お菓子で小説シリーズ「チョコパイ」
お題「チョコパイ」
小さな小さな世界の話。人間の中で暮らしている小人の存在は有名で、誰もが耳にしたことのある現実だろう。もちろんどこにでもいるわけではない。自分たちが暮らしやすい環境を提供してくれる人間の家に、小さな住処を作り、彼らはそこで存在している。
「おにいちゃん。あれはなあに?」
後ろからついてきた妹に、それはとてもいいものだという風に、兄は笑顔で前方を指さした。
「人間が好んで食べるとても甘くておいしいものだよ」
ひとつでなんと30人前。持って帰ればたくさんの子供たちが笑顔になれる魅惑のおやつ。
「一袋だけ内緒でこっそりもらうんだ」
見つからないようにこっそりと、彼らは人間が留守の間に包みをひとつ運んでいく。そうして彼らの住処にチョコパイが運ばれる頃、人間たちは帰宅した。だけど彼らは気づかない。日常の中に確かにあったものが忽然となくなってしまっても、気のせいだったかしらと特に気づきはしないのだ。