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ノベルの記事(6)

Illusion-イルシオン-

Annaの日記(小話) Farewellに至る幻想の断片

Annaの日記


あと7日
私とクララが永遠にお別れするまでの7日間を、クララのために書いておこうと思う。
選別の儀式のずっと前から、私が生贄になろうと思っていたんだよ。
だってクララは泣き虫だから。
お姉ちゃんの私が代わりに苦しいのは引き受けるね。


あと6日
この村の人たちを恨まないでね。
私のことを追いかけないでね。
私はクララに笑っていて欲しいから。
クララは優しいからすぐに泣いちゃうんだよね...綺麗な心を忘れないでね。


あと5日
今日はクララと一緒に寝る。
あの日からずっと大人たちに儀式をやめてって言ってまわって疲れちゃったんだね。
この日記を書き始める前に、まだ涙で顔を濡らしたまま先に寝ちゃった。
心配かけてごめんね。
私は...怖くないって言ったら嘘になるけど、クララを守れるなら後悔なんかしないよ。
大切なたった一人の私の片割れだもん。


あと4日
儀式の準備が告別の教会で始まった。
この儀式は双子の私たちのどちらかが悪魔が人の姿になったもので、もう一人はその悪魔を抑える天使が人の姿になったものだから、悪魔を殺して天使に村を守ってもらうものなんだって。
私たちのどちらかが悪魔なら、きっと私だと思うんだ。
クララみたいに優しい涙はあんまり流せないから。


あと3日
儀式の日までクララとはお別れ。
儀式の日には最後のお別れ。
檻の中は狭くて冷たいな...
大人たちが一つだけお願いを叶えてくれるって言ったから、この日記は持ってこれたよ。
ちゃんとクララに届けてもらえるといいな。
この日から私たちはお揃いの青い服を着るんだよね。
最後にお揃いの服が着られてちょっと嬉しいな。

あと2日
ねぇ、クララは覚えてる?
小川で遊んだ日、森の中を冒険した日、旅の人に楽譜っていうものの読み方を教わった日...
ずっときらきらした世界で私たちは生きてきたんだね。
生まれた時からずっと一緒だったから、私も最後まで一緒だと思ってたんだ。
でも、本当は違ったんだね...とっても残念だけど、仕方ないことだと思うんだ。
もっと未来に生まれるか、弊習のない村に生まれたらこの願いも叶ったのかな?
弱音を吐いちゃってごめんね。
私は遠くからクララを見守るつもりだよ。

あと1日
この日記もこれでおしまい。
儀式は私を十字にした大きな祈りの祭壇にはりつけて、上から下から...青い服が紫になるように私の血で染めあげて悪魔に死を、天使に生を与えるんだって...
クララに私から最後のお願い。最後のわがままを聞いてもらってもいいかな?
私の分まで幸せに生きて欲しいんだ。
私の時間は13歳の誕生日、明日で終わっちゃうから、いつかまた無垢の彼方で会えたときにどれぐらい幸せで楽しくていい時間を過ごせたか教えて。
私の願いは最初から最後まで、クララが笑いながら幸せに生きていくことだから...
辛かったら私のことなんか忘れてね。
クララ、貴女は貴女だけの未来を生きて。
お別れだよ愛しい...クララ、さようなら。




ー彼女の死とともに焼却された日記
最後の願いは妹に届かぬまま...
妹は選び、苦しみ、同じ過ちを繰り返すこととなる...ー

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ー皐月に彩なす蒼の薔薇ー(小話)

私の悪い癖。薔薇の色に、相手への想いを乗せてしまう悪い癖。
色にその人の印象を乗せてしまう、悪い癖。
わからないならそれでいい。わかる人には伝わってしまう。
言の葉を使わないで、たとえを伝える花の詩。


