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新戸 Nov/10/2022 18:45

あなたに微笑む(トーセンジョーダン 二次小説)

春。
出会いと別れの季節。
正門前、数多の出会いと別れを見届けてきた桜並木の下で、俺はジョーダンと別れの挨拶を交わしていた。

「レースとはまた違った大変さがあるだろうけど、頑張って。応援してるぞ」
「言われなくったって。アンタも新しい子の面倒、ちゃんと見てあげなよ~?」

ニッと笑い、拳を軽くぶつけ合わせて。
大きく手を振りながらジョーダンは、学園を卒業していった。



──トゥインクル・シリーズを駆け抜けたウマ娘には、大きく分けて二つの道がある。

ひとつはドリーム・シリーズに進むこと。
肉体的なピークを過ぎてなお、ウマ娘の走力は常人のそれを遥かに凌駕する。
そして身体能力が落ちた分、あるいはそれ以上を、経験と知略でカバーするレースだ。
出走するのはいずれも名の知れた選ばれしウマ娘ばかり。
ゆえにドリーム・シリーズの人気は高く、比例して賞金も高額となっている。

もうひとつは、なにかしら手に職をつけること。
比較的多いのが、子供たちへの走り方のコーチング。
トゥインクル・シリーズを走り仰せたということは、それだけで一種の実績だ。
「えー、教わるなら三冠バがいいー」と子供らしい無茶を言うこともあるだろうが、
実際に走ってみせれば大抵の子供は尊敬し、素直に指導を受けてくれると聞く。

それ以外でも特技や人脈を活かし、それぞれがそれぞれの道をゆく。
アパレルブランドを立ち上げたり、モデル業に専念したり、家業を継いだり……。
中には担当トレーナーを捕まえてゴールイン、というケースもあるようだが、それはさておき。
俺の愛バであるジョーダンは、ネイリストになることを選んだ。
同じような悩みを持つ子たちの力になりたいから、と。



トーセンジョーダンというウマ娘の爪は、彼女が全力で駆けるには脆すぎた。
全力を出せば爪が割れる。
だけど全力を出さないことには、模擬レースにも勝てない。
レースに勝てても、爪が割れれば治療と休養が必要になる。
それはトレーニングの遅れに繋がり、更に勝利は遠ざかる……。

ジョーダンにしてみれば、まさに八方塞がりな状況だっただろう。
加えてあまり要領が良くなく、周囲に理解を求めようとしなかったため、
「あの子はやる気がない」という誤解を受け、
本人も「周りがそう言ってるし、そうなんじゃね?」と思い込んでしまっていた。
胸の奥底では「レースに勝ちたい」と、強く願っていたというのに。

たまたま走る姿を目にし、大樹のウロに叫ぶ姿を見かけ、爪のケアをしながらボヤくジョーダンの言葉を聞いて……そして彼女が聞く耳を持ってくれたから、手助けをすることができた。
結果、時間こそ掛かったもののジョーダンは全力で走れるようになったし、秋の天皇賞ではレコード勝ちという快挙を成し遂げた。

──だから、今度はあたしが助ける番。

周囲に理解があったとしても、爪が割れれば治療と休養が必要なのは変わらない。
だったら、そもそも割れないように保護すべきで。
もし割れてしまっても、ケアの仕方やその間にできるトレーニングの知識、そして相談相手のあるなしで全然違うことを身をもって知ったからと、自らの道を定めたのだ。



ジョーダンが卒業してからも折に触れては連絡を取り、互いに近況を報告しつつ二年が過ぎた。
その間に俺の担当は三冠ウマ娘となり……ジョーダンは、ついに自分の店を持つことになった。
気軽に足を運べるよう学園の近くに居を構えるらしく、折角だし食事でもと誘われたのだが──

「おひさ~、トレーナー。前と見た目変わってなさすぎて、一発でわかんのマジウケんだけど」
「久しぶり。ジョーダンは……結構変わったな?」
「でしょでしょ? オトナっぽくなったっつーか、フォーマルな感じ? この格好ならどこに出しても恥ずかしくねー、みたいな」

ジョーダンの言うとおり、装いは大人の女性といった雰囲気で。
けれど話す言葉はジョーダンのままで、待ち合わせ場所もファストフード店。
距離感も二年前と同じままで。
そのことに不思議と、ほっとした。

