他者変身RPG(小説) その5
小説シリーズ、思いのほか反響があったんで
続きを書いてみました。
ここからは新規、つまり2026年時点での私が書き下ろした物になります。
「はぁっ……はぁっ……」
「勇者の国」セントラル王国はマウン村。その北にそびえるマウン山から
一人の少女が歩いてきた。可憐な顔には無数の傷が残り、所々破れた服からは
これもまた傷つき赤くなった生肌が覗き、豊満な体が露わになっていた。
少女は息を整え、そして絶叫した。
「何で勝てねえんだクソが!」
少女、もとい少女に化けているアホ男、フォーゼは思いっきり叫んだ。
25にして碌な仕事もしていないロクデナシだった彼は、ある日
「他人に変身できる能力」なるけったいな能力を手に入れた。
そのチートじみた能力の発動条件が「感謝される事」であるという事で
ならば世界中色んな女の子に感謝されてみようと冒険の旅に
出る事にしたのである。
そして鼻息荒くマウン山に飛び込んで行ったところで、魔物どもに
半殺しの憂き目に合わされほうほうの体で逃げ帰ってきたのがここまでの話。
天然のダンジョンであるマウン山のこと、敗れてボロボロになって帰ってくる
冒険者は珍しくないが、甲高い声をまき散らしながら、白く肉付きのいい脚で
臆面もなく地団駄を踏む美少女の姿は流石に目につく。と言うか目に余る。
幾ら外見が美少女であっても、いやむしろ美少女であるからこそ
見るに堪えない。
ましてそんな醜態を姉の体でされているフォーゼの弟分レオにおいては
何をいわんや、である。
ちなみにレオは変身をしていない。変身できる女の子のレパートリーが
シオン一人である現状、二人ともが同じ体になるのはいかにも間が
抜けているし、かといって弟分だけ美少女に変身させる事をこの俗物が
了見出来る訳も無いので、自然そういう形になる。
「本物の姉ちゃんならコウモリの大軍なんかに負けないし。
やっぱり「変身」って言っても外見だけなんじゃない?」
う、とフォーゼはその可憐な顔を赤らめた。
マウン山の原生動物「マウンテンバッド」は生物学的には魔物に分類される。
そうは言ってもドラゴンやデーモンといった花形に比べて
コウモリにやられるというのは実に恥ずかしい。
「この体スペックは高いんだけど動きにくいんだよなあ……」
動きにくい、と言いながら胸をぺたぺたと叩く。
その姿を見て、一躍突撃したは良いが胸の揺れに引っ張られるように
すっころんでコウモリの群れの中に飛び込んで行った醜態を思い出し、
レオは暗澹とした。
「まあとにかく、んんっ、この体に、はぅっ、慣れる事だな♡」
胸を弄る手を早め、顔を更に赤らめながらフォーゼが言う。
何に慣れる気なのか、少なくともコウモリとの戦いに益する類のものでは
無いに違いない。
とりあえず姉の体のむこうずねを思いっきり蹴り飛ばしつつレオは言う。
「とりあえずその服をどうにかしないと」
「俺の体をまずどうにかしないとだろ……」
涙目でうずくまりながら呻く姉の体を見ると、流石に罪悪感がくすぐられる。
そう言えばこの男、元々満身創痍だったなとレオは今更ながら思い出した。
「姉ちゃんは回復魔法を使えたよ?使ってみれば?」
「回復魔法か……」
一応魔術師の端くれの片隅にとりあえず籍を置いている感のある
フォーゼだが、「回復魔法」は正確には魔術では無い。
なのでロジックは分からないのだがとりあえず一般的な回復魔法と言われる
「ヒールⅠ」を使ってみる。
「お、お……?」
傷が治っていく。魔術の心得の一切ないレオにもフォーゼの両手が
光っているのが見て取れた。これが癒しの力なのだろう。
「スキルは使えるみてえだな。なのに何で……」
こんなに弱いんだろう、と言う言葉をすんでの所で呑み込む。
若干、いやフォーゼの見立てではかなりシスコンのケのあるこの弟分の前で
こんな事を言ったが最後、またむこうずねを蹴られかねない。
「……でもやっぱコウモリに負けたんだもん。
この体がそんなに強くねえんじゃねえの?」
「おりゃあ!」
「いてっ!」
知れ切った蹴りを喰らい悶絶するアホ男。一度呑み込んだ言葉を
呑み込み切れずに吐き出すあたりこの男の軽率さは並大抵ではない。
「姉ちゃんの体は強いよ。強いけど……それを動かす兄貴が弱いんだよ」
「それを言われたら元も子もねえだろ」
元々強かったら何も変身能力なんぞに頼っていない。元々が
にっちもさっちもいかなかったからこそ他人の力をアテにしているのだ。
「でもちょっと努力すれば絶対に強くなれるよ?その体なら」
「俺努力嫌いだし」
「うわあ」
ぷい、と顔をそむける。これが見た目通りの美少女ならばまだ見れるが
齢25の大男が「努力はイヤだ」と顔を背けている姿は
情けなくて涙が出てくる。
と、急にフォーゼが歩きだす。まさか自慢の軽率っぷりを発揮して
またマウン山に挑む気か、などと思っていたら、山とは反対方向に
進んでいく。
「よし、先生に相談してみよう。何か助けてくれるかも」
なるほど、とレオはうなずく。
フォーゼの師、テリオンは若くして魔術師学院の准教授を務めた英才にして
「変身能力」を開発した張本人、そして何より不肖の馬鹿弟子に
異様に甘い事で有名な御仁である。
でなければまさか便利な能力を貰った挙句、少しの努力も嫌だから
助けてくれ、などと言いに行くのにこうも足取り軽くは向かえない。
テリオンの家の門前、フォーゼはレオの方を振り向きいししっと笑う。
「あ、そうだ。せっかく今変身してるんだしちょっとからかってやろうっと」
悪意の欠片も無い、甘えたような笑顔。
姉の顔でのその笑みが余りに眩しくて、レオは目を逸らした。
「ほう、ほうほうほう!
