新戸 2022/11/06 19:50

ウマ娘:風邪ひきトレーナー(タイシン編)

「滝行で風邪ひくとか、完全にバカの所業じゃん」
「面目次第もない……」

夏のある日、トレーナーが滝行に参加した。
いかにも涼しげだし、トレーニングのヒントに繋がりそうだから、とかなんとか言って。
けど、滝の水は思ってたよりもずっと冷たかったみたいで。
結局、トレーナーは風邪をひいた。

「……まあ、確かに閃いたっていうヒントは、ためになったけどさ」
「それは良かった」
「良くないっての。それでアンタが体調崩してちゃ意味ないじゃん」

体が冷え切っても、閃くまで続けるとか。
そんなことされても嬉しくないっての。
……いや、まあ、ちょっとは嬉しいんだけどさ。
言ったら調子に乗るだろうから、絶対言わないけど。

アタシのせいじゃないけど、アタシのためではあったわけだし、
トレーニングを早めに切り上げて看病しにきたはいいけれど。
正直、あんまりやることがない。

飲み物はペットボトルを何本も枕元に置いておいたし、
栄養補給用のゼリーも二、三日は困らない数用意してきた。
頼まれたらご飯くらいは作るけど、食べられるかわかんないし、
体を拭くのは……流石にちょっと、提案するのもためらわれる。
……一応、ボディシートは買ってきてるけど。

「なあ、タイシン」
「ん、何?」
「看病して貰えるのは有り難いけど、俺なら全然大丈夫だからな?」
「は? 40度近い熱出しといて言うことがそれ?」
「でも俺、元から体温高い方だし……」

頭きた。
病人は病人らしく、人を頼れっての。
こうなったら、今日は付きっきりで看病してやる。

……って、反射的に頭に血が上りかけたけど。
近くに他人が居たら、気が休まらないってこともある、か。
アタシだって、クリークさんと同室で暮らし始めた時はそうだった。

けど、だからって距離を置いてたら、いつまで経っても変わらない。
頼られたいなら少し鬱陶しいくらいで丁度いい。
遠慮するような仲じゃない……とは、思うし。

「決めた」
「うん?」
「今日一日、付きっきりで看病するから」
「流石にそこまでしてもらうわけには」
「……迷惑なら、やめるけど」
「迷惑なんかじゃない!」

──かかった。

「じゃあ決まり。ほら、病人なんだから大人しくする」
「……もしかして俺、乗せられた?」
「さあ? どうだろうね」

とぼけてはぐらかしつつ、スマホを見る。
晩ご飯には早すぎるし、寮の門限もまだ先だけど、済ませられるものは先に済ませておこう。

「外泊届け出してくる。欲しいものあったら、持ってくるけど」
「んー……あー、腹にたまるものが欲しいかも」
「その熱で……? じゃあ、後で何か作るから」

食欲があるってことは、そこまででもないってのは本当なのかも。
油ものは負担が大きいだろうし……ドライカレーなら大丈夫かな。

「じゃ、ちょっと行ってくるから」
「ん。行ってらっしゃーい……」

一声かけて、外に出ようとして。
不覚にも「こういうの、ちょっといいかも」なんて思ってしまった。



寮に戻って届け出だして。
着替えの用意と、ルームメイトのクリークさんへの書き置きをして。
カレー粉とか野菜とかひき肉とか、必要なものを調達してきて。
そうして部屋に戻ってきたら、トレーナーはスヤスヤ眠ってた。
考えてみると、コイツが寝てるとこなんて初めて見るかも。

ほっぺたでもつついてやろうかと思ったけど、やめた。
コイツ、起きてるだけでも無駄にエネルギー使ってそうだし。

「……さっさと元気になってよね」

空のペットボトルを回収した後、料理に取り掛かる。
多少手間をかけても、今からなら晩ご飯の時間には間に合うだろう。



「うん、うん。美味い。美味いぞタイシン!」
「うっさ。……っていうか、元気になるの早すぎでしょ」
「そりゃまあ、しっかり寝たからな」

……ドライカレーが出来上がってすぐ、トレーナーは目を覚ました。
寝起きなのにお腹を盛大に鳴らすもんだから、少なめを渡したらペロっと完食した上に倍の量でおかわりを要求されたりもした。
無理してる雰囲気もないし、実際に熱も38度5分まで下がってたけど……なんか、納得いかない。
風邪って普通、もっと長引くもんじゃないの?

「この感じだと、明日には治りそうだな」
「どういう体してんの」
「んー、まあ、免疫がちゃんと働けばこんなもんっていうか」

……嘘か本当か、トレーナーの思い込みかはわからないけど。
体温が下がって免疫力も低下して風邪をひいたけど、体温を上げて免疫の働きを活発にしたから調子が戻った、と。
なんか、そういうことらしい。

「だからまあ、温かくして瞑想でもしてれば結構マシになるぞ。迷走中にうっかり寝たら、体温が下がったりはするけどな」
「……へ? 瞑想?」

え。
じゃあ、あれ、寝てたわけじゃなかったの?
だったらあの時のアタシのひとり言も、丸聞こえだったってこと?

「~~~っ!!」
「ご馳走様でした! ……? どうかしたのか、タイシン?」
「うっさい、バカ! 知らない!」

食器をひったくって、台所に逃げる。
ひとりで勝手に恥ずかしがってるとか、バカみたいだけど。
けどまあ、そういうのとはまた別に。
さっさと元気になってくれるんなら、なんでもいいやとも思えた。

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後書きです。

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