SHA 2020/04/08 13:33

戦争・難民・コロナ「マーシーの戦い」

「マーシー級病院船」

「マーシー級病院船」とは、アメリカ海軍の病院船の艦級。
病院船とは…病気・ケガをした人、難船者に援助を与え、治療と輸送を目的とした船舶のこと。
元々は、アペックス・マリン社の「サン・クレメンテ級タンカー」で、それを改装して出来上がったのがマーシー級。
1983年度予算で「ワース」が改装されて「1番艦マーシー」となり、翌年度予算で「ローズ・シティー」が改装されて「2番艦コンフォート」となった。

基本設計は、タンカー時代のものが踏襲しているけど、上部構造物は大幅に追加されている。
船体中央部には、ヘリコプター甲板が設けられており、2隻の小型ボートも搭載している。
1,000床の病床に加えて、手術室12室やコンピュータ断層撮影(CT)装置など、充実した医療能力を備えている

通常は、アメリカ東海岸と西海岸に1隻ずつ配備されており、少数の民間人スタッフで維持されている。
基本的に、岸壁に係留されるか…港湾内に停泊して待機し、外洋には、機関の整備と点検のために年7日ほど航海するのみ。
出動の際は、医療スタッフや支援スタッフを招集・乗船させる手はずで、出航まで5日ほどかかる予定となっている。

1番艦マーシー

お次は、「1番艦マーシー」を解説してみるよ。
元々、石油タンカーの「ワース」だったマーシーは、病院船に改造され1986年11月に就役。
1987年2月27日、フィリピンと南太平洋に向けて、演習および人道支援の航海を開始。
スタッフには、陸海空軍の現役兵士や、予備役の人も含まれていたよ。
フィリピンの7つの港、南太平洋の7つの港で、62,000人以上の外来患者と、約1,000人の入院患者が治療を受けた。

1990年8月9日、湾岸戦争に参加。
6ヶ月間にわたって、多国籍軍への医療支援を行い、690名の患者を受け入れ、300件にも及ぶ手術を実施。
ちなみに湾岸戦争では、多国籍軍が240から392名が死亡し、776名が負傷…クウェート軍は4200名が亡くなっている。
交戦国のイラク軍は、20,000から35,000名が亡くなった。
また、民間人にも、数千人以上の死亡・行方不明・負傷者が出ている。

2018年6月10日、マーシーは横須賀に寄港。
これは「災害発生時に、医療拠点として船舶の活用」を検討している日本政府が招致したもの。
14日には、海上自衛隊の自衛艦隊司令部、潜水医学実験隊、「潜水艦救難艦ちよだ」、アメリカ海軍の第7艦隊司令部なども参加した日米衛生共同訓練を実施。

2020年、アメリカ国内で新型コロナウイルスの感染が拡大したことを受け、3月27日までにマーシーがロサンゼルスに到着。
コロナによる肺炎患者のベッドを確保するため、肺炎以外の治療を受けている患者の移転、療養先として使われている。
日本の厚生労働省のホームページによると、2020年4月6日現在のアメリカ国内におけるコロナウイルス感染者数は、30万人を超えている。
死者も9千人を超えており、「病院船マーシーのベッドだけでは足りない」という声もある。


2番艦コンフォート

最後に、マーシー級病院船の「2番艦コンフォート」を解説するよ。
コンフォートも、マーシー同様、湾岸戦争に参加。
8000人を越える外来患者を治療し、「強襲揚陸艦イオー・ジマ」の蒸気漏れ事故によって負傷した4名の兵士を含む700名を収容した。
2100回を超えるヘリコプターの離着艦、1600もの眼鏡の作成、80万食に及ぶ給食、CTスキャンを含む1340回のX線検査などを行った。

1994年6月、「ハイチ難民のための手続きセンター」として展開する「シー・シグナル作戦」に参加。
928名の軍人、様々な政府機関職員、国際機関職員を乗船させ、カリブ海へ出発。
1ヶ月に及ぶ活動で、乗艦した難民は1100名に及んだ。

2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ事件」発生時にも、医療支援をしていた。
コンフォートには、561名の切り傷、呼吸器疾患、骨折およびその他の軽傷を負った患者が、治療に訪れた。
また、コンフォートの心理学チームによる、500件の精神衛生相談を実施。
ニューヨークのマッサージ・セラピストのボランティアを受け入れ、1359件の医学治療マッサージも行った。

その他にも、アメリカ南東部を襲った「ハリケーン・カトリーナ」や、2010年の「ハイチ地震」の際にも、医療支援をしている。
そして、2020年3月…コンフォートはニューