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小槻の活動報告です【だれでも+無料プラン】

こんにちは、小槻です。

Ci-enで活動を始めて、もうすぐ一週間くらいになります。

いろいろと作品の移行作業をしたりで、作品の投稿が主になっていましたので、自分も少し話そうと思い出てきた次第です。

まずは報告から入ります。

姉とくらべられ、いじめられてきた妹が救われる話の一話なのですが、改めて読んでみると長かったので、二話に分割して投稿しなおしました。読んで頂いた方、すみません!

これからもよろしくお願いします。


次は、改めまして。

私の作品を読んで頂きありがとうございます!
皆さんの作品もすごくワクワクしながら拝見しています!本当に、好きの熱気って最高ですね!(^^)
私も自分の好きを目いっぱい表して、楽しい場所にしたいなと思います。


では、短いですがこれにて!

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ご挨拶&進捗報告です!

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秘密

「ミサイルが発射されると、地下鉄が止まるのは地上から逃げてきたひとを轢き殺さないためなんだって」

柴田さんがそう言ったのは、まさしく電車が停止したときだった。ミサイルは発射されたからじゃなく、単純に停まる駅だったからだ。僕たちは地下鉄に乗っていた。
 そして僕はその言葉に、間延びした「うん」を返した。一応面白い返しをしようと試みたあとだったので、唸ったようなみっともない返事だった。残念ながら僕は、そういう大人の事情は知らないし興味もなかったのだ。ただ、もうすぐ高校生であるし、そういうことを知らずまた興味を持たないというのも何となく格好がつかないのもわかった。だから僕がこの後さらに、

「そうだったのか。案外、考えられてるんだね」

などと言葉を重ねたのは、何てことはない、そういう色気心ゆえで、何の意味もなかった。
 柴田さんが、僕を見上げ、うんとうなずく。僕の心は三つに分かれる。感触が悪くなかったことへの安堵と、どうかこの話を広げてくれるな、という思い、そして、伏せられた睫毛に見惚れる気持ち。ぐるぐる混ざりあうと、結局睫毛に軍配が上がる。逆アーチ状で、いつか見たフランス人形のようだ。
 扉がしまり、また電車は動き始める。


前編

 柴田さんとは、同じ学校で、同じ塾に三年間通った。兄のお下がりのガタが来はじめのランドセルを、壊すことなく背負い、もうすぐ無事に背負い終える、という頃のことだった。
 鞄と違って、頭はお下がりできない。中学に上がれば取り残される予感しかない僕だった。それに対する危機感を当人の僕より持った両親が、高いお金を払って僕を塾に入れた。願いむなしく、報われたとは限らない僕の成績だが、

「きっと行かなきゃもっとひどく、僕は引きこもりか不良になっていたでしょう」

とでも言えば事足りるような気もしていた。
 とはいえ、僕にも羞恥心はある。わいてきたといっていい。正直に言うと抱いたことはなかった。年齢だとか自意識だとか、繊細な理由はたくさんあげられる思春期という年代。それらを一切考慮にいれないものだ――少なくとも、僕はそう思っている――

 理由とは、柴田さん。それだけだった。
 初めて会ったとき、柴田さんは今と同じ、肩までの長さの髪を自由にして、塾の前から二番目の席に座っていた。静かに本を読んでいて、軽く伏せられた目はちょうど今のように逆アーチで、下まぶたに影を落としていた。
 あまり綺麗で、何より雰囲気のある様子に思わず見とれた。
 その日は、近くに座って――これはほぼ無意識だった――柴田さんの姿をじっと目に焼き付けていた。中学校が一緒だと知ったときは、ほんの少し運命らしきものを感じた。塾のクラスのやつほとんどがそうだったので、はかない運命だったけれど。とにかくそれからというもの、僕は柴田さんをずっと見てきた。だからといおうか、柴田さんが頭がいいことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
 先生に指名されたときすっと立ち上がる。その気負いなく伸ばされた背筋に見惚れた。柴田さんの声は涼しげで、暑い夜のクーラーのきいた部屋みたいだった。

