即興小説「傘を隠した」
(一年ほど前に別の場所であげたものをコチラに移植)
即興小説「傘を隠した」
ある雨の日、小さなアマガエルが大きな葉っぱをぶら下げて、庭先をゆっくりと歩いていた。
次の雨の日、イタチがアマガエルの持っていた葉っぱをもって、庭先を歩いて横切っていた。
その次の雨、今度はキツネがその葉っぱの傘を嬉しそうに持ち、コンコン言いながら走りぬけ、次の次の雨で、ドジなタヌキが部屋の中にいる私を見て、その傘を庭に落としていった。
緑色の大きな葉っぱ。
葉っぱの裏側に小さな文字が刻まれている。
私には読めない。善意ある貸し傘なのだろうか。
「おや」
灰色に染まりゆく空から一粒、雨が降り出した。
庭先を横切る誰かが困ってしまわないように、縁側の下にそっと緑の葉っぱを置いておくことにしよう。(完)