look my heart
シーン:学生寮、週末
(寮の部屋。週末で、ほとんどの学生は帰省しており、残っているのはほんの数人だけ。)
(主人公の男がベッドにだらりと寄りかかり、スマートフォンを弄っている。)
(母親へのメッセージ画面。最新の二つ:「学校、もういたくない」「家に帰りたい」— これらは5分間隔で送信されている。その上には、数週間おきに送った過去のメッセージがずらりと並んでいるが、母からの返信は一つもない。)
(男は深いため息をつき、スマホを置いて廊下に出る。振り向いた瞬間、一人の人物がカメラを男の目前に突きつけている。)
(この人物を、ここでは「ディレクター」と呼ぶ。)
ディレクター: よし、お前だ。探してたのは。
男: あんた…誰?
ディレクター: 見ての通り、カメラマンさ。
男: いや、何の用?
ディレクター: 隣の部屋の者だ。映画の主役にぴったりの憂いのある少年を探してたんだ。で、ちょうどいい役者が見つかったってわけさ。興味あるか?
男: 時間ないよ。他の人をあたってくれ。
ディレクター: そっか。
男: 映画を撮ってるって言うけど…?
ディレクター: 映画って言っても、10分そこらのショートフィルムさ。ネットで公開するんだ。
男: 俺がフォローしてる配信者もそんなの作ってる。その配信者、名前は?
ディレクター: シェイクスピア。
男: あの「シェイクスピア」? 感動シーンが気恥ずかしくて、広告の挿入も無理やりで評判悪いって…?
ディレクター: やめろやめろ、コメント欄で何百回も叩かれてるネタをわざわざ言われたくないよ。で、正体がわかったところで、興味は湧いたか?
男: 正直、そんな気分も体力もない。
ディレクター: そうか。わかった。
シーン:寮の部屋、2週間後
(男は布団をかぶっている。隣のスマホには父親からのメッセージ:母親が病死したこと、生前に男のために少しばかりの金を残していたこと、倹約するように、と。)
(男は虚空を見つめる。突然、立ち上がり、叫び声をあげる。)
(部屋のドアが次々に開き、寮生たちが顔を出す。寮母の怒鳴り声:「うるさい!寝られないなら出て行け!」)
(皆がドアに集まったその時、男は床に倒れ、血を吐く。)
(救急車がすぐに彼を搬送する。)
シーン:病室
(目を覚ました男は告げられる:心臓に問題があり、遺伝性の病気だと。あと何年生きられるかはわからないが、時間は確実に限られていると。)
シーン:ディレクターの部屋、週末
(男がゆっくりと入ってくる。)
ディレクター: 体調、どうだ?
男: 心臓がダメで…あと数年しかないらしい。
ディレクター: えっ…?
男: でも…悪くないかもな。少なくとも、余生を母親の死の影の中で過ごさずに済む。それに、彼女が金を残してくれた。余生を遣り過ごすには十分だ。
ディレクター: 同情すべきか、感心すべきか、一瞬わからなくなったよ。
男: ああ、それで…別の用事で来たんだ。お前がやろうとしてた映画、まだ俺、必要か?
ディレクター: どうしてまた撮りたいと思い出した?
男: なあ…死ぬ前に、この世に何か残したいんだ。そうすれば、生きてきた意味もあったって思えるだろう?
(ディレクターは手にしたカメラを見つめ、しばらく沈黙する。)
ディレクター: 仕方ねえな。ここ半月撮り溜めた素材、全部パーだ。最後にちゃんと成果を出さないと、安らかに逝かせてやらないからな。
シーン:寮外、昼間
(ディレクターと男が、毎日昼にこっそり寮の外に出て、台本通りにシーンを撮影し、そのまま教室へ向かう。)
シーン:教室
(ディレクターが男を自分の教室に連れて行く。教室はがらんとしており、一人の女生徒がぼんやりと座っているだけ。)
ディレクター: (小声で) こいつ、この前、目が見えなくなったんだ。それでも毎日学校に来て、何もできずに、ただボーッとしてるだけさ。
男: ? ああ…でも、声は聞こえるんだろ…?
ディレクター: とっくに気にしてないよ。これから一、二日、彼女に簡単なシーンを手伝ってもらう。ついでに、数分出番も作る。
男: え、どういう…
ディレクター: つまり、お前と同じで、彼女もこの世に何か残したいらしい。お前ほど急いではいないが、この年で何かやりたいんだろうな。
(その後の数日間、女生徒は二人と共に撮影に参加する。)
シーン:寮の部屋、夜
(女生徒が男にツタで編んだブレスレットを渡す。)
女生徒: 母さんが編んだの。感謝の気持ちを込めて。
男: ありがとう。
シーン:教室、翌日
(女生徒の姿がない。)
男: 彼女、休み?
ディレクター: 休みじゃない。転校だ。養護学校へ。親の意向らしい。
男: そっか…昨日、急にプレゼントをくれたのは、そういうことだったんだな…
ディレクター: そうだと思わなかったのか?