ー皐月に彩なす蒼の薔薇ー


「〜♫」
私の朝はそんなに早くない。ただ、そのかわりに起きてからの行動は早い。
今日は前々から育てている薔薇の……植木?畑?のお手入れをしようと思って、昨日の夜に用意した装備をきっちり着込んで、品種が揃っていない薔薇の庭にいる。

「あ!この子もう咲いてる!早い……」

薔薇の庭と言っても、まだ発展途上。
新苗を植え付けてかあまり時間も経っていないので、そんなに大きな木はない。
低身長の私には、大きい薔薇の木の手入れは難しいから、小さな苗から始めたのだ。
細かに見ていなかったので気づかなかったが、年に一輪しか咲かせない方がいい品種が、小さく透き通るようで、自然光だけでもその名にふさわしい神性を帯びた花を咲かせている。

「ありゃりゃ、この子は秋に大きいの咲かせたかったけど、失敗しちゃった」

仕方なし。そっと手を添え香りを楽しむ。
清廉とした涼しい香りに、寄り添うような仄かな甘み。
小さくても誇らしく佇む彼女は、とても愛らしい。
そんな蒼い薔薇にハサミを入れ、切り口に水循環の魔術を施す。
手入れも終わったので、そろそろ部屋に戻ろうか。
道具を近くの箱にしまい、外の水道で汚れを落としてから、彼女をふわふわ横に浮かべながら洋館の中に戻った。


「あ、お母さんおはよう!」
「おはようイルス。今日は私よりお寝坊さんだね?」
「あはは……師匠の出した課題やってたら夜中になっちゃって、寝るの遅くなっちゃったの」
「あららぁ……リオさん厳しいものね。どんな課題だったの?」
「ルーン魔術だよ……お母さんわかる?」
「そうねぇ、苦手!」

我が子とそんな会話をしながら、食堂にでもこの子を飾ろうかと廊下を歩く。
彼が出す課題が難しいのはいつものこと。不自由していた時代の名残りなのだろうね。
技がうまくできなかった彼は、生き字引になるように、あらゆる種類の魔術に手を出しその知識をものした。
そしてその後、あることをきっかけに「それまで蓄えておいた知識」を全て行使できるようになってしまったのだから、魔術の界隈では……ちょっと笑ってしまうぐらい強い。
相変わらず剣術は凡才だけれどね。

イルスとの会話の最中、そんなことを考えつつ食堂に着く。
私の手はふさがっていなかったけれど、イルスが扉を開けてくれた。
あいも変わらず優しい子、頭を撫でると嬉しそうにふふっと声を漏らす。
さて、どこに飾ろうか。そう思い食堂を見回すと、私の頭の中で噂の彼がいた。
何かを炒めているのか、おいそうな音と香りが漂っている。お腹すいたな。

「そうだ、折角蒼い薔薇だし、リオさんの席のところに飾ろう」

通称青薔薇の魔術師の席に蒼い薔薇を飾るのって、見た目意味そのままだけれど、ネームプレートみたいで面白いかな?
知識が「神の祝福」なあなたに向けて。そんな意味でイルスに小さな花瓶を出してもらい、一輪の花をいける。
どんな反応するのかな?彼もそこそこ……私が口にした分は花言葉に詳しいと思うから、ちょっと楽しみなのです。

「お母さん、これどういう意味なの?」
「んー?イルス知らないの?これはね……」

イルスから見たらニコニコして見えるだろうな。私は「いい意味」でその花を飾ったつもり。
私がそこに飾った意味も伝えたら、ほこーっとした笑顔を浮かべている。可愛いから、ほっぺをむにむにしてみた。
そこに、3人分の炒めたご飯を持ってきたリオさんがきた。

「リリィ、イルス、おはよう。朝ごはん……え」

うっすら笑いながら、上機嫌で話しかけてきた彼がなぜか、突然硬直する。視線を一点に向けたまま。
何してるんだろうと思い、視線の先を追うと、蒼い薔薇の一輪挿しがある。さっき私が置いた一輪。
「あなただけ、奇跡」そんな感じのニュアンスで置いた蒼い薔薇を見て、彼は炒めたご飯を落としかけた。

