脚本『願いの果実』プロローグ
脚本『願いの果実』プロローグ
キャラクター・・・浩太(こうた)、良平(りょうへい)、邦洋(くにひろ)
演劇部室のドアが開き、浩太が現れる。
浩太「みんなに朗報だ。文化祭の出し物、ついに脚本を書き上げたぞ」
良平「おっ!わが演劇部に救世主の光あり!」
邦洋「チェックリストとってくれ」
良平「あいよっ!」
邦洋「それでは、これより文化祭の脚本審議委員会を開催する」
浩太「これが脚本だ」
浩太が脚本を配る。
良平「サンキュー。演目名は、『願いの果実』。青春群像劇、はたまたエロ漫画原作か」
浩太「違う違う、中身は高尚な昔話だよ」
良平「それならいいがな」
邦洋「おい、キャスト3人は分かるが、ナレーター1人って何だ」
浩太「ナレーターは、アナウンス部に声をかけてある」
邦洋「それは無理だ。アナウンス部は文化祭で、迷子放送をする予定だろ」
浩太「当日はな。事前に録音して、声だけ流すんだよ」
良平「じゃあ音声ってかっこ書きしておけよ」
浩太「わりぃわりぃ」
邦洋「確かに、ナレーションで進行する昔話は、老いも若きもとっつきやすい。文化祭は地域住民が多数来訪される。オールマイティに受ける中身でないと、昨年の失態を繰り返すことになるからな」
良平「昨年の失態、むしろ演劇部を廃部の危機においやった事件『歴史バトラー』の怪」
邦洋「卒業した先輩の脚本だからこそ言うが、あれはひどかった。評価できる点と言えば、歴史の偉人をカードゲームにしてバトルするという設定だけだ。しかし中身が……」
良平「(再現)おれのターン、平高望(たいらのたかもち)。効果発動、最終奥義、武士団の形成!相手のデッキから平家をすべて奪い、自分のデッキに加えることができる!」
浩太「わ、わたしの平将門(たいらのまさかど)がぁあああ!」
良平「さらに、ドロー。油屋熊八(あぶらやくまはち)。別府温泉への誘惑!相手の手札の特殊効果をすべて無効化。これで織田信長の鉄砲隊は消滅した!ガハハハハ」
邦洋「公演開始10分で、25人いた客が2人になってしまった」
浩太「残った2人も、先輩の両親だから、実質外部の客はゼロ」
邦洋「盛り返さないと」
良平「そうだ、盛り返さないとおれたち演劇部の明日はない!」
邦洋「文化祭の客足を、お笑いライブにとられていいのか!」
浩太・良平「ノー!」
良平「芸人の集客力にあやかるな!」
浩太・邦洋「イエス!」
邦洋「文化祭のメインイベントを吹奏楽部にとられていいのか!」
浩太・良平「ノー!」
浩太「演奏そっちのけで写真撮影に来てるオヤジどもを根絶せよ!」
良平・邦洋「イエス!」
邦洋「文化祭なのに、運動部の模擬店で女子がたむろしてていいのか」
浩太・良平「ノー!」
良平「運動部の模擬店代は、一夜の飲み代に消えるだけだ」
浩太・邦洋「イエス!」
邦洋「この腐敗しかけた文化祭を、救うことができるのは何部だ!」
浩太・良平「エン、ゲキ、BOO!」
邦洋「今年の文化祭、急上昇ワードといえば!」
浩太・良平「エン、ゲキ、BOO!」
邦洋「どん底から立ち上がれ!」
三人「エン、ゲキ、BOOOOOOOO!」
息切れする三人。
浩太「だから今……この脚本にすべてを賭けた!いざ、読み合わせを」
良平「オーライ!」
邦洋「キャスティングは?」
浩太「邦洋は、村人A、長者、若者の3役」
邦洋「了解」
浩太「良平は、願いの木、老いた牛、赤ん坊」
良平「ん?おれセリフある?」
浩太「そしておれは、村人B、従者を担当する」
邦洋「ナレーションは?」
浩太「今日はおれが担当する」
良平「なあ、おれの役って、セリフあるの?」
浩太「ある!しっかりある!」
良平「わ、分かったよ」
邦洋「良平、いつもの頼むぞ」
良平「オーライ。それでは、演目『願いの果実』はじまり、はじまり~」
チーンと呼び鈴を鳴らす良平。
(続く)