なつき戦史室 Sep/29/2024 09:03

クラウゼヴィッツ、加藤秀治郎訳『完訳 戦争論』を読んで

クラウゼヴィッツ、加藤秀治郎訳『完訳 戦争論』上下巻(日本経済新聞出版、二〇二四年)読んだ。

訳の巧拙は問わない。他の人の判定に譲る。いちいち確認していては、いくら経っても最後まで読めないからだ。

もう一点、わたしはクラウゼヴィッツ研究者でもないし、七年戦争やナポレオン戦争にも詳しくない。なので筋の通った文章を書くに知識が足りないので、さしあたり箇条書きで記す。


・既訳よりも比較的読みやすく、通読しやすい。

・そうは言っても戦争に関する素材集なので論旨が理解しにくい。

・上巻は第五編までだが、現代で重要なのは第一編と第二編。それ以降は現代と事情が異なってくる比率が高くなる。

・通して読むと、“流血の覚悟なしに勝利はない”ことを何度も何度も強調して書いている。自戒なのか、警句なのか。著者は、ナポレオン戦争より前の迂回合戦時代を念頭に置いているのだと思うが、再三出くわすので機略戦を批判しているのかと思えてくる。

・戦史について鋭い意見も参考になる。

・西洋戦史を知っていないと全く内容を理解できないだろうし、研究者による参考書を読んで補助線を引いておかないと当惑すること間違いない。

・マイケル・ハワードは『クラウゼヴィッツ「戦争論」の思想』でこう述べている(同書一一五~一一六頁)。「とくに『戦争論』の提言、すなわち最終編の第八編である「戦争計画」で軍事行動に関して具体的に行っている提言は、クラウゼヴィッツが第六編で防御に関して深く考える中で導き出した原則と照らし合わせることで、はじめて理解できるものだ。クラウゼヴィッツは第六編で非常に包括的な考察を行ったため、続く第七編「攻撃」では新たに付け加えることがほとんどなかった。」

・ハワードが重要と言う第六編 防御はあまりにも眠気を誘い、理解するのが難しかった。戦術次元のことが多くなるので当時の戦争を詳しく知っていないとさらに難しい。

・第六編 最終章からいきなり目覚めたかのような書きぶりに変わったのには驚いた。前述のハワードの意見もなるほどと思う。第六編の最初の数章を書き直して未完のままなのだろうか。

・第七編、第八編は覚醒後の書き方のように感じる。政治と戦争の関わりをハッキリと自覚して書かれてある。


さいごに。上下巻通読してわたしには抄訳版で十分だなとわかった。レクラム版の加藤訳を出してくれたらうれしい。

戦争論を通読してみようと思ったのは、エミール・シンプソン(吉田朋正訳)の『21世紀の戦争と政治』でクラウゼヴィッツ戦争論が枠組みの深いところで援用されていて、疑問点があったためで、年内にはこちらの感想を上げたい。本当に名著なのでおススメする。ただ、川村康之『60分で名著解読クラウゼヴィッツ「戦争論」』ぐらいは読んでないと混乱するかもしれない。

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