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シャルねる 2024/01/10 08:13

23話:よく分からないけど、セナは凄い

 街の門を通る時に、さっきと門番の人が変わってたのに気がついたけど、別にどうでもいい事だったし、特に気にしないで近くの森にセナと一緒に行った。

 この前と同じで、やっぱりセナのオーラ? 的なので魔物が出てこない。……この街に来る時もそんな感じだったし、分かってたんだけどさ。

「セナ、この前みたいな感じでセナだけで狩ってきていいよ」
「……分かりました。すぐ戻ってきますから、動かないでくださいね?」

 セナは心配そうな顔でそう言った。
 セナが過保護なのはもう分かってるから、どうせすぐに戻ってくるんだろうなぁ、と思いながら頷くと、セナが目の前から消えて、不安な気持ちが出てきそうになるけど、そんな気持ちが出てくる前に血飛沫ひとつ浴びてない綺麗なセナが目の前に現れて、私に抱きついてきた。

 わざわざ私に見えるように抱きついてくれたセナに感謝しながら、私もセナを抱きしめ返した。

「そう言えば……討伐部位持ってきた?」

 セナが満足してくれた辺りで、私は抱きしめるのをやめて、そう聞いた。
 
「はい! ちゃんと持ってるので、安心してください」

 どこを見てもセナが討伐部位を持ってるようには見えないけど、セナがそんなすぐにバレる嘘なんて……いや、すぐにバレない嘘でも言うわけが無いから、セナに改めてお礼を言いながら頷いた。
 
「うん。じゃあ戻ろっか」
「はい!」

 私は指は絡めてないけど、セナの手を握って、歩き出した。

 門を通る時に冒険者の身分証をまた見せたけど、さっきとは違って、バカにするような目では見られなかった。別にそんな目で見られても気にしないけど、見られないに超したことはないし、さっきの人じゃなくて良かったと思いながら冒険者ギルドに戻った。



「……一度受けた依頼を取り消す場合は罰金が発生しますが」

 まださっきの受付の人が居たから、その人の前に行くとそう言われた。
 私たちは完全な手ぶらだし、見た目も見た目だから、こう思われるのは仕方ないよね。と思いながら、私はセナの方を見た。
 すると、赤黒い渦のような私には理解できないものが受付の人の前に出てきて、そこからゴブリンやオークの討伐部位が大量に出てきた。

 そんな様子を見た受付の人は、目を見開いて動かなくなってしまった。……適当にお酒とかを飲んでた冒険者達も一気に静かになっていたけど、私はそんなこと特に気にせずに、セナに向かって言う。

「凄いね」

 具体的に何が凄いのかは全然分からないけど、凄いことだってのは分かったから、私はそう言った。

「えへへ」

 セナは私に言われた言葉が嬉しかったのか、嬉しそうな声が漏れ出ていた。

「あの、早く依頼達成の報酬をください」

 受付の人が回復するまで待つのが嫌だったから、私がそう言うと、頭を下げながら「し、少々お待ちください」と言って、奥の方に消えていってしまった。
 ……いや、普通に早く報酬を早く渡して欲しいんだけど。

「……私が取って来ましょうか?」

 私のそんな気持ちがセナに伝わったのか、さっきまでの嬉しそうな感じとは打って変わって、苛立ちを含んだ声で、私に聞いてきた。……もちろんその苛立ちが私に向けられたものじゃないのが分かるように。
 私はセナに大丈夫と言って、首を横に振っておいた。
 だって、実感は全然ないけど、私たちはただでさえ追われてる立場なのに、そんなことをして冒険者ギルドにまで追われることになったら、堪らないから。
 ……まぁ、どうしても、本当にどうしても無理な要求をされた場合、セナが大丈夫って言ってくれたら断るけど。

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シャルねる 2024/01/07 08:03

22話:私に出来ること

 私達は歩ける限界くらいまでくっついて、冒険者ギルドに行くために宿を出た。
 正直、恥ずかしい気持ちはある。でも、それ以上にセナの近くに居れて嬉しい気持ちが勝っているから、気にしないようにして、歩いていると、セナが急に笑を漏らし出した。

「えへへ」
「セナ? どうしたの?」
「マスターがさっき言ってくれた言葉を思い出して、嬉しくなっちゃったんです」

 セナは可愛い顔でそんなことを言ってくる。
 ……セナが喜んでくれるのは嬉しいけどさ、わ、私が恥ずかしいんだけど。
 さっき嬉しい気持ちが勝ってるから、恥ずかしい気持ちなんて気にしないようにするって思ったばっかりだけど、これは恥ずかしいよ……

