Annaの日記(小話) Farewellに至る幻想の断片
Annaの日記
あと7日
私とクララが永遠にお別れするまでの7日間を、クララのために書いておこうと思う。
選別の儀式のずっと前から、私が生贄になろうと思っていたんだよ。
だってクララは泣き虫だから。
お姉ちゃんの私が代わりに苦しいのは引き受けるね。
あと6日
この村の人たちを恨まないでね。
私のことを追いかけないでね。
私はクララに笑っていて欲しいから。
クララは優しいからすぐに泣いちゃうんだよね...綺麗な心を忘れないでね。
あと5日
今日はクララと一緒に寝る。
あの日からずっと大人たちに儀式をやめてって言ってまわって疲れちゃったんだね。
この日記を書き始める前に、まだ涙で顔を濡らしたまま先に寝ちゃった。
心配かけてごめんね。
私は...怖くないって言ったら嘘になるけど、クララを守れるなら後悔なんかしないよ。
大切なたった一人の私の片割れだもん。
あと4日
儀式の準備が告別の教会で始まった。
この儀式は双子の私たちのどちらかが悪魔が人の姿になったもので、もう一人はその悪魔を抑える天使が人の姿になったものだから、悪魔を殺して天使に村を守ってもらうものなんだって。
私たちのどちらかが悪魔なら、きっと私だと思うんだ。
クララみたいに優しい涙はあんまり流せないから。
あと3日
儀式の日までクララとはお別れ。
儀式の日には最後のお別れ。
檻の中は狭くて冷たいな...
大人たちが一つだけお願いを叶えてくれるって言ったから、この日記は持ってこれたよ。
ちゃんとクララに届けてもらえるといいな。
この日から私たちはお揃いの青い服を着るんだよね。
最後にお揃いの服が着られてちょっと嬉しいな。
あと2日
ねぇ、クララは覚えてる?
小川で遊んだ日、森の中を冒険した日、旅の人に楽譜っていうものの読み方を教わった日...
ずっときらきらした世界で私たちは生きてきたんだね。
生まれた時からずっと一緒だったから、私も最後まで一緒だと思ってたんだ。
でも、本当は違ったんだね...とっても残念だけど、仕方ないことだと思うんだ。
もっと未来に生まれるか、弊習のない村に生まれたらこの願いも叶ったのかな?
弱音を吐いちゃってごめんね。
私は遠くからクララを見守るつもりだよ。
あと1日
この日記もこれでおしまい。
儀式は私を十字にした大きな祈りの祭壇にはりつけて、上から下から...青い服が紫になるように私の血で染めあげて悪魔に死を、天使に生を与えるんだって...
クララに私から最後のお願い。最後のわがままを聞いてもらってもいいかな?
私の分まで幸せに生きて欲しいんだ。
私の時間は13歳の誕生日、明日で終わっちゃうから、いつかまた無垢の彼方で会えたときにどれぐらい幸せで楽しくていい時間を過ごせたか教えて。
私の願いは最初から最後まで、クララが笑いながら幸せに生きていくことだから...
辛かったら私のことなんか忘れてね。
クララ、貴女は貴女だけの未来を生きて。
お別れだよ愛しい...クララ、さようなら。
ー彼女の死とともに焼却された日記
最後の願いは妹に届かぬまま...
妹は選び、苦しみ、同じ過ちを繰り返すこととなる...ー