「それは虚構の世界」~3月の短編ファンタジー
1
あなたは、知っているだろうか。
人の脳は現実を生きているのか虚構を生きているのか、判断できない。
脳は入ってきた情報を処理しているので、精密に作られた虚構を見破るのは難しい。
*
「どの指輪も素敵で迷う」
結城美月は宝石店を3店はしごした後、カフェのテラスで一息ついていた。
婚約者の木村透と一緒に。
3月の下旬、3時を過ぎても日差しが暖かかった。
もう春だ。
パンジーなど色とりどりのポットから、花たちの軽やかなおしゃべりが聞こえてくるようだ。
「迷うだけ迷ったらいいよ。
後悔しないようにね」
31歳、3つ年上の透はいつも美月の気持ちを優先してくれる。
仕事が忙しいはずなのに、今日も午前中から宝石店めぐりにつきあってくれている。
2週間前、美月は透からプロポーズされオッケーした。
つきあって2年、楽しい思い出ばかりで嫌な思いをしたことがない。
透は学歴も仕事も見た目も性格も、何1つ欠けたものがない。
あまりにも完璧なのが、欠点といっていいくらいだ。
「口にクリームついてるよ」
透がくすっと笑って、ナプキンでそっとぬぐってくれる。
「ありがと」
出会いは2年前、偶然本屋の棚の前で3度出会ったことがきっかけだ。
「3度目ですね」
透はスマートに話しかけてきた。
「若冲、お好きなんですか?」
「あ、ええ」
3度とも、若冲の絵画集の棚の前だった。
「今新宿でやっている若冲展、もう行きました?」
「まだなんです。行きたいんですが」
「よかったら、一緒に行きませんか?
あ、怪しいものじゃないです」
そう言って出された名刺は、一流会社の名刺だった。
ナンパなのだけれど、好きな若冲の前で3度出会ったという偶然、好ましいルックスと肩書きに美月はオッケーした。
これだけ女性に対してスマートでイケメン、一流会社勤めならもてるだろう。
浮気されるのではと心配したけれど、杞憂だった。
つきあって2年間、一度もそんな気配はなかった。
ミルクティーを一口飲んで、美月が自分の幸運に感謝した時だった。
「目を覚まして!」
突然若い女性が、2人のテーブルにのりこんできた。
髪の長い目の大きな女性。21,2歳だろうか。肌がつやつやだ。
「目を覚まして!
こいつは詐欺師よ!」
透を指さして叫ぶ。
突然の爆弾投下に、美月は頭が真っ白になった。
女性が、美月の肩をつかんでゆさぶる。
「しっかりして! 目を覚まして!
詐欺師にだまされないで!」
いきなり世界がひっくり返るとはこのことだ。全身の血がどくどくと脈打った。
透が立ち上がって美月の腕をひく。
「行こう!」
美月は首を振った。
「あなたのことを詐欺師だって言ってるわ」
「ぼくのことを信じられないの?」
信じたい。信じたいけれどこの状況はどう考えても三角関係の修羅場だ。
これまで見ていた幸せな世界はなんだったんだ。
「詐欺師の言うことを信じないで!
目を覚まして!」
「君、いいかげんにしてくれ。
警察を呼ぶよ」
「呼びなさいよ!」
「美月、信じてくれ。
ぼくはこの女性を知らないんだ」
美月が問う。
「知らない人がわざわざやってきて、こんな修羅場を演じるっていうの?」
「そうだよ。頭がいかれてるんだ。
かまっていたら危険だよ。
警察を呼ぶよ」
透はスマホで110番した。
しばらくして、警官が2名やってきた。
透が名刺と免許証を見せて、事情を説明する。
「身分証明書は?」
警官が若い女性に問う。
「そんなものないわ」
「保険証とかあるでしょう?」
「ない」
「名前は? 年は?」
「古都野真美(ことのまみ)。21歳」
「木村透さんとつきあってるの?」
「いいえ」
え? 美月は女性の言葉に驚いた。いいえ?
「じゃあ何で、こんな騒ぎを起こしてるの?」
「うそっぱちだからよ!
詐欺師にだまされてるからよ!」
「人を詐欺師だなんて言ってたら、名誉毀損にあたるよ」
「私はほんとのことしか言ってない!」
また美月の両肩をつかんだ。
「目を覚まして!」
「ちょっとちょっと」
警官が真美を美月から引き離す。
「交番に一緒に来てもらおうか」
「嫌よ!」
真美がだっと逃げる。
「おい、こら待て!」
警官2人が追いかける。
美月は、ぽかんとするしかなかった。
と、美月を透がすっと抱きしめた。
「言ったろ? 信じてくれって」
美月は、こくんとうなずいた。
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