 先ほど言った羞恥心が芽生えたのは、柴田さんと初めて話したときだ。塾の集中講義のときに、柴田さんがたまたま、ノートを取りきれなかったのか、隣の――これはたまたまじゃない――僕に内容を尋ねてきた。その時、二、三言授業の内容に触れたのだ。なにも、難しい事じゃない。数学の定理だったと思う。後で見ればテキストの単元後との見出しにのっていた。でも僕はそれを知らなかったので、それだけ言われてもロシア語かフランス語か、とにかく耳慣れない言葉にしか聞こえなかったのだ。
 正直を美徳としている僕はわからないことを誤魔化さない。いつもの僕ならすぐにわからないと言った。
 なぜかそのとき、僕は適当に相槌を打ってしまった。「ああ」とか「ふん」 とか外国人っぽいジェスチャーだったと思う。柴田さんはすぐに見破った。そして、「知らないの」とぽつりと言った。
 罵倒でも蔑みでもなく、単純に疑問が口をついてでたというていだった。ポカンとした顔。伏し目がちの落ち着いた表情以外で初めて見た顔だった。可愛かった。しかし、同時に僕はそのとき全身から汗が吹き出るような心地がした。羞恥と言うものだと知った。馬鹿は結構恥ずかしいのだと知った。十五才を目前に控えた日のことだった。
 それから、僕はほんの少し真面目にテキストを読むようになった。いつ話を振られてもいいように。しかし、それ以来、柴田さんに話を振られる事はなかった。ほんのちょっと成績が上がったので親は喜んだ。
 学校では三年間クラスは端と端で、接点をうまく持てなかった。だからおそらく柴田さんにとっては僕の印象はアップデートされておらず、勿論そう劇的進化を遂げたわけではないけれど少し心苦しい、そんな思いを抱えながら、今日まで来てしまった。
    

後編

 僕は柴田さんと地下鉄にのっている。特に理由があるわけではない。単純に、帰る方向が同じで、電車に乗る時間帯が同じだった。柴田さんはいつも自習室で勉強をしてから帰る。塾での友人に引っ張られ、すぐ駅へ向かう僕と乗り合わせるわけはなかった。しかし、今日は友人が休んだことと、柴田さんが自習をしなかったことで、奇跡の乗り合わせが起きてしまった。
 柴田さんは僕に気づくと会釈した。僕は気づけば、横並びの座席の端に座る芝田さんの前に立っていた。

 会話はなかった。緊張でつり革は僕の汗でぬるぬるになった。
 ミサイルと地下鉄の話が、今このとき初めて発した言葉だった。そして僕はうまい返しが思い付かず、柴田さんは頷いたことで会話は終了してしまった。
 もう少し賢くなっておけば良かった。もういちど真摯に僕は思った。しかし、なにも面白い話も浮かばず、電車は僕の降りる駅に近づいてきた。

 柴田さんは、僕の志望校よりもずっとずっと賢いところへ行く。塾の先生が自慢げだったので間違いない。こうやって話せる機会はもうこれで最後かもしれない、そんな悲壮な気持ちになる。

「まあ、わたしもよく知らないんだけどね」

走馬燈がよみがえるなか、柴田さんが不意に付け加えた。Twitterの情報らしい。不確かな情報を、言ったことに対する罪悪感か、少し眉を下げていた。


「わたしの母さん、電車に轢かれたの」

 電車が止まった。僕は、時間も止まった気がした。僕は柴田さんの顔を見ていた。伏せられていない瞳を、まっすぐ見つめるのは初めてだった。

「いっそミサイルのせいだったらよかった」


 僕の降りる駅だ。柴田さんの顔から、黒の瞳から目が離せないのに、視界の端に見慣れた駅の名前が入るのが不思議だった。扉の向こうの喧騒が、ぼやけにぼやけて聞こえる。

「これってひどいと思う?」

柴田さんの目が、険しくなった。唇がぎゅっと横に引っ張られる。
 喉につまったように、言葉が出ない。息さえ止まっているように感じた。
 笛の音が鳴った。
 扉がしまる。電車がまた、ゆっくりと動き始めた。その振動を足に感じながら、僕は柴田さんの目がそれからゆっくりと潤んでいくのを見ていた。


完.

