皐月うしこ 2019/05/08 11:00

お菓子で小説シリーズ「チョコパイ」

お題「チョコパイ」

小さな小さな世界の話。人間の中で暮らしている小人の存在は有名で、誰もが耳にしたことのある現実だろう。もちろんどこにでもいるわけではない。自分たちが暮らしやすい環境を提供してくれる人間の家に、小さな住処を作り、彼らはそこで存在している。

「おにいちゃん。あれはなあに?」

後ろからついてきた妹に、それはとてもいいものだという風に、兄は笑顔で前方を指さした。

「人間が好んで食べるとても甘くておいしいものだよ」

ひとつでなんと30人前。持って帰ればたくさんの子供たちが笑顔になれる魅惑のおやつ。

「一袋だけ内緒でこっそりもらうんだ」

見つからないようにこっそりと、彼らは人間が留守の間に包みをひとつ運んでいく。そうして彼らの住処にチョコパイが運ばれる頃、人間たちは帰宅した。だけど彼らは気づかない。日常の中に確かにあったものが忽然となくなってしまっても、気のせいだったかしらと特に気づきはしないのだ。

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