12話:夕食
宿も取れたということで、私たちは夕食を食べに、お店に来ていた。
「セナは何を食べる?」
「私は大丈夫なので、マスターが食べてください」
……いやいやいや、いくら私でも、それは無理だよ。
だって、私何もしてないんだよ? セナが働いて稼いでくれたお金で、私だけ夕食を食べて、セナが食べないなんてありえないでしょ。
「大丈夫ってことないでしょ。食べないと」
「マスター……その、私の種族を思い出してください」
セナは小声で、他の人に聞こえないように、耳元でそう言ってきた。
耳元で話されて、変な感じになっちゃったけど、それを無視して、私はセナの種族を思い出す。
そっか、吸血鬼だもんね。……食べられないのか。
「そういうこと」
「はい。そうです。……それで、なんですけど……もし、マスターがよろしければ、後でマスターの血を飲ませてくれませんか? ……あっ、だ、だめなら大丈夫ですから!」
セナは遠慮がちに、また耳元でお願いしてきた。
「もちろんだめなんかじゃないよ。部屋に行ったら、飲んでいいからね」
「は、はい!」
だめなんて言うわけが無い。
セナのおかげで私は今、夕食を食べられるんだから。
「じゃあ、私だけ頼むね」
そうセナに言ってから、私は適当な料理を頼んだ。
その際、私の分だけを頼むのを、怪訝そうな目で見られてしまった。
あの人の目で気がついたけど、事情を知らない人から見たら今の私ってかなり性格が悪いよね。セナの前で私だけが夕食を食べるんだから。
い、いや、他人の目なんて気にせずに、食べよう。
そう思った私は、怪訝な目で見られながら、夕食を食べ終えた。
そして、その間セナは、私の食べている所を幸せそうに見ていた。
……正直それが一番恥ずかしかったかもしれない。
「美味しかった」
私はそう言いながら、宿の借りた部屋に入った。
そして、部屋に入った私は、宿屋の人に貰ったお湯が入った入れ物にタオルを入れ、タオルをよく絞ってから取り出す。
「セナ、私が体を拭いたら血を吸っていいからね」
「あっ、ま、待ってください!」
服と下着を脱いでから、そう言って私が体を拭こうとしたところで、セナが妙に顔を赤らめながらそう言った。
「どうしたの?」
私は手を止めて、そう聞いた。
「あ、えっと……拭く前に、飲みたい、です」
セナは耳の先まで真っ赤にしながらそう言った。
いや、まぁ私としてはいいけど、そこまで恥ずかしがることかな? ……吸血鬼的には恥ずかしいのかな。
「いいよ」
能天気にそう考えた私は、指をセナに向けながら、そう言った。
あの牢屋で飲まれた時と同じ感じだよね。
あの時はまさかセナが吸血鬼なんて思わなかったなぁ……そもそも、セナがこんなに強いことすら知らなかったし。
「あ、あの、マスター……」
「ん? 飲まないの?」
「あ、あの時は緊急だと思ったので、指から飲みましたけど、ほ、ほんとは……く、首元から飲みたいです……」
セナは更に顔を真っ赤にさせながら、言いにくそうにそう言ってきた。
まぁ、私的には、そうなんだって思うだけだ。
「うん。いいよ」
私は、首元の髪を退けながら、そう言った。
「あ、後ろ向いてた方がいい?」
「い、いえ、そのままで大丈夫です」
セナはそう言いながら、私に近づいてくる。
私は少し痛いのを覚悟して、目を閉じた。
「ひゃっ」
すると、首元をセナに舐められた。
噛まれて痛いのを覚悟していた私は、びっくりしてそんな声が漏れてしまった。