ひよぺん幼稚園 May/26/2025 07:45

30.遊びの4要素から考える、感情を動かすボードゲーム設計【雑記】

概要

カイヨワの遊びの4要素とアナログゲームについて考えてみます。
なお、彼の著書『遊びと人間』(1958年)は未読であり、本記事はネット上の情報や自身の経験をもとにした内容となっています。

そのため正確性に欠ける部分もあるかもしれませんが、本記事の目的としては
「4要素の分析」ではなく「4要素を意識したゲーム制作」ということにします。
また、今後私たちがゲームを制作するうえでの指針・備忘録としての意味合いを持たせています。

遊びの4要素とは?

『遊びと人間』(1958)を以下の4要素に分類したものです。詳しい内容は省略します。

アゴン

競技性のある遊び(例:スポーツ、ボードゲーム)

アレア

運が介入する遊び(さいころ、ルーレット)

ミミクリー

模倣する遊び(演劇、ごっこ遊び)

イリンクス

めまいや感覚の変化が伴う遊び(ジェットコースター、回転遊具)

これらは「ゲーム」という枠組みに限らず、「遊び」全体を分類するためのフレームワークです。
約半世紀前に提唱された理論ですが、現代のデジタルゲームにも応用できる点が興味深いところです。

アナログゲームと4要素

この要素は「遊び」自体の要素分けです。
なのでアナログゲーム(ボードゲーム)だけに適用できるものではありません。
また、全てを満たしている必要もありません。

具体的に当てはめつつ考えてみたいと思います。

将棋

アゴン:高
⇒アブストラクトによる純粋な要素
アレア:なし
⇒アブストラクトゆえ、運の介入はなし
ミミクリー:低
⇒戦争を模しているがゲーム性に関係はしていない
イリンクス:なし
⇒そもそも静的なものである

「アゴン」「アレア」は非常にわかりやすいです。
一方、「ミミクリー」はあるにはあるが、意識することはまれでしょう。
イリンクスは基本乏しいです。なぜならアナログゲームに感覚の変化は伴わないので。

イリンクスとは、その定義の拡張

このまま進めていてもイリンクスが薄いのは明白です。
なぜならアナログゲームは静的で動きを伴わないからです。

そのため、イリンクスの定義を拡張してみたいと思います。
これは「アナログゲームを4要素に当てはめる」のが目的ではなく
「4要素を用いてアナログゲームの要素を分析する」ために許される行為だと思っています。

イリンクスは一般に「ジェットコースター」で例えられますが、それを
「身体的な変化」から「感覚の変化」と解釈します。
そのうえで、先ほどの将棋を再度分析してみます。

イリンクス:なし→低
⇒王将を追い詰めた時に「王手」ということで、緊張が走る

これで少しは分析が進んだと思います。

麻雀

アゴン:中
⇒スジ読みによる役の推察や、知っている役の幅でアガリの手が変わる
アレア:高
⇒配牌・ツモなど、鳴きを除き引くことのできる牌の数は均一
ミミクリー:なし
⇒花などが描かれているが、特別何かをモチーフにしているわけではない
イリンクス:中~高
⇒立直、後半に進むにすれ放銃の可能性の緊張感、賭けが入ると一気に緊張感が増す
また、牌をガチャガチャする陶酔感
※賭けマージャンは違法です

こうしてみると麻雀って遊びの要素としてはかなり高いんですね。

また今回、イリンクスの要素に「牌を触る」というものを追加してみました。
麻雀を実際にしたことある人ならわかると思いますが、牌って見た目のわりに結構ずっしりしていて、
ガチャガチャしているだけでも楽しいって思うんですよね。

…そういう意味では、先ほどの将棋も同じことがいえると思います。
つまり紙やプラスティックでやるよりも、木材の駒を使ったほうが手触りがいいため、楽しく遊べます。

また、強烈なイリンクスを感じさせるものとして人狼があります。
狼側になったときのドキドキ感、それだけで言えばアナログゲームの中でも最上位に位置すると思います。

なお、身体を動かすタイプのゲームに関しては、イリンクスの要素が自然と含まれるため省略します。

楽しさをどこまで保証するか

遊戯である以上そこには「楽しさ」が必要ですが、一方でそれがルールの中にあるとは限りません。
例えゲーム性は低くとも、「交流」が加わることで十分遊戯として成立することもあり得ます。
その代表として賭博、ここではチンチロリンを上げます。
※賭博は違法です

アゴン:なし
⇒グラサイ等イカサマがあれば変わる?
アレア:高
⇒サイコロを振るだけ、しいて言えばションベンしないよう気を付けよう
ミミクリー:なし
⇒歴史的にはあるかもしれないが、重視されることはない
イリンクス:高
⇒賭けが前提であるため

チンチロリンは基本的に運任せの要素が強く、一般的な意味での「駆け引き」は少ないといえるかもしれません。
それでも雰囲気によっては盛り上がることもあるでしょう。
これは「楽しさ」をルールで保証しなくても、遊べるということではないでしょうか。

