ラーメン二郎の鋼鉄の掟

「ニンニク入れますか?」
「あ、普通で」
「お客さんの普通と、うちの普通は違うんですよ」

高菜を食べてしまったわけではありませんが、ご新規さんにハードルの高い店というのは存在します。初入店時は経験者同伴が望ましいというのは、事実上の一見さんお断りといっても過言ではないかもしれません。

そのお店は二郎系インスパイア。
一説には本家二郎よりもおいしいとの評価もあります。

このお店に限らず二郎系ラーメンのお店でありがちなのが、冒頭のやり取り。トッピングを希望しない場合は「そのままで」と言うのが鉄則です。
「普通で」だなんて言おうものなら「『普通』とは何か」という禅問答が始まってしまいます。

今回お話しするのは私が学生以来かれこれ10年以上お世話になっている老舗(?)ですが、ここ一年は横浜に引っ越していたため足が遠のいていました。

しかしまた近隣に引っ越したので再び通い始めることになりました。
しばらく来ないうちに店員さんが代替わりしていました。ここのお店はどういうわけか特定の店主というのが存在せず、歴代の二人組の店員が店を任されているようです。オーナーとか、経営者らしき人物の姿は見たことがありません。それとも店の権利ごと代々継承されているのでしょうか。

閑話休題。
久しぶりにお店に来たら今度はとても怖い店員さんになっていました。というかそもそもお店のシステム自体が変わっていました。どのくらい変わっていたかというと自民党政権から民主党政権になっていたくらい変わっていました。

例えば食券を買うタイミング。私が知る限り10年以上にわたって「食券は買ったらすぐに提出」というシステムが維持されてきた券売機には大きな文字で「食券はあとで」と張り紙されています。
トッピング(呪文)の唱え方も、わざわざお客さんの前に来て聞くのではなく、調理場から聞いてくるので、壁の「ニンニク ヤサイ アブラ カラメ」の札の横に貼られた養生テープには「大きな声で はっきりと」と書かれています。

何より衝撃的なのは、上記同様私の知る限り10年以上にわたって封印されていた「麺カタメ」が実装されていたことでしょうか。昔からある「麺カタメやってません」の札が、最後の文字「す」だけ付け足して「麺カタメやってます」になっていました。
というかこの店の麺は最初から硬いだろ、というのは初めて来たときから思ってましたが。

それはさておき今度の店員さんはとても怖い人でした。初見で「大ラーメン」を頼むと大変なことになるというのは歴代変わらぬ不文律ですが、今回はそのとっちめ方が半端じゃないです。

「食券出して」
「つ『大ラーメン』」
「麺何グラム?」
「え?」
「麺は何グラムかって聞いてんの」
「えっと……」
「お客さん初めて? うちのラーメン麺何グラムあるか知ってる? そこ(券売機)に書いてあるからそれ読んでからまた言いに来て」

私が食べているあいだにもう一人、大ラーメンの食券を手にした人がやってきました。

「麺何グラム?」
「え?」
「麺は何グラムかって(ry」
「普通は何グラムなんですか?」
「お客さんご自身で決めていただきます」
「えっと……」
「決まるまでそこで考えてて」

決まるまでそこで考えてて。学校の先生かな?
学生の多い街なので、だらけきった若者に喝を入れる地元の怖いおじさん役なのかもしれません。

明らかなことが一つあります。
ラーメン二郎に「普通」はない。だからインスパイアのこのお店にも「大ラーメン」と「小ラーメン」しか存在せず、「中ラーメン」がないのでしょう。ここで迂闊に「大」を選んではいけません。「小」がすでに「大」なのです。

ちなみに小ラーメンの麺の量は370g。それより小さいミニラーメンは200gです。
食券を渡す際に「麺少なめで」という呪文を唱えることができるのと同様に「麺マシ」という呪文もあるので、実際のところ麺400gちょっとなら小ラーメンのチケットで食べられます。「大」の食券を買う人は500g以上を食べるフードファイターということです。

その昔、「大」の食券を手にして「麺1kg」という呪文を唱えた人がいたという噂を聞いたことがあります。その際の店員さんは「入りきらないんで、器二つ使ってもいいですか?」と対応したそうです。
その光景を目にした人は、先に食べ終わってしまって店を出たので、麺1kgマンが実際に完食したかどうかは、定かではありません。

それにしても学生の頃は麺少なめじゃないと食べきれなかったのに、社会人になってからは370gをペロリといけてしまうのが怖いです。なぜなのでしょうか?

この記事が良かったらチップを贈って支援しましょう!

チップを贈るにはユーザー登録が必要です。チップについてはこちら

記事のタグから探す

月別アーカイブ

記事を検索