、ほんとに少しだけですが、私情も挟みました。……だめ、でしたか?」

 さっきまで笑顔で私に抱きついてきてたのに、急にしょんぼりとして、叱られるのを怯えるかのように最後の方の声が震えていた。
 ……死んだ。……人が目の前で死んだ。
 ……ほんとに、死んでるのかな? 実感が湧かない。だって、倒れた騎士達からは血の一滴すらも流れてないんだから。

「マスター……?」

 その子は私の様子が変なことに気がついたのか、私を心配するように声をかけてくれた。
 
「ふふっ」

 私は思わず笑ってしまった。……その子はなんで私が笑ったのか分からないみたいで、首を傾げていたが、私が楽しそうだからか、その子も笑顔になった。
 
 いや、笑うのはしょうがないよ。……だって、さっきまで私に怒られるかもって怖がってたのに、ちゃんと私のことを見てて、心配してくれたんだから……嬉しくないわけがないよ。

「さっきの話だけど、だめじゃないよ。……むしろ私のためにありがとうね」
「は、はい! 私はマスターの為に生まれてきたので、マスターの役に立つことをするのは当然です!」

 そう笑顔で言ってくれた。

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シャルねる 2023/12/16 08:05

2話:私のことを第一に考えてくれないの?

「え?」

 私は思わずそう言葉がこぼれた。

「どうしましたか? マスター」

 私の声が聞こえたのか、その子は可愛い顔で、こてんと銀の髪を揺らしながら首を傾げた。

「……鉄格子が吹き飛んでる」
「はい! マスターはここから出たいんですよね?」
「え……うん」

 それは、そうなんだけど。……この子がやったの? ……だとしたらどこにそんな力があったんだろう。

「マスター、上から誰か来ますよ。倒しますか?」
「……倒せるの?」
「はい! マスターの願いならなんでも叶えてみせます!」

 多分、降りてきてるのは騎士……じゃなかったとしても、領主の関係者であることは間違いない。……この子が本当に倒せるのかは一旦置いといて、もし、倒しちゃったら私は完全に領主と敵対することになっちゃう。
 かと言って話し合いなんてできるとも思わない。……いや、そもそも逃げる時点で敵対してるのか。
 だったら……

「倒せるのなら倒して。でも、無理そうなら私を連れて今いる場所から逃げて」
「分かりました!」

 ……あ。言ってから気がついたけど、私のスキルでもっと味方を作ったらいいんじゃないの? だって強いようにイメージしたら、少なくとも鉄格子は吹き飛ばせるくらいには強い人を作れる訳だし。うん。どうせなら目の保養に美少女をイメージして作ろう。
 
「スキル、キャラメ――」

 そう思った私は、またさっきみたいにスキルを使おうと、スキルを口にしようとしたところで、さっき作り出した子に手で口を塞がれた。

「ッ!?」

 いきなり何!? 
 私はまた裏切られるのかと、思わず涙目になりそうなのを「……大丈夫。裏切ることは無いはずだから」と無理やり自分に言い聞かせ、落ち着く。

「マスター? 大丈夫ですよ。不安なんですよね? 大丈夫ですよ。私がいれば、私さえいれば大丈夫ですから。……だから、私以外の子なんて作ろうとしないでくださいね? 私以外の愛はマスターには必要ありませんから」

 その子は安心させるような声で優しくそう言って私の口から手を退けた。

 何を言ってるの? ……おかしい。だって、私のことを第一に考えるように生み出したはず。やっぱり私の精神状態がおかしかったから? 

「私のことを第一に考えてくれないの?」

 私は思わずそう聞いた。

「? ……私はマスターのこと以外考えていませんよ?」
「……でも、味方は多い方が良いと思うんだけど」
「ダメですよ。私以外の子からのマスターへの愛なんて偽物です。害にしかなりません。だから、私だけで十分ですよ」

 ……理解した。この子が本気でこう思って言ってるんだと。
 ……絶対私の精神状態が不安定だったから、変な感じに生まれて来ちゃったんだ。
 それは理解した。でも、これだけは聞いておかないと

「一人で大丈夫?」
「もし、本当に仮にですが、私だけでどうにもならない場合はマスターのことが最優先ですから、害虫を作り出して貰ってましたよ」

 害虫って……ま、まぁ、とにかくこの子だけで大丈夫って事だよね。
 
「じゃあ、助けて」
「もちろんです!」

 そこでちょうど騎士の格好をした人達が5人くらいで降りてきた。
 ……大丈夫、なんだよね?

