新戸 2022/11/24 02:34

ウマ娘:ずっとずっと、一緒にいたいから。

休日。
部屋でのんびりしていると、フクキタルが上がり込んできてこう言った。

「トレーナーさん! 何も聞かず、私についてきてくれませんか!」
「え、やだ」
「えー!? そんなー!?」

突然のお願いを、思わず反射的に拒否する。
こちとら休日を全力で堪能しているのだ。
行き先と目的くらいは言ってもらわないと、重い腰を動かす気にはなれない。

……と、いうような返答をしたところ。

「むむむむ……。しかし、それを説明してしまうと効果がですね……」
「神社の願い事みたいな?」
「あ、いえ、そういうワケではないのですが、願掛けという点はその通りと言いますか……。えっと、そういうことなので、ついてきてくれますか?」

ふむ。
雰囲気から察するに、おまじないの類だろうか。
できれば、どこに行くのかは教えて欲しいところだが……。

…………。
………………。

「しょうがないなあ」
「今あからさまに面倒くさそうにしてましたよね!?」
「俺はこのまま休日を満喫してもいいんだが?」
「ありがとうございます! ささ、行きましょう!!」

そういうことになった。



特に荷物は必要ない、とのことなので財布だけを持ってフクキタルと歩く。

「やけにでかい荷物だな?」
「ああ、いえ。これはただの開運グッズですので」

俺は手ぶらだが、フクキタルの方はそうではない。
左手に提げた風呂敷包みのお重は、まあ、お弁当なのだろう。
ウマ娘なら、そのくらいはペロリと平らげられる。

謎なのは右肩のスポーツバッグ的なものだ。
歩くたびにカチャカチャ音が鳴っているし、バッグの長さも1メートル以上。
ブランド名から察するに、アウトドア用品なのだろうが……。

「目的地到着です!」

そう言ってフクキタルが立ち止まったのは学園の並木道、
その一番奥まった場所にある木の下だった。
あたり人気は全くない。
平日でさえほとんど誰もこなさそうなのだ、休日となればなおさらだろう。

「今日はですね。ここでお弁当など食べながら、じっくりとっくりお話をしたいなあと思いまして」
「それなら別に、俺の部屋でもよかったろうに」
「こういうのもピクニックみたいな感じで、いいと思いませんか?」
「そういうのはもうちょっと暖かくなってからだなあ」

なにせまだ三月である。
まだまだ風は冷たいし、地面に長時間座るのも辛い時期だ。
ピクニックなら、もっと春めいてきてからの方が……と思ったのだが。

「ふっふっふ、心配御無用です! 実はこの荷物、中身はなんと~……ピラミッドパワーを宿したテントだったのです!」

ひとまず、冷たい風に震えることはなさそうで安心した。



「いやー、意外と時間掛かっちゃいましたね」

二人でガチャガチャやりつつ、どうにか組み上げたテントの中。
クッションを尻の下に敷いて一息つく。
不慣れなテント設営は、それだけでもくたびれるものだった。

「普通こういうのって、説明書読みながら試しに一回組み立ててから使うもんじゃないか?」
「組み立て簡単と書いてあったので……」
「多分その『簡単』は、慣れた人にとっての『簡単』だと思うぞ」
「ま、まあまあ! そんなことより、体も動かしましたし、お腹空いてきましたよね!」

言われてみれば、確かに空腹感。
時間は正午前だが、少し早い昼食にしても良い時間だろう。

「ということで、腕によりをかけて作ってきたお弁当です! 一緒に食べましょう!」
「お、こりゃ豪華だな。……いや、豪華と言うより、これは……おめでたいと言うべきか?」

主食となるおむすびが入っているのはいいとして。
栗きんとんに黒豆、かずのこ、紅白なますエビ昆布巻……
まるでおせちのような顔ぶれがずらりと並んでいたと思ったら、
タコさんウインナーやトンカツ、ブリの照焼きなどが出てきたり、
納豆がパックのまま収められた段が出てきたり……

