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【書き物記事】サンプル記事「創作活動をしていて感じたこと」

※今後、小説とは別に書いていく日記や記事の、サンプルとして書かせていただきました。
こちらに関しては無料プランでなくても読めますが、これを機にフォローや支援してくださると嬉しい限りです。


「創作活動は孤独との戦い」

とはよく言われますが、最近つくづく痛感するようになってきました。

僕はあくまで物書きの活動をベースに、好きなこと・やってみたいことなどを色々と楽しむタイプの人間なので、そういう意味では独自性は高い方かと思います。

だからこそ、孤独を感じる時も多いです。

小説などを執筆する時、僕は一人の状態です。
それだけならまだしも、僕にはフォロワーさんや応援してくださる人がいても、自分と全く同じ内容・活動スタイルの人がいるわけではありません。

Twitterで始めた「Vtuberさんモチーフの140字小説」も新しい活動の一つとして注目されることはあっても、同じ活動をする人が増えるわけではありませんでした。


それによって生まれるのが、不安や恐怖、自分への疑念なのです。


「自分のやっていることは無駄なのでは?」
「もっと他にやるべき事があるのでは?」
「もしかすると誰にも注目されないまま終わるのでは?」


今もですけど、上記のような不安に苛まれることは日常茶飯事です。
それらによって、手が止まってしまったり、モチベーションが下がることも多々あります。
(仮に大丈夫と思っても、それは麻痺しているだけだと思います)

一方で、長いこと続けていったら慣れるか、といったらそうでもないと考えます。

人類の歴史を振り返っても、不安や恐怖がこの世から消えたことなんてありません。
時には、それらが支配する場面だってありました。

人間にとって、不安や恐怖は切っても切れない関係にある存在です。



では、孤独を感じた時にはどうすれば良いのか?
生まれてくる不安や恐怖には、どう向き合うべきか?

僕が考えるに、

「その気持ちを素直に受け入れ、形にして吐き出す」

ことが大事です。

もっと短くまとめるなら、

「無理に我慢をしないこと」です。

Ci-enに投稿した有料記事「140字小説を書き始めたきっかけ」でも書きましたが、僕は心身の不調で以前勤めていた会社を辞めた経緯があります。
その原因はまさに、無理に我慢したことです。

確かに世の中には我慢しなきゃならない、乗り越えなきゃいけない場面だってあります。

でも本当に大事なことは、その我慢が「自分の笑顔や真なる幸せに繋がるかどうか」です。

自分を犠牲にしたり、嘘をついて得られる幸せなどありません。
だからこそ、思ったことをきちんと伝えることは、とても大事なのです。

嬉しい時は嬉しい、嫌なときは嫌だ。
怖い時は怖い、寂しい時は寂しい。

それらをきちんと言える人の方が、無理に我慢している人間よりもよっぽど魅力的だと僕は考えます。


僕も正直に言うと、最近は寂しいと感じるときが多いです。

(知り合いやフォロワーさんには失礼な話にはなっちゃいますが、自分なんて消えてしまっても誰も悲しまないだろう、なんて自虐してしまったこともありました)

しかしだからこそ、それらに押しつぶされないことの大切さに気付き、方法を考えるきっかけにもなりました。

余談ですが、たまにTwitterスペースを開いていたのも上記の関係です。

僕はやっぱり誰かに向けて言葉でも文字でも「話す」のが好きだな、ということに改めて気づかされましたね。
(そうでなきゃTRPGとかも続けていないので)

また4月中にYouTubeかTwitchにて、ゲーム実況や雑談といった配信活動にも本腰を入れていこう考えているので、そちらも始めたら是非よろしくお願いいたします。
(寂しがり屋な部分もある人間なので、コメントしてくださると子どもみたいに大喜びします)



……話が逸れてしまいましたが、不安や辛さに負けそうなときは、誰かに話したり、文字に起こしたりするなどして形にしてみると、少しは解消されるかと思います。

それに人間はなんだかんだで優しい生き物です。
形にして伝えた時に、誰かしら手を差し伸べてくれることだって珍しくはありません。


だからこそ、気持ちはどんどん伝えていきましょう!
それが孤独を感じた時に気持ちを少しでも楽にしてくれる、シンプルながらも効果的な方法です。
(もちろん、言葉はきちんと選びましょう!)