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シャルねる 2023/12/15 08:06

1話:出会い

 約五か月前、私は15歳になりスキルを授かった。
 そのスキルは人を作れるスキルだった。……私は危ないと思った。こんなスキルをもし国や貴族様に知られたら、戦争が起きると思った。だから、私の恋人である人と、家族、親友にしか話していなかった。

 最初はスキル至上主義のこの世界でスキルを隠して生きていけるのか不安だった。……でも、そんな不安はすぐに消し飛んだ。
 楽しかった。幸せだった。……ただ、その幸せは偽りだった。
 
 ある日突然私は、街の衛兵に取り押さえられた。
 そしてそのまま領主様の家に連れられると、私の恋人と家族、そして親友だったはずの人達がいた。
 そいつらは私のことを確認すると、私本人であると証言をし、金を貰って領主の家から出て行った。
 理解が出来なかった。何が起きてるのか分からなかった。……ただ、そんなものは嫌々でも理解させられた。
 領主が私のスキルを知っていた。
 あいつらしか知らない私のスキルを知っていた。……すぐに理解した。売られたんだ。金に目が眩んだ奴らに売られたんだ。
 私の心は何かの間違いかもしれない、と訴えかけてくる。でも、私の理性はそれは間違いなんかじゃないと確信している。……だって、あいつらは私の顔を見て、金を貰った瞬間、笑っていたんだから。

「お前は人を作るスキルを持っている、間違いないか?」

 領主にそんなことを聞かれる。……ただ、私は何も答えない。……答える気力がない。

「おい、領主様の質問に答えないか!」
「……よい。神官を呼んでこい。そうすればすぐに分かる。……それまでは牢にでも入れておけ」
「はっ」

 私はそんな領主の命令で、領主のそばに控えていた騎士によって地下に連れていかれ牢屋に放り込まれた。
 私を牢屋に放り込んだ騎士はすぐに地下から出て行った。

 地面が固くて痛い。腕が痛い。……何より心が痛い。

 これから、どうしよう。……このままじゃだめなことは分かる。……このままじゃ奴○のように使い潰されて死ぬ未来しかないから。ここから逃げなくちゃだめだ。
 でも、どうやって? 私のスキルは強力だとは思うけど、戦闘系のスキルじゃないし、そもそも使ったことがないからどんな人を生み出せるのかも知らない。

 ……今、生み出してみる? いや、それでもし弱かったら? ここから脱出できるほどの力がなかったら? 私の力がバレるだけだ。……あぁ、でも神官に聞きに行くとか言ってたから、バレるのは時間の問題なのか。……だったら、一か八か、ここで掛けるしかないのか。

 最悪、生み出した存在が弱かったら、殺してもらおう。……使い潰されて死ぬよりは100%ましだ。

「スキル、キャラメイク」

 強くて、私を第一に考えてくれて、私以外はどうでも良くて、私をこの場から助けてくれて、絶対に私を裏切らない……そんなイメージをしながら、私はそう呟いた。
 イメージに意味があるかは知らない。だってスキルを使ったのなんて初めてだから。……だから、ただの気休めでしかない。

 すると、私の目の前に光が集まり始め、その光は私と同じくらいの身長の人型となり、銀髪で、赤い瞳を宿した美少女が生まれた。

 私は絶望した。こんな子じゃここから脱出なんて出来るわけが無いと思ったから。

「マスター? 大丈夫ですか?」
「……ここから出して」

 無理だと分かってる。
 それでも、そう願わずにはいられなかった。
 だから、私は思わずそうつぶいた。……それはその子に向かって言った言葉じゃなかった。……ただ、その子は自分に向けられた言葉だと思ったのか、私に許可を求めてきた。

「マスターの願いならば、叶えるのは当然です。ただ、血を貰ってもよろしいでしょうか?」
「……血?」
「はい」

 ……スキルは精神状態に依存するって聞いたことがある。
 私の精神状態が今こんなんだから、スキル、キャラメイクが失敗して、この子も残念な子になっちゃったんだな。
 そう思った私は今すぐこの子に謝りたかった。
 だって、私が勝手に生み出して、役に立たないと分かったら、勝手に絶望するって……最低だ、私。

「好きにして」

 せめてもの償いとして、私はそう言った。

「はい、ありがとうございます」

 その子は笑顔でお礼を言うと、私の手を取り、指に噛み付いてきて、血を吸い始めた。不思議と痛みはなかった。
 そして暫く血を吸うと、段々とその子の白い肌に赤みを帯び始めてくる。
 
「……ねぇ」
「は、はい!」

 私がそう声をかけると、その子は驚いたようで、血を吸うのを一気にやめ、大きい声を上げた。地下室だから、その声は反響した。

 私が声をかけた理由としては、なんかこの子が興奮してるように見えたから。……でも、さすがに気のせいだと思う。……というか思いたい。だってこんな状況だし、いくら私が作り出した存在とはいえ、この状況で興奮されるのはちょっと……

 いや、でもこの子のおかげで少しは気が楽になってきた。
 だから、私がその子にお礼を言おうとしたところで大きい音と同時に、牢屋の鉄格子が綺麗に吹き飛んでいた。

「え?」

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