「あ、そうだ。前も電話で言ったけど改めて。クラシック三冠、おめでと」
「ありがとう。……って言っても、頑張ったのは俺じゃないけどな」
「アンタがそんな風に言うってことは、カイチョーみたいな感じ? それともシービー?」
「いや、うーん……タイプとしてはゴールドシップが近いかな」
「あー……ゴシューショーサマ?」
「ハハハ……まあ、退屈はしてないのは確かだな」

そんな風に、俺の身の回りのことを話したり。

「店はいつごろオープンするんだ?」
「ん。店長さんがこいつら連れてけーって言ってくれたから、今月中にはスタートできそう」
「そりゃまた、でっかい恩ができたな。っていうか、あっちの店は大丈夫なのか?」
「あたし、最初に面接の時に全部ぶちまけたって話、したじゃん? いつか自分の店持ちたいって。それで店長さん、その時から色々準備しててくれたんだって」
「……いい人に出会えたな」

ジョーダンのことを改めて詳しく聞いたり。

「へー。学園の中でも、ネイルを見る目変わってきてんだ?」
「実際、爪の保護としては手軽で効果があるからな。ベースコートだけならそこまで高くもないし」
「だから、あたしが使ってたブランド聞いてきたんだ」
「うん。後は爪が弱くて困ってる子に配って、使ってもってたら、自然と広まっていったよ」
「……ひょっとしてだけど、困ってそうな子をグラウンドで探し回ったりしてないよね?」
「したなあ」
「正直それ、控えめに言って不審者だから。やめといた方がいいよ?」

俺の地道な活動をバッサリ切り捨てられたり。

「勝負服ほどじゃないにしろ、ネイルで気分がアガるってのは生徒会も認めてくれたからな。興味ない子でも、マニキュア乾くまでのニオイさえどうにかしてくれたら別に構わない、って感じになってきてるよ」
「は~……あたしが居た頃とは全然違う感じになってそう」
「って言っても、授業受ける時は基本的にダメだけどな」
「ってことは、あんま凝ったネイルしても仕方なさそーだね。普段は付け爪の方がよさそー」

ジョーダンが叩き出した成績と、俺の地道な活動がもたらした影響を話したり……と。
ジャンクなフライドポテトを肴に、この二年間のことを長々と話し合って。

「っと、そうそう。折角だし、うちの店の名刺渡しとくね。……ポテトの油付きだけど」
「お、秋の天皇賞レコードホルダーの指紋付き名刺か。後でラミネート加工しないと」
「うざー……。んで、アンタは名刺、持ってんの?」
「もちろん。ドーモ、三冠ウマ娘担当のAランク=トレーナーです」
「ぶはっ、アンタの名刺も油で指紋ベッタベタじゃん。ウケる、家宝にするわ」
「紙ナプキンじゃこれが限界だわな」

社会人としては気安すぎる名刺交換をして、その日は別れたのだった。



それからは少しだけ、日常が変わった。
足の爪に関する相談を俺が受けるのではなく、ジョーダンに任せるようになったのだ。
生徒が店に向かうこともあれば、症状の重い子のためにジョーダンが学園に来ることもあった。
その関係で、現役時代のジョーダンが行っていた治療とトレーニングの内容を資料として提供することもあったが、ほとんどのことはジョーダン自身がきっちりと説明し、かつてお世話になった医者を紹介するなどして、後輩たちの助けとなっていった。

後輩たちと仲良くなったジョーダンが、感謝祭やクリスマスに招かれるようになって。
ついでとばかりに俺と担当も巻き込まれて。
その流れで、正月の初詣も一緒に行くようになって。
バレンタインデーにチョコをもらったり、ホワイトデーにお返しをしたりして……

「で。アンタ、いつになったらあの子と正式にくっつくワケ?」

──そして、ジョーダンが店を持ってから、じきに三年目を迎えようかという時期に。
俺はジョーダンの親友であるゴールドシチーに喫茶店へと呼び出され、詰められていた。

「……ジョーダンには内緒だぞ。次の春、卒業式の後に申し込もうと思ってる」
「その場しのぎのでまかせ、って感じでもないか。はぁ~……いい加減、さっさとくっつけばいいのに」
「はは。悪いね、面倒くさいヤツで」
「ほんとそれ。アンタも、ジョーダンも……ま、そういう意味じゃ似た者同士か」

シチー曰く、ジョーダンと出かけるとしょっちゅう俺の話題を出すものの、「好きなら告白して付き合っちゃいなよ」とけしかけると、決まって「あたしなんかよりいい子が」と自分を卑下し始めて、とても面倒くさかったらしい。