「わ、私も、う、嬉しかった、よ?」

 顔が熱くて、耳の先まで熱くなってきてるのを我慢しながら、私はセナにそう言った。
 すると、セナも私みたいに、恥ずかしそうにしつつも、嬉しそうに、手を繋いで、指を搦めてきた。
 ……特に抵抗する理由もないので、私はそれを受け入れながらセナに案内してもらって、冒険者ギルドに向かった。
 
 ギルドに入ると、視線を集めたりしたけど、特に話しかけられることはなかった。……良かったと思いながら、適当な依頼を取って、受付の人に持って行った。
 討伐系の依頼だったから、武器も何も持ってない私たちでできるのかという目で見られたけど、何も言われずに受けさせてくれた。
 多分、冒険者は何が起きても自己責任だからなんだろうけど、私的には変に心配する振りをされるより、よっぽどいい。

「セナ、行こ」
「はい!」

 セナにそう言って、街の門に向かう。
 ……私がいたところで何も出来ないんだけどさ。……セナから離れたくなかったんだから、しょうがないよね。……あ、でも、囮くらいならできるかも。セナなら絶対助けてくれると思うし。
 いや、セナが囮を必要とする相手なんて、街の近くにはいないか。

「セナ、私は何もすることがないし、囮でもしようか?」

 いないとは思うけど、そういう魔物とかに街を滅ぼされたっていう話を聞いた事あるし、いる可能性だってあるから、一応、セナにそう言っておいた。

「絶対だめです! マスターを囮にするなんて、有り得ません!」

 セナは私の言葉を最初理解出来てなかったみたいだけど、直ぐに理解したみたいで、絶対にダメだと訴えかけてきた。
 私的にはセナが居たら全然大丈夫なんだけど、セナ的にはダメだっみたい。
 
「そっか、変なこと言ってごめんね」
「大丈夫です。ただ、もう変なこと言わないでくださいね」
 
 変なことを言ったつもりはないんだけど、素直に頷いておいた。

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シャルねる 2024/01/05 08:10

21話:近くにいたい

 少し歩くと、すぐに料理が出てくる宿屋が見つかった。
 すぐに見つからなかったら、その辺の人に聞かなくちゃだめだから、すぐに見つかって運が良かったなと思いながら、セナと一緒に宿屋に入った。
 そして、一人部屋を借りてから朝食を頼むと、すぐに借りた部屋に持ってきてくれた。……私たちが一人部屋を借りたからか、セナの方を見て不思議そうにしていたけど、何も言わずに戻って行った。
 
「マスター、美味しいですか?」
「うん。美味しいよ。……ただ、もう手持ちのお金が銅貨八枚しかないよ」

 だから、強○的に一人部屋を借りるしか無かったんだよね。……まぁ、お金があったとしても、この前みたいにセナが節約のためにって言って、一人部屋を借りたかもしれないけど。

「だったら、私がお金を稼いできますよ。マスターはここでゆっくりしててください!」

 セナはそう言って、部屋から出ていこうとする。
 私はそんなセナを咄嗟に抱きしめて、止めた。
 
「ど、どうかしましたか? マスター」

 ……抱きついてから思ったけど、普通に手を取るだけでもセナは止まってくれた気がするけど……ま、まぁいいや。

「わ、私も行くから、待ってて」
「マスターがいてくれるのは嬉しいですけど、私は一人でも大丈夫ですよ。マスターは休んでてください」

 セナがそう言うのを聞いて、私は思わず、セナを抱き止めてる腕に力が入ってしまった。

「ま、マスター?!」
「わ、私が、セナの近くに、居たいの……邪魔、だろうけど、セナから離れたくないの……」

 私は少しづつ恥ずかしくなってきて、目から涙がこぼれ落ちそうになるのを必死に我慢しながら言った。
 セナに早く何かを言って欲しい。……私はこの沈黙の時間が無限に続くような錯覚に陥りながら、セナの言葉を待った。
 セナに拒絶されたくないという思いから、更にセナを抱きしめる腕に力が入ってしまっているけど、セナからしたら私の力なんてたかが知れてるから、大丈夫。

「マスターが邪魔なわけありません! わ、私も、マスターと離れたくない、ですから。……だ、だから、マスターにそう言って貰えて、う、嬉しいです!」

 そう言って、セナからも抱きしめてくれた。
 そんなセナの顔を見ると、顔を赤らめながら、嬉しそうにはにかんでいた。

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シャルねる 2024/01/04 08:06

20話:幻聴?

