ちょろぴゅあSS #1「TSあきら君がTSする前の話」
◆登場人物
・相馬 朗(そうま あきら)
身体が女の子になっちゃった男の子。普段はツンとしているがテンションが上がるとパァッと明るくなる。今回のエピソードでは、女の子にTSする前=男の状態。
・高橋 拓也(たかはし たくや)
あきらの親友。趣味がよく合うので仲が良い。ノリが良く友達が多い陽キャ。
・芹沢 りん(せりざわ りん)
あきらやゆいな達のクラスメイト。(オトナ向け)漫画家を目指すトラブルメーカー。
◆#1「TSあきら君がTSする前の話」
著:ちょろぴゅあ公式
監修:konomi(きのこのみ)先生
放課後の夕方。
朗と拓也は残って掃除当番。
しかし掃除もそこそこに、箒をその辺に放ってバカ話に花を咲かせている。
「…でさ、最近見たアニメで主人公が女になってさ!TSってやつ!あっれまじ興奮したわー。拓也は女になったらどうする?」
不意におかしなことを言い出す朗。
「は?急になんだよ藪から棒に」
拓也はそっけなく返す。
「やー、女になった主人公がめっちゃ可愛くてさー」
「ほーん」
「で、もし俺が女になっちゃったらどんな感じになんのかなーって妄想捗る捗る」
朗は目をキラキラと輝かせ、心なしか熱がこもった声で語る。
「んー…」
朗の勢いに押され、思わず真剣に考え始める拓也。
「オレは仮に女になったとしても、男と付き合うってのはねえな」
「ふーん」
ちょっと意外そうな朗だが、それこそ逆に意外だと言わんばかりの様子で拓也が反論する。
「中身はオレのままなんだろ?オレ女好きだし」
「中身はオレのままなんだろ?オレは女が好きだし」
当然のことを当然に言われ、返す言葉が見つからない朗。
そんな様子にも気づかず、拓也が聞いてくる。
「お前は?」
「お、オレ!?」
思いがけない展開に、素っ頓狂な声をあげてしまう朗。
「いやそりゃ、オレにだけ聞いといて自分はなんも言わない、はナシだろ」
「うう…それはまあ…」
何やらばつが悪そうな朗は、そのまま黙りこくってしまう。
「………」
「?」
そんな朗の様子をいぶかしがる拓也。
(ただのバカ話のつもりだったけど、話題選びミスった~…)
内心で頭を抱える朗だが、覆水盆に返らず。
(まあ、コイツ相手なら別にいいか…)
何か言いづらそうにする朗だが、意を決したように顔を上げる。
恥ずかしいのか、わけもなく窓際まで移動して、窓の外を眺めながら口を開いた。
「俺は案外…男に攻められちゃうのも…いいかも」
まさかの展開。
「えっ、マジ?」
思いがけない展開に驚く拓也。「鳩が豆鉄砲を食ったような」というありがちな形容詞は、こういう時のためにあるのだろう。
「え、お前、そーいうのに興味あんの?」
「そっ、そーいうのってなんだよ、そーいうのって!」
反射的に怒る朗。
「いやだってよ、お前は男で、でも男と付き合いたいってことだろ?」
ある意味で当然のことを聞き返す拓也。
「いや、そりゃそーなんだけどよ…なんつーか、男とか女とかっていうより…その…」
朗は自分の中でもうまく説明できないようで、言葉を探すようにゆっくり話す。
「その…攻められるのも悪くねーっつーか…」
「ほら、俺らがよく見るよーなヤツだと、男の人が女の人を~ってのが多いだろ?」
朗はモジモジしながら言った。
「ああ~~~~」
急に納得したように、拓也はニヤニヤしながら言う。
「んだよお前~!そーいうシュミなら先に言っとけって!がははは」
「っるせー!だから言いたくねーんだよ!」
からかわれた朗は、怒りと恥ずかしさとで真っ赤になって反論する。
「バカにすんなよ!」
「っはは、わりいわりい。でもよ、別に攻められてーってだけなら、相手が女でもいいんじゃね?女が女を攻めるってのも…」
拓也は意地悪そうに言った。
「それは違うっつーか、単なる受け攻めの問題じゃねーっつーか…」
朗は必死に言い訳するが、明確な反論には至らない。どうにか言葉をひねり出そうとウンウン唸っていると、会話に割って入るように部屋のドアが勢いよく開く。