最後にひとつ、僕の好きな言葉を残してこの記事を締めくくります。


「言葉は生きている時にしか生み出せない。

そして形にして伝えていかなくてはならない。

なぜなら『伝わらない』は『価値がない』からだ」


以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これからも応援よろしくお願いいたします。

和井零之介

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【書き物記事】第一回「140字小説を書き始めたきっかけの話」

はじめましての方は、はじめまして!
そしていつも応援してくださっている方は、どうも!

作務衣姿の不器用な物書き、「和井 零之介」と申します。

2022年11月よりTwitter上で始めた「140字小説」の執筆を中心に、現在活動しております。
そして2023年3月からファンサイトとして、Ci-enを開設しました!

Ci-enでは主に、

・ここでしか読めない小説の投稿(全編、無料で読めます)
・書き物や140字小説に関する記事の投稿
・日記、Twitterではお話したりお見せしたりするのが難しいもの等の公開

などをしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします!


さて、前置きが長くなりましたが、早速本題に入ります。

僕は現在、Twitterにて「140字小説」というものを執筆・投稿しております。

ここで140字小説について軽く触れておきますね。
その名の通り、140文字(Twitterの文字制限数)以内でまとめた、とても短い小説のことです。
ジャンルも日常からホラー、子ども向けや大人向けのもの等とても幅広く、何より15~30秒くらいでサクッと読める手軽さも魅力のひとつです!

その中でも僕の書いているジャンルは独自のもので、

「Vtuber」をモチーフにした140字小説

を執筆しております!
 
おかげさまでモチーフにしたVtuberの方は勿論、そのファンの方々や活動を応援してくださる読者の皆様からも、好評の声をいただいております!



では、なぜ140字小説を書き始めたのか?

……単純に「やってみたかった」からです(笑)

しかし流石に、これだけだと味気ないですよね?

というわけで、僕が現在の活動に至るまでの経緯も含めて、詳しく書かせていただきます。

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『和ノ風 ~この街には物書きが住んでいる~ 』 第二話「七海の悩み」

 そよ風が春の薫りを運ぶ中、七海の時間だけがしばらく止まった。
 零之介と名乗る目の前の男性は、ただ静かに七海を見つめている。その表情は穏やかなもので、七海の様子を窺っているようだ。

「……あっ、すみません! 私は七海。新堂七海です!」

 ハッと我に返った七海が、慌てて自身の名を名乗る。

「なるほど、七海さん……うん、とても素敵なお名前ですね」
「あ、ありがとうございます……えっと、和井さんは、ここで何を?」
「ちょっとした寄り道ですよ。外で何か食べようと思いまして、商店街の方へ向かっていました。その途中で、ここの景色に惹かれましてね」

 そう言って零之介は、桜の方に顔を向けた。

「あまりにも綺麗だったもので、桜でも眺めながら一筆認めていただけです」

 零之介の手には、筆らしきものと一冊の本が握られている。よく見るとその本は、鮮やかな緑色の紐で綴じられていた。
 自宅で発見した和綴じの本に似ている、そう感じた七海が口を開いた。

「あ、あの……!」

 その時。

ぐぅうううぅ……

 突如、この場に似つかわしくない異音が七海の言葉を遮る。音の主は、七海のお腹からのようだ。
 両手でお腹を押さえると、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。

「そういえば私も、お昼ごはんがまだでした……あはは」

 一部始終を見ていた零之介も、口元を緩めた。

「七海さん、美味しいうどん屋に興味はありますか?」

 *

 時刻は午後一時を過ぎた頃。
 零之介の案内で、七海は商店街の一角にある「うどん・そば屋 山彦」にて昼食を摂ることになった。
 注文の品を待つ間、七海は店内を軽く見渡す。
 木を基調とした少し広めの店内は清潔感がありつつも、どこか懐かしさを感じるような雰囲気を醸し出している。テーブル席には二組の客が座っており、穏やかな表情で食事を楽しんでいた。

「はい、お待ちどお!」

 程なくして、店主と思しき気の良さそうな中年男性が、木製の脇取盆(一度に数個の椀や皿を運ぶ、給仕用の盆)に乗せた料理を運んできた。
 同時に出汁の上品な香りが漂い、鼻腔をくすぐる。
 七海の前には「海老天うどん」と「いなり寿司」、零之介は「きつねうどん」と「味噌おにぎり」が並べられた。

「ありがとうございます、大将」
「こっちこそ! いつも寄ってくれてありがとね、零くん!」

 大将と呼ばれた男性は、嬉しそうに零之介と言葉を交わした。
 傍から見ている七海も、
 
(きっと大将さんの人柄も相まって、お客さんたちに愛されているお店なんだろうなぁ)