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現想少女

 ひとことひとこと、つむぐことで形作られる。
 その形を感じることができたなら、それは決して嘘なんかじゃない。



一話

「またやってるのかよ」

 キーボードを叩いていると、背後から声。肩越しに視線だけよこすと、声の主は、マグカップを片手にため息をついた。本当に飽きないな、そう付け足して章の隣に座る。

「何々……『そうそう、教えてもらった曲、聞いたよ』」
「おい、読むなよ」
「俺のパソコンだろうが」

 コンピューターの画面を体で覆って、隠そうとした章に、呆れたような声を上げる。

「哲夫ってなまえかいとかないと、馬鹿の章はわすれちゃうんかね」
「……うるさいな」

 章は言葉に詰まる。明らかにバカにしたような物言いに反発の感情がむくむくとわいたが、唇を噛むことで抑え込んだ。コンピューターは実際、自分より二歳うえのこの男――哲夫のものであり、自分がそれを相手方の厚意で借りているのは事実だからだ。
 早く大人になりたい。
 肩に力を入れて口をつぐんだ章を哲夫は一瞥すると「へえへえ」と適当に返し、頭を二、三度大きな手の平で叩いた。章の葛藤もわかっていますよ、という風に。それがまた気に入らなくて、章は手を払いのけた。

「追い出すぞ」
「……すみません」
「ん」

 マグカップに入ったコーヒーを一口すすり、哲夫は頷いた。それから、おもむろに画面を指差した。昼にかかわらずカーテンを閉め、暗めの哲夫の部屋は、ブルーライトをよく感じる。哲夫が指差したのは、先程読み上げた部分だった。

「返してやらなくていいわけ」
「あ。……返すよ」

 言葉に、思い直したように章はキーボードに指をのせる。それから、カタカタと音をならし始めた。
 僅か百四十字に込められる気持ちは多くはない。だからこそ、できる限り伝わるように考えていたい。

「『気に入ってもらえてよかった!大好きな曲なんだ』お前さあ、やっぱキャラ違いすぎるだろ」
「うるさいってば。ていうか見んなよ」

抑揚のない声でだらだらと読み上げられ、頬がかあと熱くなる。哲夫が文面を読み上げてくるのは、毎度のことながら、いつまでたっても慣れず恥ずかしい。必要以上に肘を張って、バリケードを築いたつもりで章は続きを打つ。

「章さあ」

哲夫が尋ねた。章は、画面を見たまま「何」と返す。

「お前、いつまでこんなこと続けるつもりなん」

哲夫の声は、静かな水面に、石をそっと落としたように、章の心に波紋を作った。決して煩くない。綺麗な波紋が、その証拠だ。ただ、疑問、そしてただ心配であると告げている。だから章は、こういうとき、胸のうちにずんと何か重いものが落ち、それがゆっくりごろごろ転がるような気持ちになる。

「……うるさいよ」



二話

 botのように吐き出す、習い性の憎まれ口も、実体なくむなしく響いた。そうしたってなんの解決にもならないことを、知っているからだ。

 佐渡章に、ネット上の恋人ができたのは、一か月前のことだった。
 出会いを求めた先で付き合ったのではなく、初めは趣味を通しTwitterで繋がるという、友達からのスタートだった。カコというハンドルネームの彼女は、とても章と趣味に対する考えかたや入れ込み方に至るまで、とてもよくにていた。打てば響くように言葉が返ってくる。彼女のツイートを見ていると、章はまるで自分が呟いているように思うことさえあった。本当は自分は二重人格で、知らない間にカコを演じているのだと。荒唐無稽な話だが、電子で繋がっていると、相手は確かに自分へと反応を返すのに、そこに肉体的なイメージを付随するのが難しくなるときがある。カコは誰より気の合う友達だが、実在しない友達でもあった。
 それが覆されたのは、カコが自分にたいして直に連絡を取りたいと言ってきた時だった。カコも章と同じように考えていたのかもしれない。リアルタイムで話をしたい、声を聞いてみたいと言ってきたのだ。はたして、互いは確かに存在する人間か? 一見馬鹿げた疑問を抱きながら、Skypeを用いて二人は初めて肉声を用いて会話した。そのときの気持ちを、章は話せるものなら、目についたすべての人に話したかった。でも同時に、誰にも話したくないと思っていた。