ディレクター: とにかく、俺たちの撮影は続ける。5ヶ月後に文化祭がある。あの時、スクリーンに映すんだ。
シーン:文化祭、ステージ
(5ヶ月後。男が別の生徒にUSBメモリを渡す。その生徒がマイクで言う:「次は、この生徒による自主制作短編映画をご覧ください」。)
(男のナレーション): この5ヶ月、色んなことがあった。結局、彼の用意した脚本は捨てて、この間に起きた出来事をそのまま映画にした。文化祭で公開し、彼の夢を叶えたら…自殺しようと思っていた。
(映画が始まる。女生徒が学校を去った後、男が自宅で薬物を吸引し、仏像を抱きしめながら「ようやく来たな」と泣き叫ぶシーン。)
(男のスマホの残高は一桁。教祖様からのメッセージ:ロシアの私立病院で、独身の貴族が病死し、臓器提供の承諾書に署名していた。その心臓が男に完全適合する。これが男の「第二の人生」だと。)
(教祖様が旅費を貸し、ロシアで手術を受けるよう勧める。)
シーン:寮の部屋 (映画内のシーン)
男: 治るかもしれない。ロシアの私立病院に、俺にぴったりの心臓があるらしい。手術が成功すれば、あと何年か生きられる。
ディレクター: どこからそんな情報? 確かなのか?
男: 騙されたって構わないよ。どうせこのままじゃ長くは持たない。賭けてみたいんだ。
ディレクター: 落ち着けよ。父親は知ってるのか?
男: あいつ、家庭内暴力で俺の親権を失ったんだ。
ディレクター: そうか…ちょっと待て、その連中、何て言ってるんだ?
男: 金がなければローンを組めって。利息は免除してくれるらしい。重要なのは、すぐに手術ができること。金のことは後でいいんだ。
男: 行くよ。生きたいから。お前、最近あんまり撮影に誘わないだろ? もう必要なシーンは撮り終えたんだろ? 先に手術に行ってくる。戻ってきたら、映画の完成品を見せてくれ。
ディレクター: (深いため息) はあ…付き合うよ。誰が撮影終わったって言った? ちょうどいい、道中のシーンも撮れるしな。
(男とディレクターは飛行機でロシアへ。現地の街を散策し、撮影し、遊ぶ。翌日、指定されたルートで雪山を越え病院へ向かう。出発前、男はまた薬物を吸引する。)
シーン:雪山の中 (映画内のシーン)
ディレクター: マジでな、自分が本当に映画を撮るなんて思ってなかったよ。
男: お前、配信者じゃなかったのか?
ディレクター: 違う。たまたまその配信者を見てただけだ。
男: なんで嘘ついた?
ディレクター: お前があまりに落ち込んでるから、冗談のつもりだったんだ。でもその後、あんなことになって…本当のことなんて言えるかよ。
ディレクター: でも、俺たちが撮ってる映画は本物だ。脚本も書いた。編集も少しはかじってる。お前は必ず生きて、この映画がアップロードされるのを見るんだ。
(ディレクターの口は動いているが、男には声が聞こえない。登坂を続ける男の眼前に、山は果てしなく続いている。彼は歩き続ける。長い時間が過ぎても下り坂はなく、そのまま登坂が宇宙へと続いている。)
(男は興奮して星を見上げ、カメラを取り出して眼前の光景を撮り始める。坂の上で、男は誤って転がるが、落ちることはなく、宇宙の深淵へと泳ぎ出していく。)
男: ディレクター! このシーンを映画に入れろ! これでこの作品は完璧になる!
男: ディレクター! 俺の命と命をつなぐ点を感じる! すぐに第二の命へとたどり着く!
男: ディレクター…。
(男の視界に太陽が大きく膨らみ、近づいてくる。それは真っ赤なミルクの塊となり、彼の上に降り注ぐ。)
シーン:病室 (映画内のシーン)
(暗転の後、男は病床にいた。彼はベッドサイドのテーブルの上にある「心臓提供承諾書」を見つめる。目を上げると、カメラは彼の記憶の中の、今とは異なる光景へと切り替わる。)
(男は雪山で倒れ、ディレクターが彼を背負って歩くが、やがて二人とも雪の上に倒れ込む。)
(ディレクターが男を見ると、男は何かをつぶやいている。ディレクターはナイフを取り出し、自分の腹を切り裂く。流れ出た血で雪が染まる。その赤が上空のヘリコプターに見つかり、二人は救助される。)
シーン:病室 (映画内のシーン)
(男は「心臓提供承諾書」を見つめる。そこにはディレクターの名前。署名日は、彼と男が出会ったその日だった。)
(映画終了)
シーン:文化祭ステージ
(映画が終わり、客席の生徒たちは皆、涙を流している。男がステージに上がり、ポケットの中のナイフに手を伸ばす。)
(その時、彼は何かを見て手を止める。客席に、一緒に映画を撮ったあの女生徒が座っていた。彼女は男を見つめ、涙を流しながら笑顔で拍手している。)
(男の回想シーン:二人が映画を撮った校舎の屋上)
(女生徒が男に「角膜提供承諾書」を渡す。そこにはディレクターの名前。署名日は、三人が初めて映画を撮ったその日だった。)