と心の中で呟いた。
 
「それにしても……」

 大将がちらりと七海の方を見る。

「まさか……零くんが、女の子を連れてくるとは思わなかったよ!」
「あはは、先ほど知り合った方ですよ。折角なので、大将の店にも寄りたかったですし」
「かーっ、嬉しいこと言ってくれるね! おっと、つい話し込んじゃった。お嬢ちゃんも、温かいうちにどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」

 笑顔で厨房に戻る大将を見送ると、二人は向き直って合掌した。

「「いただきます」」

 声を揃えた後、七海は箸を手に取った。
 ほんのりと湯気の立つうどんを一口啜ると、柔らかな麺の食感と出汁の香りが口いっぱいに広がる。
 自然と七海の頬が緩んだ。

「あっ、おいしい……!」

 続いてそのまま、海老の天ぷらにかぶりつく。
 サクサクとした衣に、ぷりっとした海老の食感が合わさり、「幸せ」という文字がそのまま表情へと滲み出ていた。

「気に入っていただけましたか?」
「はい! うどんも天ぷらも、すごく美味しいです!!」
「それは良かったです。麺やお出汁は勿論、おにぎりやトッピングの品まで、大将の仕事は丁寧ですからね」

 零之介は小さく微笑みながら、甘辛く味付けられた大きな油揚げにかぶりついた。 



 食事を楽しんだ二人は、大将が持ってきた急須で緑茶のおかわりを貰いながら、しばらく寛いでいた。

「そういえば、七海さん。先ほど僕に何か言おうとしていませんでしたか?」
「実は、和井さんの持っていた本が気になったので……良かったら、見せもらえませんか?」
「なるほど。確かに、この本は現代では珍しいですからね。構いませんよ」

 そう言って零之介は斜めがけの鞄のように結ばれた風呂敷から、一冊の本を取り出した。
 先ほど目にした、鮮やかな緑色の紐で綴じられた「和綴じ本」であった。
 大きめの手帳ほどのサイズで、朱色の表紙に白い麻の葉文様が入っている。

(大きさや色とかは違うけど、家にあったものと似ている……)

 ページを何枚か捲ると、そこには文献で調べたと思しき情報や小説のものらしき一文など、様々な文章が綺麗にまとめれている。
 表紙の題簽には『備忘録 壱 和井零之介』と筆で書かれていた。

「備忘録?」
「いわゆる、覚え書きやメモのようなものと思ってください。小説の執筆や依頼などに使えそうな知識や情報を書き留めているだけですよ」
「なるほど……えっ、依頼?」
「小説以外にも依頼を受けて記事や文章を作成したり、時には悩み事の相談にも乗ったりしているんですよ」
「へぇ、面白い! 物書きさんって、色々されているんですね」
「いえいえ、僕はただ自分のやりたいことをやっているだけですよ」

 零之介のその言葉を聞いた七海は、

「やりたいこと、か……」

とぽつりと呟き、湯呑に残ったお茶に視線を落とした。



「……さて、そろそろ行きましょうか。ここは僕が支払います」
「えっ、いいんですか?!」
「勿論です。楽しい食事の一時に付き合ってくださった、お礼だと思ってください」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えて。ご馳走になります!」

 零之介は小さく頷くとレジへ向かい、会計を済ませる。大将と軽く会話を交わすと、店を後にした。

「大将さん、うどんもいなり寿司も美味しかったです。また来ます!」

 後に続くように七海も追いかけようとする。

「あっ、お嬢ちゃん!」

 不意に大将から呼び止められ、七海は足を止めた。

「大将さん?」
「こんなこと言うと、お節介になるかもしれねぇけど……」

 そう言って優しく微笑み、話を続けた。

「もし何かあったら、零くんに相談してみるといいよ。あの物書きさんは、きっと力になってくれるから!」
「……はい」

 七海も小さく笑みを返し、店を後にした。

「お待たせしました。和井さん、ありがとうございました!」
「いえいえ、喜んでもらえて嬉しい限りです」
「あの……この後って、まだお時間ありますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。書き物の時以外は、基本的に暇していますので」
「でしたら、もう少し付き合ってもらっても大丈夫ですか? 今度は、私のお気に入りの場所を案内します!」

「おぉ、これはこれは……」

 七海の案内で向かった場所は、小さな高台である。
 昼下がりの商店街を後にしてから十五分程歩き、古いコンクリート製の階段を登った先には、街並みを一望できる景色が広がっていた。

