ナントカ堂 2021/03/20 15:35

宋初無頼の徒①

 『金史漢族列伝』に元無頼の徒であった王倫について書きましたが、北宋末になると儒者が幅を利かせ、自身は有効な手が打てないのに、この類の人物を何かと排除しようとします。
 まだ社会が混沌としていた宋初においては無頼の徒にも活躍の余地があり、『宋史』巻二百五十二の論賛などには「宋初の諸将は、民間から奮起し従軍して立身した。盜賊・無頼が立身したが、犬肉や絵を売っていた者(漢の高祖の臣の樊噲と灌嬰)と何ら変わらない。みな卓越した能力で自ら身を立ち道を得たのである。」とあります。
 五代の頃に無頼の徒から身を興したのは『宋史』巻二百五十二の譚延美と王晏、太宗に取り立てられた無頼の徒は巻二百五十二の傅思讓と巻二百七十五の元達。そしてこれから述べる荊罕儒も無頼の徒の出です。


荊罕儒(『宋史』巻二百七十二)

 荊罕儒は冀州の信都の人で、父の基は王屋令であった。
 荊罕儒は若いころ無頼で、趙鳳・張輦と共に群盜となったが、後晋の天福年間(936~943)に連れ立って范陽に行き、燕王の趙延寿に身を委ねると、親兵の隊長となった。
 開運の末(946)に趙延寿が契丹主の徳光に従って汴に入ると、荊罕儒は密州刺史に任じられた。後漢の初めに山南東道行軍司馬に改められ、後周の広順の初め(951)に率府率・奉朝請となったが、あまり活躍できなかった。

 顕徳の初め(954)、世宗が高平にて従わない者を討とうとした際、驍勇の士を求めた。通事舎人の李延傑が荊罕儒を推挙したため、行在に召されて招收都指揮使となった。太原に遠征すると、荊罕儒は歩兵三千を指揮して先に敵領内に入るよう命じられた。荊罕儒は兵たちに馬草の束を背負わせて太原城に直行し、東門を焼いた。この功で控鶴弩手・大剣直都指揮使に抜擢された。
 淮南平定に従軍して光州刺史となり、その後、泰州刺史に改められ、下蔡守禦都指揮使と舒州蘄州招安巡検使となった。四年に泰州を降すと、真拝の刺史兼海陵・塩城両監屯田使となり、翌年三月に世宗が泰州に来ると、荊罕儒を団練使として、金帯・銀器・鞍勒馬を賜った。六年春、軍吏や父老が都に行って留任を願ったため、恭帝は荊罕儒にお褒めの詔を送った。

 建隆の初め(960/宋代)に鄭州が防禦に昇格すると、荊罕儒は防禦使となり、その後、晋州兵馬鈐轄に改められた。荊罕儒は自らの勇を恃んで敵を軽んじた。以前に騎兵を率いて晋領内深くに攻め入ると、多くの人が門を閉ざして城壁から出なかったため、多くの戦利品を獲た。
 その年の冬、再び千騎あまりを率いて汾州の城壁前に迫り、草市を焼いてから整然と引き揚げ、その夕には京土原に着いた。北漢の劉鈞は大将の郝貴超に兵一万を指揮して荊罕儒を攻撃するよう命じた。夜明けには京土原に到着したので、荊罕儒は都監・氈毯副使の閻彦進に軍の一部を指揮させて防がせた。そして荊罕儒自身は錦袍に鎧を着用して胡床に座り、兵たちを集めて慰労し、羊肉を割いて食べた。閻彦進がやや押されたと聞くと、馬に乗って兵を指揮し、敵の鋭鋒に向かって攻撃した。北漢軍はこれを突き崩し、荊罕儒はなおも自らの手で十数人殺したが、遂には殺された。
 劉鈞は以前から荊罕儒の武勇を畏敬していたため、常に生け捕りにしようと考えていた。荊罕儒が死んだと聞くと、討ち取った者を探し出して殺した。
 太祖は痛惜して止まず、荊罕儒の子の荊守勲を西京武徳副使とし、京土原の敗戦の責任者を探して、慈州団練使の王継勲を率府率、閻彦進を殿直に左遷し、部下で龍捷指揮使の石進徳ら二十九人を斬った。

 荊罕儒は財を軽視して他人に与えることを好んだ。泰州に居たとき、海塩の利が毎年膨大で、世宗から八割を自分の物にしてよいと許されていたが、諸費用には不足し、家財から支出して、その額を聞くことは無かった。
 供奉官の張奉珪が使者として泰州に来ると、自らを後唐の張承業の子であると言った。荊罕儒は「私は以前から張特進の名を聞いていたが幸いにしてその子と面識が得られた。」と言うと手厚くもてなし、銭五十万と米千斛を贈った。

 荊罕儒は書を知らなかったが、進んで儒士を礼遇した。進士の趙保雍が最終試験で落ちて海陵で遊学していると、荊罕儒は何か欲しい物はないか尋ねた。趙保雍は都に帰ろうとしていたところで、「長江に行くので糸を交易して利益を得たい」と言った。荊罕儒は蔵を管理する下僕を呼ぶと、蔵の中の糸を全て持ってくるよう命じた。蔵には糸が四千両以上あったが、全て趙保雍に与えた。
 一方で武勇を好んで戦いを得意とし、勝敗には拘らなかった。常々太原の平定を望んでいたのに志を果たせずに死んだため、人々は惜しんだ。荊罕儒の兄は延福で、延福の孫が嗣である。

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