「空気読みさん」11月の短編ファンタジー


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「終了しました」
 十一月下旬、木枯らしが吹くなかユリナは都内の大学病院のAI棟で亡くなった。32歳だった。
 ユリナは、私が生まれた時からずっと一緒だった。
 機体は好きなイヤーカフにつける型で、最新型に比べればかなり大きく1センチはある。頭の中で再生されるユリナは猫くらいの大きさだった。
 一般的に空気読みさんと言われる彼女たちは、人間のコミュニケーションを円滑に行うための機器として約50年前に販売が開始された。脳内で猫くらいの大きさの人間に再生され、「今相手はこう感じています。~~と言ってあげるのがいいですね」などと補助してくれるのだ。
 空気を読むことがなかなかできないタイプの人間が多くなったために開発されたものだ。私も母のお腹の中にいる時からそのタイプだと診断され、生まれたと同時に空気読みさんであるユリナが左耳に装着された。
 お金持ちの家庭では頻繁に最新型に変えられるが、私のような一般家庭では終了するまで使う。今の最新技術でも故障を直せなかった時に終了宣言がされる。ただの機械ではなく私たちの心に深く関わるために、修理場は大学病院に隣接されその終了宣言はまるで人間の臨終のように厳かでさえある。
「ユリナ、今までありがとう」
 両親よりも誰よりも密接に過ごしてきた。私は貯金の半分を注ぎこんでもユリナを直したかったけれど、それは不可能だと言われた。
 データは最新機に移すことができる。けれども、空気読みさんにはそれぞれ個性があり、データを移してもユリナは再生されない。これは現代科学でも解明できないということだった。まるで、それぞれの機械に個別の魂があるとでもいうかのようだった。
 だからこそ、相性のいい空気読みさんを変えずにずっと使っている金持ちはあんがい多い。日頃のメンテナンスに通常の何倍もかけて長持ちさせている。私ももっとメンテナンスにお金をかけていれば良かった。ユリナを失ってその大切さが身にしみる。
 勧められるままユリナを加工してペンダントにするサービスを申し込むと、ユリナはその場ですぐさま百合の花の型のペンダントヘッドになった。私はそれをつけたけれど、当然頭の中でユリナは再生されない。
「こちらが最新型になります」
 技師は最新型を画面に映し出した。
「データはもちろん保存してありますので、スムーズに移行できます」
 最新型は1ミリほどだ。機器の進歩は速い。
 最新型の中でも料金によって性能が違う。ユリナは当時の標準型だ。一般家庭の両親としては、補助金を受けてもそれが精一杯だったろう。
「木下さんの場合、A型の補助金が受けられます」
 自分の今の経済状況、脳のコミュニケーション機能の具合によって補助金額が決まる。
「脳のコミュニケーション機能の具合から言っても、機器はこちらのR型がいいのではないでしょうか」
 脳の中で再生される女の子は、ユリナより動きがスムーズだ。
「顔をユリナに似せることはできますか?」
「はい、可能です。前の機器の顔にされる方が多いですね」
 技師が操作をすると、女の子の顔がユリナになった。最新型だけあって、ユリナより画像が細かくきれいだ。ユリナなのにユリナではない何かがそこにあった。
「声も前の声にしましょう」
 女の子が、ユリナの声でしゃべった。
「こんにちは」
 確かにユリナだけれど、やはりユリナではない。
 技師が私の心を読んで言った。
「そのうち慣れますよ」
 その技師も、ピアス型の最新の空気読みさんをつけていた。
 私はうなずいた。
 

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