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シャルねる 2023/12/22 08:06

8話:セナの種族

「身分証はあるか? 無いなら、銅貨三枚で仮の身分証を発行出来るぞ」

 門の前に来た私達は門番の人にそう言われる。
 私は門番の人に話しかけられただけなのに、体がビクッとなってしまった。
 ……何を怖がってるんだ私は。……別にこの人とは、今話すだけで、それ以降に話すことなんてないんだから。……変に怖がる必要なんてない。
 そう分かってはいても、私は思わず体が硬直してしまう。

 一応、ポケットに銀貨一枚は入ってる。……だから、早くそれを渡して、仮の身分証を発行してもらおう。……ただ、渡すだけなんだから、早く渡そう。
 そう頭では思っていても、体が動いてくれない。

「マスター、大丈夫ですか? ……殺しますか?」

 そう思っていると、セナが私の手を優しく握って、小声で、門番の人に聞こえないようにそう聞いてきた。

「大丈夫だから、セナ、ありがとう」

 そうセナにお礼を言って、私はセナの手を握り返した。
 そして、私はセナと手を繋いでない方の手で、ポケットから銀貨を取りだし、門番の人に渡した。

「仮の身分証をお願いします」

 そう言うと、直ぐに門番の人は仮の身分証を二枚と、銅貨四枚を渡してくれ、街に入れてくれた。

「セナ、さっきはありがとね」

 私はセナに改めてお礼を言った。
 もしセナがあの場にいなかったら、私はあのまま何も出来なかったと思う。……銀貨を一枚渡すことすらできなかったと思う。

「……私は何もしてませんよ?」

 セナは小さく首を傾げながら、不思議そうにそう言った。

「ううん。セナのおかげだよ。ありがとう」
「そう、なんですか? よく分かりませんが、マスターの役に立てたなら良かったです!」

 セナと手を繋ぎながら、冒険者ギルドに行こうと歩き出そうとした所で、私は冒険者ギルドの場所を知らないことに気がついた。
 やばい、どうしよう。
 あ、でも、セナなら分かったりしないかな? 人の気配? とかを感じとれるなら、強さとかが分かってもおかしくは無いはず。……強いひとが集まってる所が冒険者ギルドだと思うから。

「セナ、この街で強いひとが集まってる場所って分かる?」
「えっと……全員弱いですよ?」

 私がそう聞くと、セナは遠慮がちにそう言った。

「……皆同じくらいの強さ?」
「あ、いえ、この街の中なら、少しだけマシな人達の集まりはあります!」
「……じゃあ、そこに案内して」
「任せてください!」

 この街の冒険者が弱いのか、セナが強すぎるのか、どっちなんだろう。……セナが自信過剰な可能性もあるか。……セナが強すぎるんだろうな。……セナの強さは知ってるし。正直、世間をあんまり知らない私でも、セナの強さは異常だと思う。……騎士を一瞬で倒したりしてるんだから。騎士の中でも強さはあるだろうけど、騎士になれるだけで、才能の塊だって聞いたことあるし。

 色々考えながら、セナについて行ってると、私のお腹がなった。
 すると、セナが私の方を向いてきて、目が合った。

「き、昨日のお昼から、何も食べてないから……」

 恥ずかしくなった私は、そう言い訳をした。……言い訳というか、事実ではあるんだけどさ。

「や、屋台の匂いとかがさ、美味しそうで……せ、セナはお腹とか空いてないの?」

 顔を熱くしながら、私はセナに問いかけた。

「私はまだ大丈夫ですよ。昨日、マスターの血を飲ませてもらったので」
「そんな吸血鬼みたいなこと言わないでよ」

 セナの言葉を冗談だと受け取った私は、苦笑いになりながらそう言った。

「私は吸血鬼ですよ?」
「え?」

 セナは当たり前の事のように、そう言った。

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シャルねる 2023/12/21 08:06

7話:気を遣ってるわけじゃないの?

 私はセナの体温が暖かくて心地よく、いつの間にか眠っていたみたいで、今目を覚ました。
 目を覚ました私は、直ぐにセナと目が合った。……一瞬だけセナの存在にびっくりしたけど、直ぐに昨日のことを思い出して、セナの存在に安心した。

「おはようございます、マスター」
「おはよう、セナ。……セナはちゃんと寝た?」

 私は街の方を見て、まだ門が開いてないのを確認してから、セナにそう聞いた。
 門が開いてないってことは、まだ朝になったばかりってこと。……そして、セナは今さっき起きた感じじゃない。……寝てないなんてことは無いよね? セナ。

