なんでもない思い出の宝箱

部屋の中は、静かだった。
外はきっと寒いんだろうけど、ここはちゃんとあったかい。
ヒーターの小さな音。
カップから立ちのぼる湯気。
それだけで、時間がゆっくりになる。
しゃちん君は、ぼんやりカップを見ていた。
まる秘ちゃんは向かいで、両手でカップを包んでいる。
ちょっと猫みたいに、丸くなって。
「……あったかいお」
「ちょうどいい温度だお」
「熱すぎないのがいいお」
「分かるお。急がなくていい感じだお」
まる秘ちゃんは猫舌
すぐには飲まない。
ただ、湯気を眺めている。
「ねえ、しゃちん」
「ん?」
「さっきから、ずっと同じ顔してるお」
「え、どんな顔だお」
「考えごとしてる顔。でも、そんなに重くないやつだお」
しゃちんは少しだけ笑った。
「……何も考えてないお」
「そういう時ってあるおね」
「うん。頭が空っぽでさ」
「それ、いい状態だと思うお」
まるちゃんは、そう言って少し肩をすくめた。
「まる秘ちゃんといるとさ」
「うん」
「ちゃんとしなくていい感じがするお」
「分かるお」
「説明しなくてもいいし」
「強がらなくていいし」
「変な沈黙があっても、嫌じゃないお」
しゃちんは、その言葉を聞いて、少しだけ息を吐いた。
「……すごく助かってるお」
「えへへ」
まる秘ちゃんは照れたみたいに、まんまるいカップを口に運ぶ。
「しゃちんはさ」
「うん?」
「いつも一生懸命だからたまに、力抜ける場所がないと……壊れちゃいそうだお」
「大丈夫だお。まる秘ちゃんがいるお、ちゃんとブレーキかかるお、しゃちん壊れないお」
その一言が、静かに胸に落ちた。
外で、風の音がした。
でも、部屋の中は変わらない。
「ねぇ」
「なんだお?」
「こういう時間ってさ」
「うん」
「特別なこと、何も起きてないのに」
「なんか、ちゃんと幸せだなって思うお」
まるちゃんは、少し考えてから、ゆっくりうなずいた。
「多分ね」
「“何も起きてない”のが、いいんだと思う」
「……なるほどだお」
「イベントがない日」
「頑張らなくていい日」
「ただ一緒にいて、話して、あったかいだけの日」
「それ、意外と貴重だお」
「うん」
少しだけ、間が空く。
でも、その間も心地いい。
「まる秘ちゃん」
「どうしたお?」
「もしさ」
「この時間を、箱に入れられたら」
「どうする?」
まる秘ちゃんは少し考えてから答える。
「思い出宝箱にするお」

「おお」
「疲れた時に、そっと開けるんだお」
「……それ、いいお。前からいいと思ってた、いい言葉だお」
「ふんふんふふ〜〜ん♪」
まる秘ちゃんは得意気だった。

二人で、ふふっと小さく笑う。
「……また、こういう時間ほしいお」
「うん」
「約束しなくてもいいから」
「思い出して、戻ってこられたらいい」
しゃちんは、そっとカップを置く。
「……ここ、好きだお」
「ボクもーーーーー☆」

まる秘ちゃんは幸せにいった。
キャッキャッキャッキャッと暖かい部屋でなんでもない話をたくさんたくさん。

あったかくて、
少しだけ切なくて、
でも確かに、幸せな時間。
この時間は、静かで、目立たなくて、
でも心の奥に、ちゃんと残る。
そんなしゃちまるのひととき

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