そして極めつけは、デザートの五円チョコ。
正気ではない。
正気ではない……が、美味そうな弁当であった。

「取り皿とお箸をどうぞ」
「さんきゅ。ほいじゃ、いただきます」
「はい、いただきます」



そうして実際、味は良かった。
まともに美味しくて、逆にコメントに困ってしまうくらいだった。

「──ふう。ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

温かいお茶で口の中をさっぱりさせつつ、余韻に浸る。
風変わりな弁当ではあったが、美味だった。
そして……弁当に納豆はやめておいた方がいいというのもわかった。
食べた後の後始末が厄介すぎる。

「さて、トレーナーさん。ここからが本題なのですが……」
「契約の話、だな?」

姿勢を正したフクキタルにそう問えば「気づかれてましたか」と頬をかいて肯定する。
なにせ弁当の内容が内容だ、なんとなくだが予想はついていた。

おせちの定番メニューは縁起物。
ウインナーは『ウィナー』、トンカツは『勝つ』のゲン担ぎ。
ブリは出世魚で、納豆は粘り強さ。
五円チョコに至っては言うまでもなく、ご縁がありますように……というヤツだろう。
運勢にこだわるフクキタルらしい弁当だった、と言えなくもない。

──最初の三年間というのは、ウマ娘にとって重要な時期だ。
どんな走りをするのか、どのレースを選ぶのか。
己というものを確立し、その名を世に知らしめる時期なのだから。

だが、四年目からは少し違う。
他のトレーナーのチームに移籍するという選択肢が発生するからだ。

走り続ける場合、多くはトレーナーとの絆……信頼関係を重視して契約を続行するが、すでに己の走りをモノにし自信をつけたウマ娘にとって、指導者としてのトレーナーはそこまで重要な存在ではなくなってくるのだ。

中には古強者との切磋琢磨を求め、強豪チームへと移籍する子だっている。
そしてフクキタルは──

「あとニ年……いえ、まずは一年だけでも、私の担当を続けてもらえませんでしょうか!!」
「いいぞ」

契約の更新を望んでいるようであった。

「……へ? いいんですか?」
「いいぞ」
「あのっ、私、自分で言うのもなんですけど、才能のない幸運まかせ神頼みのウマ娘ですよ!?」

『最も強いウマ娘が勝つ』菊花賞を獲っておいてそれを言うか、という思いはあるが、フクキタルの自己評価の低さは今に始まったことではない。

「この通りお料理はできますが、整理整頓は苦手なウマ娘なんですよ!?」
「開運グッズはマジで減らそうな」

そして変なところで図々しいのも、今に始まったことではない。

「そんな私でも契約を続けてくれるんですか……?」
「フクキタルは、走りたいんだろう?」
「それは、まあ……はい」
「だったら一年でも二年でも更新するさ」

出会いはハチャメチャだったし、占いやらなんやらで色々と振り回されはしたが、振り返ってみればそれも楽しい思い出だったと言える。
それに……この三年間で、フクキタルと一緒に過ごすのが当たり前になってしまった。
フクキタルの指導は一段落ついたし、他の子の指導に時間を割くことにはなるだろうが──

「フクキタルのレースは、俺も見てて楽しいからな」
「トレーナーさん……!」
「スパートの掛け声とかハチャメチャだし」
「トレーナーさんっ!?」

にぎやかで、さわがしくて、打てば響くお調子者。
そんなフクキタルに、俺もすっかりほだされてしまったのだろう。

「んんっ、ごほん! 少しばかり不本意なところもありましたが……ともあれ、担当を続けていただけると! そういうことですね!」
「ああ。フクキタルが走りたいと思えるうちはな」
「ということは、十年でも、二十年でも!?」
「二十年走るのは流石に無理じゃねえかな……」

だから、軽くツッコミは入れつつも。
こんな関係が長く続くのも、悪くはないと思ってしまうのだった。



「……にしても、なんでこの話するために、こんなところまで?」
「ハイ! 実はこの木にはジンクスがありまして──」

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