「ね、寝ましたよ?」
「ほんとに? 嘘だったら怒るよ」
「う……ご、ごめんなさい、マスター。……本当は寝てません。……で、でも休みはしましたよ!」

 寝てないのに休んだって意味無いでしょ。
 でも、セナはもしもの時の為に私の護衛として起きててくれたんだよね……

「私の為に起きててくれたんでしょ? だったら今回は許すよ。……と言うか、ちゃんと交代で起きる時間を決めておくべきだったよ。私がちゃんと決めておけば、セナも寝る時間を取れたのに……ごめんね」

 私の危機感が足りてなかった。……昨日は自然と二人で寝るのかと思ってたけど、そんなわけないもんね。
 もし次の機会があったら、今度はしっかりしないと。

「ま、マスター、謝らないでください! むしろ起きてられて幸せでしたから!」
「セナ、気を遣わなくて大丈夫だよ」

 悪いのは私なんだから。……そんなバレバレの嘘をつかなくてもいいよ。
 起きてられて幸せなわけないでしょ。……私だったら絶対寝たいもん。

「気なんて遣ってません! ほんとに幸せだったんです! だ、だって……その、ね、寝てしまったら、マスターの体温を感じられないじゃないですか……」

 セナは少し顔を赤らめながらそう言った。

「い、いや……え? ほ、ほんとに幸せだったの?」
「はい!」

 私はセナの顔をじっくり見るけど、嘘を言ってるようには感じられない。
 
「だ、だから……もし、次野宿することがあっても、こんな感じに……その、マスターの体温を感じさせてください! ……そ、そうしたら私が見張りをしておきますから」
「それは……助かるけど、ほんとに寝なくて大丈夫なの?」
「大丈夫です! 眠ることより、私はマスターを感じたいです!」

 セナが恥ずかしそうにそう言う所を見ると、本気で言ってるんだと分かる。
 ……私も昨日はセナの体温が心地よくて寝ちゃったし、セナもそんな感じなのかな? ま、まぁ、セナが本気でそう思ってるなら、いいか。

「分かった。だったら、もし次こんな機会があったらよろしくね」
「はい! 任せてください!」

 ……次野宿するような時は、テントでも買うつもりだったけど、テントの中からじゃ見張りとか出来ないだろうし、テントは買わなくてもいいかな。
 ……私もセナとくっついてたら寒くないし。

 そして、そんなことをセナと話してる間に、街の門が開いてきた。
 
「セナ、門が開いたから、行こう」
「はい!」

 セナは私をお姫様抱っこしたまま、木から飛び降りる。
 私は衝撃が来ると身構えたけど、衝撃が来ることは無かった。
 私がそれを不思議に思ってる間にセナは街に向かって歩き出した。

「待って、セナ」
「どうかしましたか? マスター」
「下ろして」
「私なら大丈夫ですよ?」
「そうじゃなくて、私が恥ずかしいから」

 流石に街に入って、お姫様抱っこをされたままだと、色んな人に注目されてしまう。
 それは流石に恥ずかしい。
 だから、私はセナにそう言った。

「……分かりました」

 セナは私の命令だからと、渋々私を下ろしてくれた。
 ……そんなに私をお姫様抱っこしてたかったのかな。……まぁ、ここは私たちが逃げてきた街から近いし、すぐに出ていく予定だから。……その時にまたお願い。とセナに言ったところ、セナは笑顔で頷いてくれた。

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シャルねる 2023/12/20 08:06

6話:私もこっちの方が幸せ

「セナ、ほんとに大丈夫?」
「はい! 大丈夫ですよ」

 辺りが暗くなり始めて、私はもう何度目かになるか分からない問答を繰り返す。
 
 セナは大丈夫って言うけど、私をお姫様抱っこしたまま、辺りが明るかった時からずっと歩きっぱなしなんだよ? そりゃ心配にもなる。

「無理はしないでね」
「はい!」
 
 うん。……元気そうだね。
 と言うか、まだ街に着かないの? 確かに私は、あの街から出る気なんてなかったから、他の街の場所なんて知らないけど、これだけ一直線に進んでたら街が見えてきてもおかしくないと思うんだけど。
 ……実際は街が見えるどころか、街道すら見えない。……それに、魔物や動物も一匹も見ない。

「マスター、大丈夫ですか?」

 私がそう思って、少し不安になってきた所をセナがそう声をかけてくれた。

「大丈夫、なんだけど……全然街が見えてこないし、魔物とか動物とかを一匹も見ないから、ちょっと不安になってきちゃって」
「街なら、もう少し進んだ場所にありますよ。……それと、魔物や動物が居ないのは、私の事を恐れて、近づいて来ないんだと思いますよ」

