いがらしみきお「I」


いがらしみきお「I」

作者の代表作のほのぼの動物ほんわかギャグ漫画『ぼのぼの』みたいな感じを
期待して読み始めた人は、トラウマ級の衝撃を受けたであろう
昭和30年から平成23頃までの史実の日本が舞台のフィクションです。

テーマはひたすら『生とは何か』『死とは何か』『神とは何か』を描いており

医者の家系に生まれ、何不自由ない暮らしをしながらも常に『自分とは何か』を思索している『雅彦』と
生まれてすぐ両親と死別し『社会』の枠組みの外側にいる存在で、一切の教育も受けていない、シャーマニックな不思議な力を持つ『イサオ』の
二人の成長や人生を描いた青春ライフストーリー…

と呼ぶには余りにも深く、哲学的な、『見てはヤバいと呼ばれる領域』を
まざまざと直視させられる様な『実存ホラー』と言ってもいいほどのシロモノです。

家族と食卓を囲み
テレビのニュースの中の出来事だけに『学生闘争』を見て
バラエティーの『コント55号のなんでそうなるの』を皆で笑い
恋人とデートで映画『卒業』見にゆくような田舎の普通の青年の
平凡な日々の暮らしのドラマの傍らで、心の中やモノローグでは

『この人たちは誰なのだろう。そしてこの世界。ここは一体どこなのだろう』
『同じ世界にいるのに誰の事もわからない 
皆ほんとに同じ世界で生きているのだろうか』
『なぜ生まれてきたのか なぜ生きていくのか』
『なぜ死んでしまうのか だれも知らないままだ』

の様な離人的な(メタとは違う)観察者のような観点で
他人や世界との隔離的な独白が綴られています。

そんな折

自ら呼吸を放棄し、息と共に心も体も鎮まった臨死状態のイサオに触れながら
その状態をエンパスし、自分、自我、自意識、各『自』を超えた所で初めて
世界とのつながりを認識します。

そして、そこで感じた『神』を模索しに、イサオと共に旅に出ます。

子供の出来ない農家や、宗教的な農業コミューンをまわるうち
雅彦は様々な深淵を覗くことになる。

この物語において『神』は

『自然の全て、そしてそのシステムや整合性がもう奇跡』
だという汎神論的なものから
『生まれて初めて見た偶像(トモイ)』

『人間の知覚や認知では感じられないもの』
『直感によって感じられる言語に因らないもの』

『超常的な能力を持つ人物』
『すべての人、そして自分自身(I)』

『普遍(不変)の母性』『無償の愛』

など様々な観点やシーンの移り変わりにより
ある種の矛盾を孕みながら語られてゆきます。

そして、その『答え』を出さず、衝撃的ともいえる最後の一ページの
台詞とビジュアルにて読者に『それ』を問いかけるよう終焉を迎えます。

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