「わっ!?」

咄嗟に、指差しで落としそうになった食器を浮かせる。
どうしたのだろう、そう思い今一度彼の顔を見ると、血の気がひいている。

「え!?どうしたのリオさん!?」
「……そうか、この世界の終焉か……短いようで長い人生だったと思う。それでも愛してるよリリィ……」

ぶっ壊れた夫をみて混乱する。とりあえず、次に何をいうかよくわからないので、そっとイルスの耳を両手で塞ぐ。

「?お母さんどうしたの?師匠?なにしてるの?」
「耳ちょっと塞ぐね、リオさんなんかおかしいから。で、どうしたのかなー?おーいリオさん?」

絶句状態、顔色真っ青。
本当にどうしたのだろうか?一輪の蒼い薔薇が飾られた自分の席をみて、固まっている……
あ。

「『あなただけ、無理』……リリィ、俺何かしたっけ?」

しまった。この人、結構思考回路が負の思考だった。
たまに異様に考えが暗くなるのがこの人の悪い癖。大体そういう日は寝不足の日。
ん〜。どんな解釈よそれ……ツッコミ要員よきたれ……
とりあえず誤解を解かないと、何をするかわからない顔してるなぁ。
不意に食堂の扉が開く。
そして、そこに突然現れる。
数秒前に欲しいなって思ったツッコミ要員のレイくんが、炒めたご飯の香りが気になったのかやってきた。

「おはようございます。何かいい香りがするのですが、何の香り……もとい、どう言った状況ですか?」

宙に浮かぶ3人前の炒めたご飯。イルスの耳を押さえる私。血色最悪なリオさん。
本当にどういう状況だろうね。私が聞きたい。

「おはようレイくん。あのね」
「今日で世界は終わるんだ」
「リオさんちょっと静かにしようね?」

「あの、本当にどういう状況なのでしょうか……」

一歩後退り、消え入るような声でもう一度尋ねるレイくんは、強い子だと思う。
普通にみてこの状況は、混沌としているのですもの。
さてさて、解釈違いを起こした彼に説明を……

「リオさん復習」
「今更何か復習することある……?」

完全に哀しみに暮れた眼で私の方を見る彼。
確実に寝不足顔で、思考は負に傾きやすい状態の彼。
そういう時ほどなぜか愛おしくなる、何かが抜けている彼に告げる。

「これ、『あなただけ、奇跡』。貴方だけが私の奇跡」

少し笑い出しそうになるのを抑えながら、テーブルの上の蒼について解説をする。
それを聞いて、一瞬固まったあと、彼は血色が良くなった。
というか、真っ赤だ。

「あ……だよな。はい」

そうぼそっとつぶやくと、浮いたままだったご飯を手に持ち、こちらに近寄ってくる。
さっと各々の席に朝ごはんを置くと、自分の席につき、顔を押さえている。
途中参加だったレイくんは、疑問符を頭に浮かべるように、

「あの、結局どういうことですか?」

ことの顛末を求めるので、イルスの耳を押さえるのをやめ、自分の口を少し隠しながらレイくんとイルスに説明をしてあげた。

「ああ……そういうことですか」
「師匠、いつも僕には冷静に解読しろっていうのに」
「ねー。リオさん、早とちりだよー」

私は彼の背中にくっつきながらけたけたと笑い、からかう。
相変わらず顔を覆ったままの彼の心拍数は、異様に早かった。怖かったのか恥ずかしかったのか。
とりあえず、

「私は貴方の世界ですよー。終わりなんてしませんよー」

そう、彼の左耳に囁きかけると、彼の右手で顔をフニっと掴まれてしまった。

「……根暗で悪かったな」
「私がそんな意味で花を飾るわけないでしょうに。あとおててやーめーて!」
「いーやーだっ」

初めて彼に会った時みたいな気分になって、お互いをからかい合う。
こういう日常が私は、大好き。

「朝起きていい香りがして、食堂に来て見せられるのが惚気。イルス、慣れてますか?」
「慣れてるよ〜?だって、師匠とお母さんだよ?」
「……あっ、はい」
「あ、レイくんのご飯取ってくるね!一人分たりてないよ師匠……」
「私も行きます。ここの空気は……甘すぎる!」