「んで? なんで卒業式の後?」
「ジョーダンが相談受けてた子が、今年卒業でな。あの子はジョーダンのおかげで、トゥインクル・シリーズを諦めずに済んだ」
「あー。それでジョーダンに自信? 自負? を持たせてから、ってことね」
「あとはまあ……後ろ指さされないで済む年齢になるのを待ってたってのも、多少は」
「だったらハタチになった時点でも……いや、その時だと店開いたばっかりか」
「恋愛にうつつを抜かして、夢が中途半端になってたら本末転倒だからな」
「……恋愛って、もっと情熱的でもいいと思うけどな」
「見守るような愛もある、ってことで」

話すうちに険は取れ。
話題は自然と共通の友人、ジョーダンへと移っていく。

「アンタ、ジョーダンのどこが好きなの?」
「そうだな。不器用で、まっすぐで……バカなところかな」
「え、ひど。バカな子を騙して丸め込むのが好きなタイプ?」
「このバカはいい意味でのバカだから。そういうシチーはどうなんだよ」
「まあ、アタシも大体おんなじかな。裏がなくって気持ちいいっていうか」
「自分を責めすぎなきらいはあるけどな」
「ね。その分アタシが見ててやんないと、って思ってたけど……」
「けど?」
「アンタがいるなら、春からは御役御免かな」

そう言うとシチーは伝票を取り、「今日はありがと。じゃあね」と、店を出ていった。

……友人に恵まれ、勤め先での人間関係にも恵まれ、これからの先行きも明るいのは。
やはりひとえに、ジョーダンの愚直なひととなりがあればこそなのだろう。
その「恵まれた人間関係」に自分を含めるのは、いささか気恥ずかしいものがあるが、

「ジョーダンを見初めた俺の目は、まあ、認めてやってもいいかもな」

ひとりごちて、気持ちを固めるのだった。



そして季節はめぐり、再び春。
出会いと別れの季節。
正門前、数多の出会いと別れを見届けてきた桜並木の下で、俺はジョーダンと後輩のやり取りを見守っていた。

「本当、ジョーダン先輩には感謝してもしきれないです!」
「大げさだって。あたしは手助けしただけで、ちゃんとケアしたのもトレーニング頑張ったのも、アンタなんだから」
「えへへ……そう言ってくれるのは嬉しいです。けど! やっぱり恩返しはしたいんで、よければ私のこと、先輩の店で雇ってくれませんか!」
「ええっ!? いや、確かに色々わかってる子が入ってくれるのは歓迎だけど、あたし人事担当じゃないし……」
「でしたら人事さんにお話を通しておいていただけるだけでも!」
「あー、うん。それなら多分、オッケー……かな?」
「ありがとうございますっ! トレーナーさんも、ありがとうございました! では!!」

言うだけ言うと後輩の子は駆け出し、クラスメイトたちに合流して去っていった。

「……バクシンのノリを感じる子だったな」
「ひょっとしたら、ヴィクトリー倶楽部の関係者だったのかも」
「ありそうだなあ」

最初に見た時はもっと大人しかったんだが……多分、今のあの子が本来の姿なのだろう。

「なんにせよ、あの子が最後まで走りきれたのは、ジョーダン。君のお陰だな」
「いや、それは言い過ぎじゃね? さっき言ったけど、あの子が頑張ったからだし。ていうか、ケアだけなら別にアンタでも──」
「担当でもないトレーナーじゃ、限度があるさ」

爪が割れる痛みも、それで走れなくなる辛さも、負ける悔しさも。
共に分かち合うことのできない相手の言葉じゃ、きっと、響かない。

「君だから助けになれた。心の支えになれたんだと、俺は思う」
「あたしだから……」

普段のきらびやかな服装とは違う、落ち着いた髪型とスーツ。
時と場所をわきまえた姿もまた、彼女が大人になった証なのだろう。

「誇れる自分になれたか? ジョーダン」
「……うん。そうだね。あれだけ感謝されたんだから、他でもないあたしが、あたしを認めてあげないと」

一度目を閉じ、開く。
まるい瞳に、勝ち気な光が宿る。
……かと思えば再び目を閉じ、数回深呼吸をして、

「ねえ! トレーナー! よ、よよよ、よかったら、あたしと付き合って──」
「おっと、ストップ。それは俺から言わせて欲しいかな」

その口が言葉を言い切る前に、言葉を奪う。
へにゃりとしたジョーダンの笑顔に、桜の花言葉が脳裏をかすめていった。



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