『もしもし、あきさん? ですか』

 カコは自分のようだという感覚。それは、カコの声を聞いた瞬間、「初めて会った気がしない」に変化した。そして、それが自分のように感じていた理由だということも悟った。章は、ずっとカコに会いたかった。
 章の声を、カコは笑わなかった。自分の声は別段嫌いじゃないし、笑われることにも慣れていた。しかし、カコに誉められて自分が笑われることに疲れていたのだと知った。
 彼女が生きている、自分と同じ人間だという事実は章にカコを意識させるには十分の出来事だった。そしてそれはカコも同じだということを、自惚れでなく感じていた。
 カコの本名が、加古茜だということを知った頃、章はカコに告白した。そして、その返答は今現在の関係が示す通り。
 ふと章が我に返ると、哲夫はいなかった。いつの間にか部屋から出ていったらしい。哲夫は章の従兄であり、携帯の通信の制限がかかるとこうしてコンピューターを貸してくれている。高校生で親の庇護下にある章にとって、ありがたい存在だ。

三話

 それでも、素直にありがたいと言えないのは哲夫の言葉が、ひどく現実的で、的確に刺さるからだ。

「うるさいよ……」

 いつまでもそうしてるわけにいかないだろ、何度も言われた言葉だ。理解している。章が、いつもあえて見ないようにしていることだ。

 カコのことが好きだ。初めて会った気がしない。ずっと、きっと大好きだ。でも、だからこそ胸の奥がずっと重いのだ。
 それは痛みを発している。章が避けようと避けようとしている無視しているだけで、ずっと痛い。

「でも、自分は嘘をついてなんかない……」

 こんな、麻酔をかけ続けている。そして、同時にそれは章にとって、誤魔化しではない真実でもあった。
 カコに接する自分こそが本当の自分なんだ。
 章はその確信はあった。ただ、それを声を大にして叫べるかというとそうではない。どこまでも誤魔化しではない、章にとって本当に大切な真実があるからこそ、章はそこから動けない。
 カコから、Skypeの誘いが来た。でも今は話せそうにない。声がぐらぐらと揺れてしまうから。

「いつまで続けるつもりなん」

 また、哲夫の声が頭のなかに蘇る。うるさい、うるさいと頭を抱えた。それでも声は消えてくれない。大学生で、悠々としているその顔まで浮かんでくる始末だ。とても恨めしい。どうあっても、顔の通り受け止めてもらえる、その姿が、恨めしくて、羨ましかった。


四話

「章ちゃん」

 ノックの音の後に、哲夫の母である叔母が部屋に入ってきた。章は表情を取り繕って振り返った。

「何、おばちゃん」
「お菓子買ってきたから、一緒に食べない?」

 八重歯を覗かせて、手にしている袋を掲げた。近所で有名なケーキ屋の名前がプリントされている。

「わあ、いいの? ありがとう! いただきます」

 自分からすれば大袈裟なくらい、声を高くして喜んだ。章の声は低くて抑揚がないと、友人は皆言うからだ。

「いいえ。じゃあリビング行きましょ」

 紅茶かな、コーヒーかしら、そう言う叔母に、ううんと迷うそぶりを見せながら立ち上がる。章のセーラー服のプリーツスカートが、ひらりと太股を刺激した。その感覚にぞっとしたこともあった。麻痺させるうちに、慣れてしまった。
 そう、麻痺させて、誤魔化しているのはこちらの現実なのだ。章は思う。

「やっぱり女の子ね」

 甘いもの一緒に食べられるし、そのことばを、奥歯の奥できしきし噛み締めながら章は笑った。

五話

 あきら、僕、佐渡。章を示す呼称。それから好きなもの、嫌いなもの、誕生日。最悪、誕生日も知らなくていい。名前を呼ぶだけで、その名前さえ、自分の決めたもので、もしくは相手の好きな呼び方でいい――
 それだけで全てを示しきれたらどんなにいいだろうか。全てを示すことができたら。そう章は思う。
 もっとシンプルに生きてみたい。心を覆う外枠も越えて、ただの自分で、誰かと繋がることを許してほしい。
 けれど、そんな夢を、カコを好きになるほど自分が嘘だと叫びそうになる。嘘なんだという気持ちが、痛みとなって現実に呼び醒ます。
 電子の海にある真実をまだ、さらうことができない。


『あのね、わたし あきらと会ってみたい。あわなくても、顔を見て話してみたい』

 嘘つき!と叫ぶ声。章は、自分のその声を胸の奥底に封じている。いつか、別の声にかわるのを恐れながら。


了.

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