肩をすくめながらキッチンに向かうイルスとレイくんを尻目に、私はこの状況を楽しんでいる。
蒼……もとい、青い薔薇のキミに。そんな残酷なことを私は言わないよ。



これが私の悪い癖。薔薇の色に、相手への想いを乗せてしまう悪い癖。
色にその人の印象を乗せてしまう、悪い癖。
わからないならそれでいい。わかる人には伝わってしまう。
言の葉を使わないで、たとえを伝える花の詩。

伝える相手の解釈の癖には、注意をしましょう。
それだけのお話。

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イルシオン叙情詩序章 女神の思想(小話)

眠れ... 眠れ... 愛子よ

私はあなたたちの根源にあり
この眼は世界を観るものなり
この耳は世界を聴くものなり

今宵も明日の黎明もあなたたちを揺籠で抱く
私の名は前の世で消えた
彼者が私に名をもう一度
私が貴方に初めて名乗った名を呼んでくれるまで
この世界は眠りに落とそう

眠れ...愛子よ


あなたたちが目覚めるのは女神の歓び
芽吹く季節になったならば
私は歌い紡ぎましょう

青い花が迎えに来れば
私はその手を取りましょう
前の世で失った貴方の手は
あいもかわらず私と同じ


始まり芽吹く春を
命の煌めく夏を
優しくも冷たい風の秋を
終わりを告げる冬を

廻り廻り廻らせて
私は世界に溶け込もう


それまで永き眠りをば
愛子たちとともに静かに...




イルシオン叙情詩序章
女神の思想より


作:Mel_Lioly
心:Lily

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Rainford -幻想物語の迷子-

鬱蒼とした木立の森、私が暮らす深い森。
この森に名前でもつけようかしら?
…...そうね、色々不思議なことが起こる森だから、怪奇の森なんていいかもしれないわね。
星々の光をも木立で覆うこの森は、秘めた力を隠すには丁度いいから。


ーRainfordー


久しぶりに目が覚めたのはいいけれど、時計の針が差していたのは真夜中。
星々の煌めきが林立の隙間から砂時計の砂のように僅かにさらりと見える頃、私はそんな暗い森を散歩していた。
夜の静寂は眠りのウタ。
オトがしないようで、そよ風に吹かれた葉が擦れるオトや夜行性の動物の鳴き声も聞こえる。
心地よい和音を体で感じながらの散歩は気分がいい。
そんな中、不意に呻き声が混じっていることに気がついた。

「あら?何かしらー?」

ついつい癖で言ってしまう独り言。
気になるので取り敢えず、呻き声が聞こえた方向に歩いて行ってみる。
この森は入り組んでいて、私とリオさん、イディアルお兄ちゃんぐらいしかまともに歩くことができない。
そんな森の中で迷い子になっているのなら、森の外まで連れ出してあげないと、迷子が過ぎて最悪死んでしまう。
知らない死体とご近所さんになるのは勘弁して欲しい。
私は足元の悪い場所を歩くのをやめて、《翼浮遊魔術六枚羽根女神式》でふわりと綿毛のように浮き上がると、音もなくコエの方向に向かった。


「うぅぅ...…」
「あらら...…今日雨降ったもんね...…そこのお兄さん...…お姉さん?どっちかしら??大丈夫?」

呻き声の主は、男性か女性か判別がつかない。
ただ夕方に降っていたらしい雨で冷え切った身体、涙の跡、なす術もなくこの森に入ったことはなんとなくわかった。
このまま放っておいてはいけないわね。