「和井さん、こちらに来るのは初めてですか?」
「えぇ。高台の存在は耳にはしていましたが、こんなに素敵な場所だったとは」
「ここ、小学生の頃によく遊んでいた場所なんです。学校が終わってから、ランドセルを背負ったまま友だちと集まって、夕方まで遊んで……」

 七海は街並みを眺めつつ、金属製の柵に手をかけながら、ぽつぽつと話し始めた。
 以前は設置されていた遊具も今は撤去され、小さな広場だけになってしまったこと。
 晴れた夜には星がよく見える場所であること。
 それ以外にも懐かしむように語っていたが、

「あの頃は、何にも悩みなんて無かったのになぁ……」

と最後に小さく呟いた。

「……あっ、ごめんなさい。一方的に話しちゃいましたね」
「お気になさらず。それよりも」

 零之介も歩を進め、七海の横に並んで柵に左手をかける。

「僕で良ければ、悩み事を聞きますよ? おそらく、大将からも勧められたのでしょう」
「……全部、お見通しでしたか」

 そう言って七海は視線を街並みに向けたまま、少し時間を置いてから口を開いた。

「……私、やりたいことが見つからないんです」
「やりたいことが、見つからない?」

 七海は静かにうなずき、ゆっくりと話を続けた。

「将来やりたいこととか、夢とかが決まらなくて……来年には高校三年生になるので、進路のことも本格的に考えなきゃいけないですし。何より……」
「何より?」
「このままだと『私って、何のために存在するんだろう?』っていう疑問を抱えたまま、おばあちゃんになっちゃいそうな気がしたんです……」
「……」
「初めて出会った人に、こんなことを聞くのも変な話ですが……和井さん、私どうすれば良いでしょうか?」

 少し震えた声で絞り出すように言葉にした七海は、隣にいる零之介へと顔を向けた。
 普段は笑顔が素敵、と友人たちから定評のある七海の表情は、静かな悲しみと絶望、そして未来への不安といった感情が入り混じっている。

「なるほど」

 ひと言、零之介が呟いたあとに静寂が訪れる。
 その間も高台にはまだ少し冷たい風が流れ、七海と零之介の髪を小さく揺らした。

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『和ノ風 ~この街には物書きが住んでいる~ 』 第一話「出会い」

※この物語はフィクションです。この物語に登場する人物、地名、組織名等は現実のものとは一切関係ありません。


 空を移ろう桜の花弁が、出会いと別れの季節を告げる三月の中旬。
 日本のどこかに位置する「梶宮(かじみや)市」も例に洩れず、春が訪れていた。一足先に咲き誇っていた梅の木にはメジロが留まり、紋白蝶がひらひらと舞う。
 そんな町中にある二階建ての住宅では、一階の物置部屋を歩き回る男の子の姿があった。もうすぐ小学校に通えるという興奮と好奇心に身を任せ、少し埃かぶった室内を探検している。

「うーん、なんもない……」

 古い段ボール箱から顔を覗かせる雑貨類や眠ったままの健康器具など、普段見かけないものではあるのは確かだが、どれも彼の興味を引くものではない。
 期待外れか、と諦めて部屋を後にしようとした時である。

「……あっ! なんかみっけ!」

 ふと彼の視界に入ったのは、一つの木箱であった。扉で死角になっていたためか、普段なら見落としてしまう位置に置かれている。
 サイズは絵本よりも一回り大きいが、見た目ほど重くはなかった。

(なんだろう? もしかして、おたから?!)

 やっと自分の期待に応えてくれる代物を見つけた男の子は、ワクワクしつつも慎重に木箱を床へと置き、ゆっくりと上蓋を開けた。

「友樹(ともき)、そんなところで何しているの?」

 中身を確かめようとしたタイミングで、不意に背後から声をかけられる。

「ひやぁっ!?」

 友樹と呼ばれた男の子は驚きのあまり、甲高い悲鳴を一つ上げる。
 振り返ると、そこには彼の姉である七海(ななみ)の姿があった。さらりと揺れるセミロングの黒髪に桜色の澄んだ瞳が特徴的で、今は黒いセーラー服に身を包んでいる。左肩から高校の鞄を下げていることから、学校から帰ってきたばかりであることが窺える。

「ね、ねぇちゃん! もぅ、おどろかせないでよ……」
「あら、ごめんね。それよりも、何してたの?」
「うん、こんなのをみつけたんだけど……」

 そう言って友樹は木箱の中身を七海にも見せた。
 七海が姿勢を低くして確認すると、箱の中には一冊の古い本が入っていた。和紙を藍で染めた表紙の一部には扇状に重なり合った文様、青海波が描かれており、背が糸で綴じられているのが特徴的である。