「マスター、朝ですよ。門が開きました」
「んっ」

 耳元でセナに優しくそう言われ、私は目を覚ました。……起こしてくれるのは嬉しいんだけどさ、耳元で言わなくて良くない? ……変な声出ちゃったんだけど。

「あ、ありがと。は、早く行こ」

 私は変な声を出したことを誤魔化すために、そう言ってセナを急かした。
 私が起きると、また木の上にいたから、セナに降ろしてもらい、一緒に街に歩き出した。

「マスター」
「どうしたの?」
「さっきの声、可愛かったですよ」
「よ、余計なこと言わなくていいから!」

 私はセナにそう言われたのがちょっとだけ嬉しい気持ちを抑えながらそう言って、恥ずかしい気持ちを隠すために、歩く速さを上げた。
 
 門が近づいてきて、門番の人が見えてきた時に、私はセナが近くにいないと不安だったから、歩く速さを戻したんだけど、そんな事しないでも、セナは隣にいた。

「マスター、大丈夫ですか?」

 私が、一昨日の夜から何も食べてないからか、いつもよりも心配してるような声色で、そう聞いてきた。

「うん。大丈夫」

 セナがいるから。
 言葉に出したわけじゃないけど、何となくセナにも伝わったのか、セナは嬉しそうにしながら、私の隣を歩いてくれた。
 そんなセナの手を握って、私は門番の人にこの前発行してもらった冒険者用の身分証を見せた。

「通っていいぞ」

 私たちの見た目を見て、こんな小娘たちに冒険者なんてできるのか、みたいなバカにするような目で見られたけど、無事に通してくれた。
 まぁ、女の子だし、私もセナも強そうには見えないし、仕方ないかな。

「マスター、髪にゴミがついてますよ」

 門を通って、まだギリギリさっきの門番の人が見える位のところで、セナがそう言って、私の顔に抱きつくようにしてきた。……耳も塞がれちゃって、声が聞こえづらいんだけど。

「お、俺の腕が――」
「マスター、取れましたよ」

 セナがそう言って、私に抱きつくのをやめた。……ゴミを取るだけなら、顔に抱きついたりしなくていいと思うんだけど、まぁいいや。……セナだし。

「セナ、ありがと。……後、何か門の方から聞こえなかった?」

 セナが私に抱きつくのをやめるちょっと前くらいに、なにか聞こえた気がしたんだよね。

「気のせいじゃないですか?」

 セナは、こくんと可愛く首を傾げながら、不思議そうにそう言った。
 耳を塞いでないセナがそう言うってことは、多分気のせいだったんだろうな。

「そうだよね。変なこと言ってごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ」

 お腹がすきすぎて、耳にまで影響が出ちゃったのかもしれない。
 そう思った私は、セナを連れて朝食を食べるために、料理も出てくる宿を探すことにした。

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シャルねる 2024/01/03 08:07

19話:元はと言えば

 セナが私を運んで歩いてくれたおかげで、街が見えてきた。……夜だから、門が開かなくて入れないけど。
 そして、それと同時に私のお腹がなった。

「い、今のは、ち、違うよ?」

 その瞬間、私は恥ずかしくなって、セナに言い訳をした。
 
「マスター? お腹すいたんですか?」
「ち、違うから。い、今のは私じゃないから」

 セナと私以外に誰もいないのに、私はそんな言い訳をした。
 セナはそんなバレバレの言い訳をした私を、可愛い顔で見つめてきた。……私は更に恥ずかしくなって、顔が熱くなってきた。だから私は、セナの首の後ろに腕を回して、セナにくっついて、セナから私の顔を見られないようにした。
 ……胸が邪魔で、だいぶセナに押し付けちゃってるけど、セナなら痛くないと思うから、大丈夫。

「ま、マスター、お、お腹がすいたのなら、わ、私が適当に動物を狩って来ますよ」

 セナは何故か恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな声でそう言ってくる。
 ……私が恥ずかしいはずなのに、なんでセナが恥ずかしそうなの。

「……捌いたり、出来るの?」
「そ、それは……出来ない、です……」

 さっきまでの嬉しそうな声とはうってかわり、セナは悲しそうな声でそう言った。
 その声を聞いた私は、セナにまだ熱い顔を見られないようにしながら、セナの頭を撫でながら言う。

「セナ、大丈夫だから」

 昨日も我慢できたんだし、今日くらいは大丈夫だと思う。
 そう思って、私はセナに安心させるように言った。
 まぁ、元はと言えば、私が食料を持ってこずに、街を出たのが悪いんだし。

「で、でも……マスターが何も食べてなくてお腹がすいてるのに、私だけ、マスターの血を飲んじゃいましたし……」
「そういう約束だったし、私から飲んでって言ったんだから、気にしなくていいよ」
「で、でも……もう、無理やり街に――」

 気にしなくていいって言ってるのに、何かを言おうとしてくるセナをちょっと強めにギュッとして、何も言わせないようにした。

「セナ、今日はもう寝るね。明日、門が開いたらすぐに起こしてくれたらいいから」
「で、でも……」
「どうせ今日は入れないし、さっさと寝て、明日になったらすぐに朝食を食べるからさ」

 そう言うと、セナは不満そうにしつつも、受け入れてくれた。
 私はセナにお礼を言いながら、目を閉じた。

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