まる秘ちゃんとたんぽぽの歌
〜たんぽぽだぽぽ〜
春のはじめ。
風がまだ少し冷たくて、でも日差しはちゃんとやさしい午後。
しゃちん君は、ベンチに座っていた。
となりには、ちょこんとまる秘ちゃん。
「ねえしゃちん」
「ボクね、たんぽぽ好きだぽぽ」
急にそんなことを言って、
まる秘ちゃんまるっこい足をぶらぶらさせながら、道ばたを見ていた。
「ほら、あれ」
しゃちんが視線を向けると、地面のすき間から、ちいさな黄色が顔を出していた。
たんぽぽ。
誰に褒められるでもなく、
誰に期待されるでもなく、
ただ、そこに咲いている花。
しゃちんは、少しだけ黙ってから言った。
「ね、まる秘ちゃんたんぽぽの歌、知ってる?」
「ううん。知らないぽぽ」
しゃちんは、ゆっくり息を吸って、
声を落とす。
「どんな花より
あなたにたんぽぽを贈りましょう、って歌」
それだけ言ったところで、
声が少しだけ、震えた。
マルヒちゃんはすぐに気づいて、
しゃちん君を、きゅっとつかむ。
「……それ、やさしい歌だぽぽ」
「なんで、泣きそうなの?」
しゃちんは、少し笑って、少し困って。
「派手じゃないけどさ」
「強くて、あったかくて」
「“あなたに”って言葉が、重たいんだお」
まる秘ちゃんは、しばらく考えてから、
立ち上がった。
とてとて、と歩いて、
たんぽぽの前にしゃがみこむ。
「……これ、あげたいぽぽ」
まる秘ちゃんは、そっとたんぽぽを摘んで、
しゃちんのところに戻ってきた。
「はい。しゃちん」
「どんな花より、これだぽぽ」
しゃちんは、受け取ったたんぽぽを見て、
今度こそ、ちゃんと泣きそうになった。
「ありがとうだお」
たんぽぽは、特別じゃない。
でも、
“あなたに贈る”って気持ちが乗った瞬間、
世界で一番の花になる。
まる秘ちゃんは、にこっと笑って言った。
「だいじなのはね」
「きれいかどうかじゃないぽぽ」
「ちゃんと、相手を思ってるかどうかだぽぽ」
春の風が吹いて、たんぽぽの綿毛が、ふわりと舞った。
しゃちんとまる秘ちゃんは、
そのまましばらく、並んで座っていた。
言葉は少なくても、
心は、ちゃんとあったかかった。
◆
しゃちん君は、たんぽぽを、そっと確かめる。
まる秘ちゃんの手のぬくもりが残っていた花。
つぶれないように、
折れないように、
大事に、大事に。
「まる秘ちゃん」
名前を呼ぶと、
まる秘ちゃんは、少し驚いた顔で振り向いた。
「どうしたんだいしゃちん?」
しゃちん君は、一瞬だけ言葉に迷ってから、
いつもより、静かな声で言った。
「たんぽぽの歌を思い出したんだ」
まる秘ちゃんは、
それだけで、少し察したみたいに、
黙って聞いてくれる。
しゃちん君は、大きなたんぽぽを取り出した。
「はい」
「え……?」
「派手じゃないけどさ」
「強くて」
「ちゃんと、ここまで生きてきた花だから」
まる秘ちゃんは、
たんぽぽを受け取って、
しばらく、じっと見つめていた。
それから、
胸のあたりに、そっと抱く。
「……あったかいぽぽ」
しゃちん君は、
その一言で、胸の奥がきゅっとなった。
「どんな花より
あなたにたんぽぽを贈りましょう、って歌。今日は、それをしたかったお」
まる秘ちゃんは、小さく笑って、うなずく。
「しゃちん、うれしいぽぽ」
「きれいな花束よりこういうののほうが、ずっと残るお」
しゃちん君は、静かに、うなずいた。
たんぽぽは、特別じゃない。
でも、
ちゃんと想って、
ちゃんと渡した花は、
心の中で、咲き続ける
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