「これ……和綴じ本だ」
「わとじ、ぼん?」

 初めて耳にする難しい単語に、友樹は首を傾げる。

「昔からある本の作り方の一つだよ。友樹の持っている絵本とかと違って、これは糸で綴じてあるの」
「ほんとだ! ねえちゃん、ものしり!」
「ふふ、ありがと。それにしても……どうしてこんなに古いものが家にあるんだろう?」

 七海も首を傾げつつ、本を箱から取り出した。手に取ると、和紙の柔らかく触り心地のよい質感が指越しに伝わる。裏返すと、表紙の左側上方に一枚の題簽(だいせん:書物の名を書いて表紙にはる紙)が貼られている。

(なるほど、こっちが表か)

 今度は中を確かめようと慎重にページを捲ると、そこには古い筆文字が書き綴られている。高校の授業でも古文は苦手というわけではないが、最初の一行を解読しようとしたところで、そっと閉じた。

「ごめん、私でも読むのは無理そう」
「ねえちゃんでもダメか……そうだ!」

友樹はそう言うと勢いよく立ち上がり、一足先にその場を後にした。

「ばあちゃんなら、なにかわかるかも!」
「あっ、ちょっと! もう、友樹ったら……」

 後に続こうとした七海であったが、ふと手にしていた和綴じの本に違和感を覚える。
 その正体は表紙の題簽にあった。

「この本……題名がない?」



「ばあちゃ~ん! ねえちゃんも、はやく!!」
「友樹! 走ったら危ないでしょ!!」

姉弟二人は、同じく一階にある祖母のもとへと訪れた。
部屋は広さ八畳ほどの和室で、くれ縁(室内にある縁側)があるのが特徴的である。
そして祖母は畳の上に置かれた座敷椅子に腰掛け、時折お茶を啜りながら静かに外を眺めていた。

「あらあら、友くん。七ちゃんもおかえり」

二人の存在に気づいた祖母がゆっくりと顔を向け、優しく微笑む。

「おばあちゃん、ただいま。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「あら、なにかしら?」
「これ、さっき物置で見つけたんだけど……」

 そう言って七海は、先ほどの和綴じ本を祖母に見せた。
 まじまじと見つめる祖母であったが、やがて大きく目を見開き、

「あらぁ……! まぁ、懐かしいわね……!」

と相好を崩しながら嘆声をもらした。
 七海から本を受け取ると、懐かしそうに表紙をそっと撫でる。中を開き、時折うなずきながら読み進める祖母の表情からは、とても穏やかで喜びに満ちていることがわかる。

「そう……あれから随分経つのねぇ……」

 読み終えて本を静かに閉じながら、祖母は小さく呟く。

「ねぇそのほん、ばあちゃんの?」

 友樹が覗き込むと、今度は彼の茶色がかった短い黒髪を優しく撫でながら答えた。

「ええ、そうよ……といっても正確には、おばあちゃんのじゃないけどね」
「えっ? ということは、亡くなったおじいちゃんの?」

 七海の問いに、今度は首を横に振る。

「おばあちゃんとおじいちゃんのお友達のよ。零さんっていう、物書きの人が残したものなの……」
「ぜろ、さん?」
「えぇ、零さんはね……」

 七海と友樹はそこからしばらく、思い出話に花を咲かせる祖母の相手をすることとなった。
 本名は知らないが、その物書きが「零さん」と呼ばれて皆から親しまれていたこと。
 祖母が二十歳を迎える頃に、今は亡き祖父を通して知り合ったこと。
 また他にも、外見の特徴やいつも作務衣を身にまとっていたことなど、気づけば一時間近くが経とうとしていた。
 途中で眠ってしまった友樹の頭を膝に乗せながら相手し続けていた七海も、そろそろ自室に戻りたいと話に飽きかけていた時であった。

「でも零さんね……ある日突然、消えちゃったの」

 祖母のその言葉に、七海の興味が引き戻される。

「き、消えた……?」
「皆で町中をさがしたけど、結局行方不明のままでね。一部では神隠しに遭ったんじゃないかって騒がれたりもしたわ……」

 やがて祖母はゆっくりと立ち上がり、夕日に染まり始めた空を見つめる。そして次のように静かに呟いた。

「もし、零さんが生きていたら……今頃どうしているのかしらね……」

 先ほどと打って変わり、祖母の瞳はどこか寂しそうである。七海の頭から、その様子がしばらく離れなかった。



 翌日。
 午前中の授業で下校となった七海は、一人で商店街を歩いていた。
 高校一年の期末テストの結果も良好で、来週には春休みが待っている。
 生憎今日は友人たちも補習やバイト等で忙しい。折角の金曜日であったが、仕方なく七海は母から頼まれた日用品の買い物ついでに、どこかで食事をしようと考えていた。

