よくある話
何事にも、適、不適というものはある。世間体や、しきたりと言った形で現れることもあるし、行儀や、マナーとして現れることもある。
どうにも、肩が凝るな、と思うようなこともある。例えば、好きで始めた葉巻だけれど、私の周りには、女がそんな太い葉巻を吸うなんて、みっともない、と言う人は、それなりにいる。
たとえば、免許を取りたい、自分で車を運転したい、と母に相談してみれば、我々のような人間は、そのような事は他人に任せなければ世間が許さない、なんて言う。
堅苦しくて、肩が凝る。
良い思いだって、きっと同じくらいしているのだろうけれど。
喫茶店で珈琲をすすりながら、私はとある人を待っている。あいにくだが、今のところロマンスとは無縁だから、心がときめくような待ち合わせでは、ないのだが。
葉巻を始めてから、まだ三年と少し、という所だろうか。それに費やしたお金を考えてみる。きっと安い車の一台くらい、買えたんじゃないかしら、と、ちらりと思う。一本二千円の葉巻。一日に何本吸っているかも分からない。それが三年。うん、車くらい、きっと買える。
けれど葉巻を吸うようにならなくたって、私は車を手に入れられなかったのは間違いないし、それに葉巻をやめて貯蓄するなんて、したくない。この香りが、日常、いや、私の人生から消えてしまうなんて、まるで死ぬのと同じだ。
いつかは嫁に行かなきゃいけないんだから、アルバイトでもしてみたいな、と思う。だがこれも、私の住んでいる世界では、世間が許さないことの一つだった。
そもそも、このご時世に、嫁に行かねばならない、と何の疑いもなく信じている自分もまた、紛れもない「この世界」の住人なのかもしれない。
テラスの先にある駐車場を見やる。高級車ばかりが止まっているのは、土地柄、というものだろう。メルセデス、BMW、アストンマーチン、レクサス、エトセトラ。
あの中で運転したいのはどれかな、と、頭のどこかで考え始める私がいた。よくない。このままではうきうきしてしまう。この気分を誰かに話したくなってしまう。話せばまた、「はしたない」とか「することじゃない」とか、そういう言葉が、私を待っている。
テラスの緑色を、じっと見る。観葉植物だ、と気付くのに、何故かは分からないが、少しだけ時間がかかった。
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