フロントガラス叩き割り男の思い出
フロントガラス叩き割り男のことを、皆さま覚えておいででしょうか。
一見頑丈そうに見えるフロントガラスも、実はとっても繊細です。
それはある冬の日の朝でした。日が昇るにつれて路上が明るくなり、夜明け前までは見えていなかった傷跡が浮かび上がります。
うーん?
何か汚れがついているのかな?
プシュ、プシュー。
キュッ、キュッ、キュッ。
ウォッシャー液とワイパーで洗っても、傷は微塵も消えません。
これはもしや……?
触ってみます。フロントガラスの内側に傷が入っていました。ほんの一センチほどの、線状の傷。
あー、これはさっき電話がかかってきたときあわててノートをダッシュボードの上に投げたら角をぶつけたところだ。
不幸にもそこは運転席の目の前。エイムマークがあればまさにど真ん中というところです。他の人が昼間運転すれば5秒で気づかれてしまいます。
正午。私はタダで停められるホームセンターの駐車場で昼食のきなこおにぎり(手作り。1コあたり約12.25円)を頬張りながら、修理の方法と費用を調べてみました。
ざっくり見積もっても業者に出すなら1~2万円、自分で直すにしても4,000円かかります。
うーん、4,000円かぁ。この傷一つ消すためにコンパウンド液を丸々一本買うというのは、なかなか気の進むものではありません。それでも傷は気になります。
正直に白状して上司に報告すべきでしょうか。いや、それよりもまず先に車に詳しそうな先輩にこっそり相談してみるのもいいかもしれません。でも結局最終的には、総務の怖いお局様に大目玉を食らうのだろうと思います。
折しも、その日は点検でした。
私は午後そのまま車をディーラーに持って行き、営業マンに耳打ちしました。
「実はぁ~、フロントガラスの内側に傷がついちゃったみたいでぇ~」
「あー、なるほど。ちょっとお待ちくださいね」
数分後、営業マンはタオルとボトルを持って現れます。
あ、それはもしやあの一本4,000円する大手外資系メーカーのコンパウンド液!
プシュプシュ、キュッキュッキュッ。
き、き、き、消えたーーーっ!!!
「あ、あ、あ、あのあの、修理費用は……」
「お代は結構ですよ」
神かー!?
ありがとうト○タ。乗用車は買えないけど、ミニカーを買うときはト○タの車を選びます。
もうダッシュボードにものは置かないよ。