「とりあえず私のお家に運ぶね。ちょっと怖かったら……ごめんね?」

六枚のほんのりと紅色に染まった白い羽根のうち二枚で、冷え切った子を包み込む。
本当に冷たいなぁ...…なんでこんな所にいるのかな?おかしいなぁ?
運びやすいように小さな魔術、浮遊を迷子さんにかけていると、

「...て......んし...?」
「ん?」

不意に、抱き上げている自分よりも背の高い、儚い存在がそう呟いた。
瀕死の状態だから、天使って言ったのかな?
渾身の冗談みたいなのが辞世の句になったらかわいそうだなぁ...…

「話しちゃダメだよ、衰弱してるんだから...…そっと私のお家まで運ぶから、おとなしくしていてね」

優しめに抱きしめている子の額を撫でると、満月の夜に私は優しく羽ばたいた。
迷子さんはそのまま眠ってしまったけれど、ちゃんと心臓のオトもするし、息をするオトもしている。
家に帰ろう、この子をどうにか生かすために...…



「で、この男は誰ですか?リリィさん?」

そう問い詰められても私困るんですけど。
彼は私の愛しい人、ヴァルデリオ...リオさん。
突然夜中に起きて、勝手にお散歩に行ったことに怒っている。
そしてその挙句、男の人?を連れてきたことに対しても非常に怒っている。
というか、まだ男の子って決まってないのに早とちりだよ?

「衰弱して倒れてたの。お散歩勝手に行ったのは謝るけど、リオさん光魔術師だよね?それに!それ以前に!リオさんのお仕事!なんだっけ!?」
「〈怪我病人を完全に治す〉こと。だけどな」
「だからリオさんに治してもらおうと思って連れてきたの!」

拗ねてる。この人拗ねてる。
私も相当めちゃくちゃ言ってるけど、ちょっと悲しい。
確かに起きてまず最初に彼のお部屋に行かなかったのは初めてだし、書き置きも何もしてなかったけどここまで拗ねなくてもいいじゃない...…

「...…」
「なんだ?リリィ?」

ムーっとした顔で見てやる。
そして、泣き落とし好き落としを始めるz

「リオさんは、私の一番愛しい人なのに……私の心を信じてくれないの?」

そうっ...と背の高い彼の首に腕を回し抱きつく。
近づくと心拍数が上がるからちょっと辛いんだけど、勿論好きだからドキドキしちゃうんだけど、背に腹は変えられない。
この子を助けるため...…だし、ちゃんと態度で示したいから。
少し驚いた顔をしたリオさんの心に届くように。
私ができる最大限の猫なで声を使って耳元でそっと愛を囁き、その唇を奪う。
おおよそ数分間。
次第にリオさんの心拍数と呼吸数が上がるのを感じる。
腰回りに腕を回して抱きしめてくれる。
でもここまで。

「これでも...…信じてもらえないの?」
「......はいはい、わかりました」

恥ずかしかった…... リオさんも顔が鮮やかな紅に染まっているのをひたすら隠そうと、大きくて優しい手で顔を覆う。
いくら愛し合っているといっても、一応そこに病人が寝ているわけだし。
そしてその問題の、昨日連れ帰って応接間のソファーで寝かせたら、そのまま目を覚まさない子はぐったりとしている。

「お願い、リオさん...…この子助けて」
「わかった、俺だけのオミナガミさん、ちょっと待っててな?」

仕方ないというそぶりを見せ、患者さんになった迷子さんの方に歩んでいく。
途中で一度歩みを止めて上半身だけ振り返る。

「あとで一緒に昼寝しような。夜更かししてて眠いだろ」
「...…うん!」

私の事を、常に気遣ってくれるこの魔術師さんが愛おしい。
だから一緒にいたいんだよね。



暫くして魔法陣と魔術のウタに覆われた患者さんの容体がだんだん良くなってきた。
土気色だった頰はやや薔薇色に、先に私がある程度乾かしておいた衣装や髪はそのまま完全に乾き、あとは本人が目覚めるのを待つだけかな?
どうか助かりますように……

