【小説】ゆめはるストーリーズ2026~第1話 ヒイラギのお留守番/家族写真~
ゆめはるストーリーズ2026
第1話 ヒイラギのお留守番
~家族写真~
「来てくれて助かったわ……ありがとう」
「気にしなくてもいいんだよ。ヒイラギちゃんも、家族じゃないか」
「……家族……」
胸の奥が、チクリとした。
先ほどの源次さんを思い出す。
彼は、亡くなった奥さんを今でも愛しているんだろう。
颯太さんもきっと、家庭の中で、家族の一員として愛情をいっぱいに受けたんだと思う。
ああ、違う。そうじゃない。
もちろん、マコトは私を大切にしてくれているわ。
マルコだって、娘であるマコトを大切にしている。
――私は?
両親が別にいて、マコトが親代わりになっていることは知っている。
リリスもアダムも、セフポンも。決して私を否定はしないけれど、100年一緒に過ごしたマコトに比べたら、正直よく知らない人たちだし……。
待って。
私、マコトが自分を守って傷ついてたことも、知らなかったじゃない。
……もしかして、私は【家族】というものを知らないのかもしれない。
(そう、なに一つ)
彼らがどういう気持ちでいるのかも。
「ヒイラギちゃんが何を考えているのか……なんとなくわかるよ。そうだね、僕はマコトにとってはあまりいい父親ではなかったよ。生まれた時、僕たち夫婦はあの子を捨てた。人間に危害を加える存在だ、家族を不幸にする存在だっていうお告げを信じてね。今なら馬鹿げていると否定できるが、当時は……死神と呼ばれたあの子が怖かった。向き合うことができなかった。でもね、死んで再会してから……ようやく向き合うことができたんだ。500年もかかったよ。僕は家族になれたかなと思っているけれど、マコトは……どう感じているのかはわからない」
そう言ったマルコの目は、とても辛そうだった。
マコトの隠れた右目と同じ、翡翠の瞳が揺らいでいる。
この人は、とても苦しんだんだ。
必死に家族になろうと、マコトに向き合ってきたんだ。
(私も、向き合わないと……いけないのかも)
私とマルコは、お客様の来ない時間、他愛のない話に花を咲かせた。
源次さんが店を出て3時間ほど。
花鏡が光りはじめた。
それが、お花を贈る合図だ。
普段ならマコトと一緒にその様子を観察するのだけれど、今日はマコトのお父さんとだ。
なんだか変な感じだ。
―― 源次視点 ――
生花店 ゆめとはる。で、ヒイラギちゃんからハーデンベルギアの花を受け取った。
花屋の存在自体は、上司である深津唯人から聞いていたし、彼女とマコトさんが同一人物であることは――……当然ながら知っている。でも、わざわざこちらから伝える必要はない。しかし、まさか、颯太もあの店に行っていたとは。
妻が亡くなるよりも前から、唯人さんと息子たちは親しい中ではあった。
母親を亡くした息子たち二人にとって、唯人さんは、なんでも相談できるお姉さんのような存在だった。颯太が唯人さんのバーの常連であることは知っていたが、いや、まさか……花屋の常連であったとは思わなかった。人間界にあるバーとは違って、生花店は誰でも行けるような場所にはないからだ。
あの店に行ったということは、あいつは……。ああ、いや、野暮なことを聞くのは辞めておこう。【今は生きている】のだから、詮索は不要だ。
「ただいま」
「じいじ、おかえり!」
「おかーり!」
今、娘夫婦と同居している。
5歳と3歳の孫二人が、俺を迎えてくれた。
今年の年末、もう一人増える。
息子たちも当然可愛いが、孫というのは目に入れても痛くないくらいに可愛い。
あらおかえり、と娘が顔を出した。
「じいじ、お花~。ばぁばにあげる?」
「そうだよ。今日はばぁばの20回目の命日なんだよ」
「めいにち?」
二人にはまだ、死を理解できない。
とにかく遠いお空に住んでいる、とだけ説明した。
二人は自分の母親の元へ走っていく。
俺はそれを見送って、仏間へと足を向けた。
仏間には、颯太と浩太が座っていた。
妻の命日には、毎年家族全員が集まる。娘・葉月の夫の誠治も家にいた。