凄いじゃ無いか、完璧だよ!」
目を光らせながらぐいと迫ってくるテリオンに、フォーゼは残念そうに言った。
「先生、あっさり俺だってわかったんだな」
魔術師学院時代から堅物で女っ気のない恩師に美少女の振りをして
からかってやろうと思った矢先、あちらの方から寄られてはたまらない。
「この家に客人なんてそうそう来ないからね。そこに来て急に
器量の高い娘が来れば想像はつくという物だよ」
「流石は先生」
残念がるのを一転、フォーゼは嬉しそうに笑う。
あえて相手に突っ込まれるようなことをする、と言うのが
彼の愛情表現であった。
それは決して珍しいものでは無いけれど、その手の類はおおよそひねくれ者で
素直でない者だと相場が決まっている。
即ち「思ってもいないような事を言って突っ込ませる」のが普通な所、
この男は「自分の本音を言った挙句それをを突っ込ませたい」のである。
行きつく先が怒られ上手の甘え上手、なるほど4年留年するのも頷けるところだ。
「先生、聞いてくれよ。俺は決めたんだ。
今まで世間様に迷惑をかけてきた分、そのご恩返しをするってな!」
「殊勝な心がけだ。その世間様というのが見栄えの良い女性に
限定されているという点を除けば」
「うっ」
困ったように頭を掻くフォーゼだが、それでも内心楽しんでいるのである。
そしてテリオンの方もそう言う会話を楽しんでいるのだから、
実の所頃合いの師弟であると言えなくもない。
「ところで先生、やっぱり努力ってしなきゃいけねえ?」
一瞬ぽかんとし、すぐさま溜息をつく。
その一言であらましを理解したのは、テリオンの頭の良さか
付き合いの長さか、恐らくその両方なのだろう。
「体の力を引き出すのは結局中身、君自身だからね。
冒険者としての力を高めるには冒険者としての努力。
即ち魔物退治の経験を積むことが必要だよ」
この先生の偉い所は、フォーゼの過信軽率怠惰を理解しつつ、
あくまで理路整然と正論を説いて聞かせる事だろう。
流石のアホもうんうんと聞いていたが、そうだとばかりに
「適度に弱い敵が出てくるようなダンジョンねえかな。探索してるだけで
適度に成長出来て適度にお宝も拾える適度に安心なやつ」
などとふざけた事を言う。
しかしながらこの先生の偉い所は、理路整然とした正論を弟子が
受け付けない事は100も承知の上、その正論に少しでも近くなるような
邪道を用意できることである。
「あるよ」
「あるの!?」
聞いたフォーゼの方が驚く。曰くマウン村の中に急にダンジョンができ、
そのダンジョンがいかにも初心冒険者に都合のいい設計になっているらしい。
そんな都合のいい物がそうそうある物か、と普通なら思うが
どっこいこの男は普通では無い。特につい最近「変身能力」なる
都合のいい能力を都合よく貰ったばかりなのだ。
「そんじゃ先生、ちょっくら行ってくる!」
挨拶もそこそこ、かけ出して行くフォーゼを見ながら
変わらないな、と妙な安心を覚えるテリオンだった。
……あれ?一切進んでないぞ?
でも大丈夫。聞く所によると一般的な文庫本って
大体一冊10万字らしいっすね。
今の段階で1万5千字くらいなんで、一冊のおおよそ1割5分。
目標は1冊目終了時点でセントラルに行く事なんで
丁度いいくらいになるんじゃないでしょうか。
まあ一番の問題はそもそもこの企画が10万字行くまで
続くかどうかなんですが。