「やっぱりリオさんはとても魔術の行使が綺麗だね」
「ん、ありがとう、リリィ」

数刻前まで拗ねていた彼も今は真摯に術を操り、私の言葉を素直に受け取ってくれる。
青と白の術式はいつ見ても綺麗だなぁ...…
色々な文字列の円形の陣を空中に幾つも浮かべ、そこからその瞬間必要な陣を発動させる。
そこにリオさんは少しアレンジを加えていて、対象の心の音に合わせて脳の異常も少し取り除く。
やっぱり魔術って、その人の性格がとても出るから見ていて面白い。



そしてそこから数分後。

「ん...…ぁあ...…?」

患者さんが目を覚ました。

「リリィ、起きたぞ。」
「リオさんありがとう!大好き!!」
「知ってるよ。さて、で、お前さん意識は戻ったろ?喋れるか?」

リオさんが目覚めたばかりの患者さんに問いかける。
ただ、森の中で倒れていたのが、いつのまにか知らない家にいて、男女に囲まれているのは怖いと思う……
もうちょっと優しくしてあげた方がいいんじゃないかな?
そう思っていた時に、不意に患者さんが呟いた。

「ぁ……天使様...…?天使様はどこに行ったのでしょうか?」

天使?

「天使……?どういう意味だ?」

リオさんが私の脳内を直接再現してくれる。楽。流石。

「あ、もしかして昨日飛んで運んだからかな?」

そしてその天使であろう人物は、確実に私だ。
それは六枚羽根なんて出して飛んでたら、神話の天使とも間違えるだろうね...…
でもあれは、私が出せる翼の最低数だからどうしようもない。
因みに最大数は、もうヒトガタなのかわからなくなるぐらい大きいのも混じっちゃうから、正直自分でも怖い。

「貴女が天使様なのですか?」

青年にしては高く、娘にしては低いコエで患者さんが私に問いかける。
なんと答えればいいのだろう...…
私、リリィはこの世界の始まり。
世界を生み出して導いているオミナガミである。
けれど、オミナガミだと言うのは正直あまり口外したくない。
オミナガミは、イニシエの時代からこの世界の信仰対象。
それが今現在、地上にいるのが知られてしまうのは危うい。
私達の平穏で、小さな幸せがいっぱいの生活が消えてしまう。
そう迷っているところで、リオさんが一言いってしまった。

「彼女は俺の女神な?」

んー……ごまかしたつもりなのかな、嘘は言っていないけど私情が入っている。
リオさんがいっている女神って多分、女性に対して褒め言葉とかで言う女神なんだと思う。

「女神様?」
「ああ、俺だけの女神様」

まぁ...…これならあながち嘘じゃないし、良いか。
一般的な比喩表現に、真実を混ぜられるのって私ぐらいなんじゃないかな?女神に関してだけだけれど。

「...…はは……あはは......女神様なら、俺のこと救ってくれるのでしょうか?」
「あ?」

突然哀しげな、泣き出しそうな悲痛なコエで笑い始める。
悲痛で……願いも望みも何も叶わないまま絶望してしまったヒトが出すコエ。
そして、私...…何故だろう?この子のコエ何か聞き覚えがある気がする。
不思議と懐かしい気持ちになる、男性にしては高く娘にしては低いコエ...…
まさか...…

「ねぇ、キミの名前...何?」

多分これが正解なんだろうな。
私は自分のコエで問いかけた者から情報を少し多めにもらえる。そう言う仕組みだから。

「俺は...…レイといいます」

レイ……真名はレインフォードかな?断片でも私にはわかる。
あと、よく聴いてみると、この子すごい好みのコエしてるなぁ。
リオさんのコエほどではないけれど。
……っとそうじゃなくて、この子...〈彼女〉が私の元に遣わした子なのか。
突然目覚めたのも、なんとなく散歩に行ったのも全部誘導されてたのね私...…ちょっとなんだか、むっとする。
でもまぁ、ここから先は私に任されてるみたいだし、好きにさせてもらいましょう。