「ハーデンベルギア。さすがだね、センスがいいや」
颯太が言った。
「花に詳しかったか、お前」
浩太が問うと、颯太は
「詳しいってわけじゃないんだけど。最近……よく花を見るんだ。花って癒されるんだよ」
「へぇ……」
「あれ、このラッピング……。珍しいな。マコトさんにしては雑だ」
「ああ、ヒイラギちゃんが包んでくれたんだよ」
「通りで」
「心がこもっていて、いいじゃないか」
花を仏前に供え、手を合わせた。
妻が亡くなって20年。あっという間だった。
彼女は28歳で時を止めた。
写真の中の彼女は、変わらない。
俺は、ずいぶんと老けてしまった。
「母さんは……俺に気が付いてくれるのかな」
「気付くも何も、父さんは昔と変わらないじゃないか。まぁ、確かに白髪は増えたけどさ」
「そうね。シワも増えたけど……」
「メガネが変わったくらいでさ、そう大して変わらないじゃん。どうしたの、急に」
俺の何気ない一言に、三人がそう言った。
別に、どうってこともないけれど。
ただ、子育てがひと段落して、いよいよ自分の第二の人生って考えると……寂しい気がして。
老後は夫婦二人で旅行に、なんて……。
いいや。
息子たちも、孫もいるし。決して孤独というわけでもない。
でも。やはり……。
家族といっても、それぞれ家庭を持つと、今までの親子というわけにもいかない。
家族の形は、時間の流れで変わるものなのだ。
「じぃじ、あそぼ」
「あしょーぼ」
大地と宗次に服を引っ張られる。
「父さんさ、この20年精一杯私たち三人と向き合ってくれたじゃない。これからはさ、新しくできる家族と一緒に思い出を作ってよ。天国で母さんと再会した時、いっぱいお話するためにも」
「ありがとう……」
「そうだよ。父さんは母さんの分まで生きてもらわないと。ひ孫抱いてもらわなきゃ」
「兄さんの言う通りだよ」
三人の成長を感じながら、心の中で、妻の遺影に話しかける。
(松子、俺はまだまだ……そっちには逝けない。土産話を用意して、そっちへ逝くからな……一人にしてしまうけれど、待っててくれ)
ふわり、と、遺影が笑った。
(一人だなんて。私はいつでも、あなたの側にいますよ)
松子の声が、聞こえた気がした。
「さ、みんな並んで!写真を撮るよ!」
「いつもありがとう、誠治くん」
毎年、俺たち家族は仏前に並んで写真を撮る。
家族写真を。
セルフタイマーで、誠治くんも一緒に。
「はい、笑って!」
―― ヒイラギ視点 ――
「いい写真ね」
「ああ。僕も、マコトと写真を撮りたいな」
「え……撮ったこと、ないの?」
私の問いに、マルコは無言で頷いた。
しまった……聞いちゃいけなかったわ。
「家族全員、揃ったことがなくてね。500年かけて、ようやく僕と妻……マルシアと会ってくれるようになったんだ」
「マコトにもきょうだいがいるのね」
「ああ、兄が二人、弟が一人、双子の妹が一人……ね」
「仲が悪い……とか?」
「ああ、違うよ。息子たちは僕たちと一緒に住んでいるけれど、娘の方は……人間として生まれた影響もあってか、こちらの世界には来ていないんだ。ずっと、人間に転生してるよ。それもあって、揃うことがないんだよ。タイミングもあるんじゃないかな」
「なるほど」
「ああ、そうだ」
「なぁに?」
マルコは鞄から、カメラを取り出した。
「一緒に撮ろう!」
「え!?」
「はい、こっち向いて~!」
マルコにつられて、私もカメラレンズを見た。
「笑って~」
シャッター音が鳴る。
カメラのディスプレイには、笑顔のマルコと私。
「いい写真撮れたぞ~」
マルコは、心底嬉しそうに見えた。
私の心が、じんわりと、温かくなった。
ー続くー
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明日の10時に
ゆめはるストーリーズ2026
第1話 ヒイラギのお留守番
~ポインセチアのシオリ~
公開です。
マコトの父と、ヒイラギの想いが溢れだす――
二人を見守ってくださいね!
皆様に良きフラワーライフを。
まこと