チンチロリンを「サイコロを振って役を出す」と思えばつまらないですが、
参加者同士盛り上がる・盛り上げようという空気感が加われば話は別と思います。

以前Xで「陽キャはすぐ罰ゲームを設定する」(意訳)というのがありました。
普段ゲームに接している方々は罰ゲームの必要性に疑問視すると思いますが、
「他者との交流」ととらえれば、理解はできると思います。
(歩み寄るかどうかは別です)

健全な例で言い換えると「すごろく」「坊主めくり」も同じではないでしょうか。
「遊び」として分解すると、運のみのゲームで遊ぼうと思いませんが、
「子供と遊ぶ」「他者との交流」を目的した場合、選択肢としてあがってもいいかと思います。
(坊主めくりは花札に触れる、という目的もありますね)

なお、すごろくにふんだんの「ミミクリー」と少量の「アゴン」を混ぜたものは
「人生ゲーム」と呼ばれています。
そう考えると、世代問わず遊ばれているのも納得だと思います。

私たちの作品について

2025年春のゲームマーケットで、私たちは2作品を発表しました。
その過程で参加した試遊会や、現地の反応も考慮して、4要素を振り返ってみます。
ゲーム内容については、私たちのWebページのリンクを記載しておきますので、
一緒に読み進めていくとわかりやすいと思います。
シャイニングシティ
https://hiyopenzoo.cloudfree.jp/project-shiningcity.html
ぱぴぃ☆すたあず
https://hiyopenzoo.cloudfree.jp/project-papisuta.html

前提

シャイニングシティ

アゴン:中
⇒デッキ構築による戦略性
アレア:低い
⇒購入できるカードの変化、一方で山札が少ないので引き運は抑えられている(0にしやすい)
ミミクリー:中
⇒レジスタンスとして活動する、という世界間の確立
イリンクス:低
⇒防御カードによる読み合いなど、緊張感のある場面はあるが、頻度は高くない

ぱぴぃ☆すたあず

アゴン:低~中
⇒トリテなので手札運次第、ビッド宣言なし。一方でカードの組み合わせによるコントロールがある
アレア:高
⇒トリテなので手札運次第
ミミクリー:中
⇒飼い主となりコンテストに出場する
イリンクス:低
⇒他人の手札を見るというより、手札管理のほうが強い

考察

どちらの作品も、まずコンポーネントを決め、その後にそれに合うルールを設計しました。
「シャイニングシティ」は、ボードゲームを少し触れたことのある人(特にデッキ構築経験者)を想定した中級者向け。
一方、「ぱぴぃ☆すたあず」は、初心者にも遊びやすい作品を目指して設計しました。

そのため、「アゴン」「アレア」に関しては、バランスよく組み込めていると感じています。
また「ミミクリー」についても、テーマを確立していること、Youtube等を活用した世界観構築などができています。
これら3要素については、企画と作品が大きく乖離することなくできていると思います。

一方で「イリンクス」には課題が残りました。
「感情の振れ幅」という観点から見ると、ゲーム側が提供できる「盛り上がりの波」がやや薄かったと感じています。

・「シャイニングシティ」:扇動カードによる読み合い
・「ぱぴぃ☆すたあず」:高アピールによる逆転

これらの場面を想定していたものの、それらが必ず発生するわけではなく、プレイ中の波としては弱めでした。
とはいえ、両作とも程よい思考量(例えるなら単純な3手詰将棋を常に考えられる)
を提供しており、プレイヤーが常に「考えながら遊べる」設計となっています。
ただ、その設計ゆえか、「難しそう」「ハードルが高い」といった声を何度かいただきました。

これが良い悪いではなく、単純にゲームデザイン設計者(はやと🐧、この記事の執筆者でもある)は「考えること自体が楽しい」ので、
それ以外の楽しさまで用意する発想がなかった、というものがあります。

今後の展望

強烈な「イリンクス」(感情の揺さぶり)を組み込むのは難しく、また遊んでいても疲れる可能性があります。
ただ、適度な緊張感と盛り上がりの波を用意するのであれば、そこまで難しくないと思います。
何より、盛り上がりポイントがあるに越したことはありません。

ボドゲ最大の特徴は「他人と遊ぶ」ことにあります。
予期しない行動、思考の違い、感情の揺れ――
こうした「他者とのインタラクション」を意識的に取り入れることで、自然と「イリンクス」も強化され、より魅力的な遊びとなるでしょう。

今後は、「思考の楽しさ」だけでなく「感情の楽しさ」も設計に組み込んでいけたらと考えています。
そのために、理詰めだけでなく、他者との関わりに起因する偶発的な要素も組み込んでいくつもりです。

最後に

今回は遊びの4要素を自分なりに解釈しつつ、ゲーム制作への応用を考えてみました。
繰り返しになりますが、私は『遊びと人間』の原著を読んでいないため、内容に誤りや見当違いな点があるかもしれません。
ただ本記事の目的は「正確な分析」ではなく「遊びを意識したゲーム制作」にあります。
その点をご理解いただけますと幸いです。
また、もしご指摘いただける点があれば、建設的かつ整理されたご意見をいただけると大変ありがたく思います。。

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