「夏至のレジスタンス」〜6月の短編ファンタジー小説


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 夏至あたりには、いつも不思議なことが起こる。
 田舎育ちのいおりは、子どもの頃はよく精霊の光のようなものを見た。
 木々の中を、木漏れ日とは違う小さな光たちが踊るように飛び交うのだった。
 いおりもつい、一緒に踊りたくなったものだ。
 それでも都会に出てくると、精霊の光を見ることもなくなった。精霊たちには、豊かな緑が必要なのだろう。
 そんなこともあって、大人になると夏至を気にすることもなくなった。

 それよりも、いおりが身を置く業界の悪化が心配だった。
 いおりが就職した20年前は、陰りが見えていたもののまだまだ人気の業界だった。
 一流大学を出ていないと、就職試験さえ受けられなかった。コネもなく地方出身の女性という不利な条件、受かった時には飛び上がるようにして喜んだものだ。
 それなのに、たった20年で近い将来を心配するはめになるとは。
 20代で婚約解消してから、結婚もせずにここまで来てしまった。親も含め、まわりに幸せそうな夫婦がいなかったことも影響しているに違いなかった。
「はあ〜。
 やっぱり、結婚しておけばよかったのかな〜」
 今さら、そんなことを思う。
 20代の時は、
「そこらの男性より私のほうが年収が多い。家事育児分担がきっちりできない男なんて」
と強気でいたけれど、業界自体の雲行きが怪しくなってくると、自分の努力でどうにかなるわけでもない。
 ついつい弱気になる。
 どうしようと気ばかり焦ってしまう。

 そんな日曜の昼下がりだった。午前中雨だったこともあり、マンションでだらだらと過ごしていた。
 インターフォンが鳴った。
「誰よ。ネットショップで何も買ってないけど」
 液晶に映っていたのは、いおりだった。
 え?
 ネット配信ドラマを見過ぎたせいだろうか。
 目をぱちぱちさせたが、そこに映っているのはどう見てもいおりだった。
「え? 何? まさか私、双子だったの?」
 どこかに養子に出されていた双子が会いにきたってこと?
 あるいは、養子に出されたのは私?
 ところが、夏至あたりに起こることはそんなレベルではないようだった。
 いおりそっくりの人物が言った。
「私もあなたも、クローンよ」



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