 セナは私を安心させるように、そう言う。
 ……取り敢えず、一つずつ聞いていこうかな。

「えっと、取り敢えず……街の場所、分かるの?」
「はい! 人間や他の亜人がいっぱいいる所が街だと思いますので」
「それは、私もそうだと思うけど、ここから分かるの?」
「分かりますよ」

 凄すぎない? ……ここからどれくらい進んだところに街があるのかは分からないけど、少なくとも目視は出来ない距離って言うのは分かる。……その距離から、他の人の気配? を感じとるなんて凄いね。

「じゃあ、私の事を恐れてっていうのは?」
「それはそのままの意味ですよ」

 ……野生の本能的な感じなのかな? セナが強いのはもう分かってるし。
 まぁ、魔物に会いたい訳じゃないし、別にいいか。むしろ会わない方がいい。襲われるし。




 そうしてしばらく歩くと、私にも街が見えてきた。

「見えてきましたよ。マスター」
「うん。私にも見えてきたよ。……でも、今日は街に入れないね」
「そうなんですか?」

 セナが不思議そうに聞いてくる。

「うん。夜は街に入れないんだよ」

 夜は本来なら魔物が活性化して、危なくなるはずなんだよ。……今はセナがいるからそんな実感全くないけど。……正直私も夜に外に出たことなんてないから、魔物の活性化っていうのがどんなものか知らないけど。
 でも、夜は街の門が絶対に開かないことを私は知ってる。私が貴族とかならともかく、平民の私の為に門は開いてくれない。

 だからこそ、野宿になるわけだけど……野宿の道具なんて何も持ってない。……セナがいるから、魔物の危険が無いのだけが救いだ。

「マスター、私ならあんな壁くらい乗り越えられますよ」
「……いや、乗り越えたところで、私達は身分証を持ってないから、何も出来ないよ」

 身分証が無いと、宿に泊まることすら出来ないしね。……私も一応身分証くらい持ってたんだけど、あの街に置いてきたから。
 ……あ、でも、身分証を作るには、名前が無いとだめだ。……いや、冒険者になって、冒険者用の身分証なら、名前が無くても作れたはず。……よし、冒険者になろう。どうせお金も稼がなくちゃいけないし。
 ……私に力なんて無いけど、セナが居れば大丈夫かな。……セナに頼りっきりになっちゃうけど、それは許して欲しい。

「セナ、今日は野宿だよ。だから、取り敢えず下ろして」
「マスターはこのまま眠ったら大丈夫ですよ」

 いや、それじゃあ、セナが眠れないじゃん。
 そう思った私は、それをそのままセナに伝えた。

「大丈夫です」

 そう言ってセナは私をお姫様抱っこしたまま、ぴょんっと飛び上がり、木の上に座った。

「これなら私も休めるので大丈夫ですよ」
「……ほんとに大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫ですよ。それに、私はマスターと離れるより、肌をくっつけてる方が幸せです」

 セナが頬を染めながらそう言った。

「そ、そう……わ、私もこっちの方が幸せ、だよ?」

 私も頬を熱くしながら、そう言った。……セナとくっついてる方が私も暖かいし。

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シャルねる 2023/12/19 08:05

5話:名前

「今更なんだけどさ」
「どうしましたか?」
「いや、名前聞いてないなって」

 ほんとに今更だけど、私はこの子の名前を知らない。
 だから、名前を聞こうと、お姫様抱っこを未だにされながら、私はそう言った。

「私に名前はありません」
「え、ないの?」
「私はマスターに作って貰いましたので」

 そっか、そういえばそうだよね。……あの時名前を考える余裕なんてなかったし。

「じゃあ、私が名前をつけていいの?」
「も、もちろんです!」
「分かった。……ちょっと考えるから、このまままっすぐ進んでて」
「はい!」

 名前なんて考えたことないからなぁ。……真剣に考えないとね。
 まずは特徴から考えてみようかな。銀髪で赤い目……あれ? よく考えたら吸血鬼の特徴じゃない? ……いや、そんなわけないか。だって、今、日光の下を歩いてるんだから。

 変な事考えてないで、早く名前を考えよう。
 
「よし、思いついた。……あなたの名前はセナ」
「ありがとうございます! マスターからの二つ目のプレゼントです! 大事にしますね」
「うん。……これからもよろしくね、セナ」
「はい!」

 良かった。気に入って貰えて。……正直に言ったら、セナの見た目が吸血鬼っぽいから、有名な吸血鬼の始祖から名前を取ったんだよね。……ま、まぁ、気に入って貰えてるし、いいか。