「レイ……くん?かな?何事かお悩みなの?」

私は突拍子もなくレイくん?に尋ねてみる。
そうすると、少し驚いた表情をみせたけれど、すぐに物憂げな目で俯いてしまい、悲しげな感嘆詞を漏らす。

「まぁ...そんなところです。あ、すみません助けていただいたのに不躾な態度で……」

無理に笑顔を作るのはおバカさん。
リオさんも隣で同意しているようだ。
この子は……いままで無理をしすぎてしまったようだ。
それで、〈彼女〉の力で誘われ、ここに辿り着いてしまったらしい。
本当、運命なんて度し難いものね。


「構わねえよ。あと無理に笑うなアホ。で、結局キミの性別は…...」
「...…それは」

あら、アホって口に出しちゃったよリオさん...…やっぱり考えることは一緒なのね。
リオさんが性別について話そうとすると、レイくんは途端に苦虫を潰したような顔をする。
そう、〈それ〉について悩んで、尚且つ他にも様々な因子がまとわりついたせいで森に入ってきてしまったのがレイくんだ。
さて、それじゃあオミナガミの私がやることといえば、大したことじゃないんだけれど...…
それでもこの子は私の力で助けられそうかな?

「レイくん、人差し指だしてみて?」
「...…こうでしょうか?」
「うん、じゃあ、絶対に動かないでね?いくよ」

差し出された指は、人差し指...
右手を出したのは本能かな?それでは、さてお仕事をしましょうか。

『汝ノコエニ我応エヨウ、コノ譜ガ作リマイス印ニヨリ汝ノ痛ミシゥ。代償ハソノコエノアルママノ献上ナリ。』
「え?何!?」

ものすごい早口言葉みたいな魔術譜を唱える。
聴き取りきれない速度の譜面、音程の変化、強弱と感情表現、
私しか使えない未知の領域、オミナガミの世界だけのウタ(リオさん似たようなの使ってることがあるけれど、あれはもっと効果が弱いかな?)。
薄紅と薄蒼の光が集結し、一つの輪の形をゆっくりと形成していく。
それがレイくんの指に合うように、綺麗に結合されていく。

『結ビシゥ』

光が弾けると、人差し指には二色の結晶がついた蛇の指輪が形成される。

「????」
「リリィもお人好し。」

リオさんがぼそっとつぶやく。
そういうところは貴方に似たんですよ?優しい魔術師さん?
……それはさておき目の前で魔術展開されるなんて思ってなかっただろうから、説明しなきゃね。(さっきの医療用術式は眠っていたから別としてね)

「ふぅ……できました。レイくん、本当に突然だけれど、その指輪に祈ってみて。なりたい自分になれるように。」

一瞬理解できなかったようだけれど、はっとして信じられないといった様子で必死に試している。
刹那、レイくんの身体に若干の変化が現れる。

「あ...…?」

コエが高くなってる。なるほどねぇ、そっちの方を先に試してみたのね。

「次は祈りを逆転させてみて?」

言われるがままにレイくんは祈る。
先ほど同様わかりにくいが、体に変化が訪れる。

「あ...!?」
「えへへ……すごいでしょ?」
「え?なんでこれ?!え!?!?」

リオさんよりやや高いかな?ぐらいの低いコエ。
さっきからの突然の変化でいちいち驚くレイくん、みてて面白いなぁ。
ただそっちの状態になっていると、リオさんの目が若干キツくなるからちょっと、あのそのえーっと...…