「わわわ忘れ物~……って、あれ?アンタたちまだいたんだ」
入ってきたのは、朗たちクラスメイト・芹沢りん。
「てか何してんの?放課後に教室で二人っきりで…」
二人をまじまじと見つめるりん。
少し考え込んだあと、何かに気が付いたようにハッとする。
「…ハッ!もしかしてアンタたちそーいう関係…!?」
「ちょちょちょ、ちょっと待て!」あらぬ誤解を避けるべく、漫画みたいに両手をブンブンと振って否定する朗。
「そーいうんじゃねーから!」
「落ち着け、残念ながら勘違いだ。俺たちはただの友達だよ」
りんの誤解を解くべく、この場は拓也も一時休戦の様子。
「なんだ残念~」
肩を落として露骨にガッカリして見せるりん。
しかし、早々に気を取り直して朗の方を見やる。
「で、それはそれとして、二人っきりで何話してたん?」
「えっと…それは…」
拓也と怪しい関係にあるなんてことは一切ないが、それはそれとして、話していた内容がアレすぎる。なんだ、性転換したら男と付き合えるか、って。
朗が言葉を濁していると、代わって拓也が口を開いた。
「いやよ、もし俺らが女になったら、男と女どっちと付き合う?って話しててさ」
「おっ、おいバカ!」
静止する朗を無視して、拓也が続ける。
「中身はオレらのまんまだっつーから、流石に女相手がイイなっつったんだけどよ、コイツ、男と付き合ってみたいかも~っていうんだよ」
「おっ、おいバカ!そんな軽いノリでペラペラとバラすな…」
朗は慌てて拓也を制止するが、時すでに遅し。
なんとも言えない表情のりんの視線が痛い。
「わ、わるいかよ…」
ちょっと泣きそうになる朗。拓也の話を黙って聞いていたりんだが、ふと口を開く。
「あー、そりゃあんた」
りんは、何を当たり前のことを、と言いたげな表情で続ける。
「朗さ、もしかして"女の子だけど大事なところだけ違う"みたいなやつ、好きでしょ?」
急におかしなことを質問してくるりんだが…。
「え”っ!?うえぇ!?なんで分かるんだ!?」
図星を突かれて、明らかに動揺する朗。
「は~。朗ってばチョロすぎ~」
りんは溜め息をついて、半ば呆れたように朗と拓也を見る。
「きっと"アレ"のあるなしが問題なんじゃない?」
そう言いながら、りんは視線を落として見せる。
「あー………」
朗はばつが悪そうに、でも納得したように言った。
「や、やっぱバレてたか…」
そんな二人の会話についていけず、置いてけぼり気味な拓也。
「え?…え?マジ?お前…もしかしてそーいう…?」
拓也は信じられないという表情で朗を見つめるが、
「ややや、そーいうんじゃねえ!俺が好きなのは女!女だから!」
朗は慌てて否定する。
「ただ…なんつーか…。んー、自分でもよく分からん…」
否定するも、自分でも自分がよく分からず、うんうんと唸る朗。
「んー、アレじゃない?」
そこへ、様子を見かねたりんが口を挟む。
「普段オトコで女の子が好きだからこそ、女になったらオトコに攻められちゃう~みたいな非日常感にグッとクる!みたいな?」
「あー、そんな感じ…かな?」
朗は恥ずかしそうに認める。
「絶対イヤなのに、オレってば男に攻められちゃってる…みたいな?」
「…お前、だいぶMだな」
拓也のツッコミに、朗は「う"っ!!?」と虚を突かれる。
「ばっ、バッカ!てめ、なに言ってんだ!」
朗が真っ赤になって叫ぶ。
「あは~~~~~ん???」
獲物を見つけた肉食獣のごとく鋭い眼光で、思いっきりニヤケ顔を浮かべるりん。
「まーまー、別に変な趣味ってわけじゃないでしょ?」
優しく朗を庇って見せるが、内心の高揚感、「いいネタ見っけ!」という昂ぶりを隠しきれていない。創作意欲が刺激されてうずうずして、今すぐにでも走り去りそうな様子。
「そ、そーかな…?」
朗が少し安心したように破顔して言う。
「そーだよそーだよ♪ あ、私ちょっと用事思いついちゃった、じゃーねー!」
そう言って、風のようにピューと走り去ってくりん。「うっひょ~~~!!ご馳走様でぇ~~っす!」と楽しげなりんの奇声が聞こえてくるが、聞かなかったことにしよう。
(完)