 あれ、そういえばさっき血を吸われたような……い、いや流石にありえないよね。……さっきも思ったけど、日光の下を歩いてるんだし。そんなのそれこそ始祖の吸血鬼だもんね。

「ど、どうかしましたか?」

 私が無言でセナの事を見つめていると、頬を赤くしながら、そう聞いてきた。
 うん。こんな可愛い子がそんな怖い存在なわけないね。

「ううん。なんでもないよ」
「そうですか?」
「うん。……それより私の事運びながらで疲れない? 疲れたなら全然休んでもいいし、私も歩くよ」

 時期に追っ手が来るかもしれないけど、そんなにすぐには来ないと思うし、私はそう言った。
 追っ手がもう来てるなら、正直私は体力がないし、運動神経もないから、このままの方が早いから、このままがいいけど。

「大丈夫ですよ。マスターは軽いですし、私がもっとこのままでいたいんです」
「そう? ならいいけど、疲れたら正直に言ってね。怒ったりしないから」
「はい! 分かりました。」

 無理をさせたい訳でもないしね。
 
「あ、そういえばなんですけど、マスターの名前を聞いてもいいですか? マスターはマスターですけど、知っておきたかったので」

 私の、名前……私の名前は……

 ……もう、あの人たちを自分の親だとは思えないし、あの人たちに貰った名前なんて要らない。だから、新しい名前を自分で考えようと思ったけど、今はいいや。

「私の名前は無いよ。私は、セナのマスター。それだけで充分でしょ?」
「確かに、そうですね。マスターはマスターです!」

 セナがそう言ってくれるのは嬉しいけど……自分で自分のことをマスターって言うの恥ずかしいな。
 もちろんセナに言われるのはいいんだけどね。

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シャルねる 2023/12/18 08:05

4話:心が埋まっていく

「じゃあ、早くここから出よう」
「はい!」

 そうやって私たちは階段を上がって、地下から出た。
 すると、地下から出た瞬間にその場にいたメイドと目が合った。

「あ」
「殺しますか?」
「へ?」

 そのメイドは私たちが地下からでてきた驚きと、単純に物騒な言葉が聞こえた恐怖で目を丸くしてびっくりしている。

「殺さないから、早くここから逃げよう」

 さっきの騎士はともかく、メイドがいたところで何も出来ないでしょ。
 そんなことしてる暇があったら早く逃げよう。

「だ、誰かっー!」

 突然メイドがそう叫び出した。
 
「……やっぱり殺しますか?」
「だめ。早く逃げよう」

 そうして私たちはそのメイドを放って走り出すんだけど……私の足が遅すぎる。……そもそも体力がない。

「ま、待って……」
「はい、どうかしましたか? マスター」
「……私のことを運びながら逃げられる?」
「はい! もちろんです!」
「じゃあ、お願い」

 そう私が言うと、お姫様抱っこをされた。
 ……背中に乗せるとかじゃないんだ。

「しっかり捕まっててくださいね」
「あ、うん」

 そう言われたので私はその子の後ろに手を回して、落ちないようにする。
 すると私の胸がその子に押しつぶされるように当たってしまう。
 そんなに大きいわけじゃないけど、中くらいはあると思うから、邪魔じゃないかな?

「あっ、んっ……ん」

 その子は、まるで口元がニヤけそうになるのを我慢するように、声を上げた。
 まぁ、そんなわけないか。

「大丈夫?」

 そんなわけは無いから私は単純に体調が悪いのか、私が重いからなのかと思い、そう聞いた。

「だ、大丈夫です! あ、で、でももうちょっと強く捕まっててください。お、落ちないように」
「分かった。けど、痛くない?」
「大丈夫です!」

 私は更に力を込めて、落ちないようにする。
 
「ふへへ」

 すると、その子からそんなだらしない声が聞こえた気がした。
 だから私はその子の顔をのぞき込んだ……けど、そこには笑っていた様子なんて一切ない普通の可愛い顔があるだけだった。
 
「どうかしましたか?」
「なんか、変な声出さなかった?」
「……気のせいだと思いますよ」

 気のせい……だったのかな。
 まぁ、こんな状況であんなだらしない声なんて出さないよね。
 



「どこに向かいますか?」

 屋敷を出たその子がそう聞いてくる。

「取り敢えず、この街から出たい」
「分かりました!」

 私の生まれ故郷ではあるけど……こんな街、居たくない。……まぁ、領主に目をつけられた時点でこの街には居られないんだけどさ。
 いや……街自体は嫌いにはなれないや。……ただ、この街にいる人の何人かが嫌いだ。
 
「マスターには私がいますよ」
「……うん」

 何も言ってないのに、そう声をかけられた私の心は一気に軽くなった。

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