(流石にこの時間だと人が多いな。買い物はお昼ご飯を済ませた後で良いし……)

 腕時計に目を向けると、針は午後零時半前を指している。目につく食事処には、まだ人々が列をなしていた。

(並ぶのも時間がもったいないし、ちょっと寄り道してみようかな?)

 考えを巡らせていた七海は、くるりと踵を返した。
 商店街を後にしてから五分近く歩いていくと、桜並木が広がる川沿いへと辿り着く。ここは梶宮市の中でも桜が綺麗なスポットのひとつであり、七海の密かなお気に入りの場所でもある。

(今年も綺麗に咲いている……)

 そのまま歩き続け、目についた桜の木に向かった。木を背にして軽く腰掛け、周囲の景色を見渡す。川の向こう岸にも咲く桜の花弁がひらひらと散り、目の前を流れる川へと落ちていく。目を閉じれば鳥の鳴き声や川のせせらぎが耳へと流れ、自然と心が癒される。
 程なくして七海の頭に、ふとひとつの疑問が浮かんだ。

「そういえば、川沿いって桜の木が多い気がする。お花見しやすいからかな?」

 七海の口から、浮かんだ疑問が自然と漏れる。
 しかし今のこの場所で、言葉を返してくれる人はいない。このまま川の流れのように頭から消えていくだろう。
 そう思っていた時であった。
 
「いいところに気が付きましたね、実は災害対策のためです」
「えっ?」

 不意に男性の声が聞こえる。
 七海は驚きのあまりきょろきょろと周囲を見渡すが、目の前に人の姿は見当たらない。

(もしかして、この木のうしろ……?)
 
 そう考え、声の主を探そうと振り返った。

「続き、聞いてみたいですか?」

 同時に、再び男性の声が聞こえる。
 やはり七海に対して話しかけているようだ。

「あっ、えっと……お、お願いします」

 振り返った体勢のまま、七海は桜の木越しに返答した。
 それを聞いた声の主は話を続けた。

「江戸時代の頃は、大雨が降ると川が氾濫することがしばしばありました。そこで八代将軍である徳川吉宗の時代から、土手に桜を植え始めたのです」
「え、江戸時代!そんなに昔から……」
「そしてその狙いは、毎年多くの人が花見に訪れることで、自然と土手が踏み固められること。結果として増水に耐えられる土壌が出来上がり、土手の決壊を防いだということです」
「はぁ、なるほど……!」
「以上になります。いかがでしたか?」
「すごく勉強になりました! ありがとうございます!」

 思わず七海は感心していた。
 疑問も消え去り、代わりに残ったのは知識と芽生えた関心である。

「ふふ、それなら良かったです。しかし、先人たちの知恵にはつくづく感心させられます」
「本当ですね! 教えていただいてありがとうございます!」
「いえいえ、これでも物書きの端くれなもので」
「おお、物書きさん……えっ?!」

 物書き。
 その単語に突き動かされたように彼女は立ち上がり、急いで木の裏へと回った。

「っ……!?」

 やがて先ほどの声の主と対面し、七海は思わず息を呑んだ。
 ふんわりとした黒茶色のマッシュヘア、その右側の前髪の淡い黄色のメッシュが目を引く。服装も紺色の作務衣を綺麗に着こなし、墨色の革靴に似たものを履いている。眼鏡越しに山吹色の瞳が彼女の姿を捉えると、男性は優しく微笑んだ。

「こんにちは、先ほどはどうも」

 そこには昨日の祖母の話で聞いた、「零」と呼ばれた人物の外見的特徴と、ほぼ一致した男性の姿があった。

「え、えっと……」

 その時、一陣のやわらかな風が二人の間を通り抜ける。

「おっと、申し遅れました。僕の名前は零之介。和井零之介と申します」



 ――これは始まりの物語。
 三月は別れの季節でもあれば、出会いの季節でもある。
 偶然ともいうべきこの物書きとの出会いこそ、新堂七海にとっての新たな物語の始まりであった。


【第二話】
https://ci-en.net/creator/14906/article/826171

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