「はい。これでキミのお悩み解消できたかな?」
「リリィ……やり過ぎじゃないか?」
「そんなことないよ?だって、これも私の使命だもの?」

困惑しすぎて呆然としているレイくんをよそに、リオさんが心配してくれている。うん、この式は結構維持する事が難しいし、解読不能で怖いかもね。

「あの……これは一体何なのでしょうか?」

恐る恐るレイくんが私に尋ねる。
怖くないように微笑みを作りながら、

「形状変化魔術非魔術師用変化指輪性別型だよー。」

非常に名前の長い魔術名称を答える。
そう、彼の指にはめたのは、装着した者の性別が自由に操作できるへんな指輪なのだ。
確か昔、私が暇つぶしに作っておいた魔術。
数千年経ったここで使うとは思わなかったなぁ...…

「それに強く綺麗な心で祈れば、何回でも性別変えられるんだけど、絶対に記憶から私のこと消しちゃダメなのー。消えると指輪も消えちゃうよ。」

要するに信仰しろってことです。
ごめんね。
そもそも、自分の性別がわけわからなくなって彷徨ってたレイくん。
だったら、両方行き来できるようにしてしまえばいいじゃない。
これが私の解。
自由に生きられない世界の苦しさは、死に等しい。
それだけは分かっているつもりだから。

「え、あ、ありがとうございます...…えっと……?」
「私はリリィ、こちらにいる光魔術師ヴァルデリオの女神様です!」

もういいやこの設定通そう。

「リリィさん、ヴァルデリオさん。ありがとうございます。......天使ではなかったのですね。けど、光魔術師は初めて目にしました」

...…?天使が良かったの???天使好きなのかな?
最後の方に、消え入るようなコエで呟いたのを私は聞き逃さなかったよ。
光魔術師はそれはそれで珍しいのだけれど、それより天使を求めるレイくんが不思議。

「で、お前さんこれからどうするんだ?行方もないんだろう?」

不意にリオさんが切り出す。
私が頭の中で描いていた台詞を……
多分……いいえ、確実にレイくんに行方はない、それは私にもわかる...…
それもともかく、リオさん私の指輪に何か仕込んだんだね……?
あとで解除しよう。

「ええと……はい、気がついたらここにいて…… 私に行くあてはないです……」

はい、リオさんの欲しい回答をよくいえました。
とても勘のいい子のようです。

「じゃあお前今日から俺の手伝いしろよ。」
「え?」
「...推測だけどお前さん何か弾けるだろ?丁度センリツが足りなくて困ってるからな。別に悪い仕事じゃねえよ、光魔術って言っても治せるのは肉体だけで、心には音がいいから疲れてるやつに楽器演奏しろ。以上、雇用。」

わかりにくいよリオさん、すっごい真面目に話してるけど。
つまるところ〈演奏者として俺が雇ってやるよ〉っていっているんだろうなぁ。
あと 、〈医療知識を常人の範囲でついでに教え込む〉って意味も入ってるんだろうなぁ。

「つまり、奏者としてヒトを癒すお仕事手伝って欲しいんだって!」

簡単に要約した説明をしておく。

「え!?あ……はい。ヴァイオリンなら演奏できます」
「じゃあ採用な。キミの部屋は一階の端っこ。あとで俺の弟子が案内するから待ってな」
「!……ありがとうございます!!」

新しい住人が増えるの、寂しがりの私が好きだって知ってるからだよね、リオさん。ありがとう。
この人たちのノリについていけないという困惑が滲み出ているレイくんをよそに、勝手に雇用する私達。
オトというものは、いつの時代も、人の心の根底で流れ続けるものなのだよ。レイくん。



こうして、真夜中の散歩で見つけた子、レイくんは森の洋館で半ば強制的に住み込みで働くことになった。
彼のヴァイオリンの音色がイルスに気に入られて、毎日せがまれるのはまた別のお話。




ーRainford 幻想物語の迷子 完ー




原作:Mel_Lioly、Ray
ノベライズ:Angelo

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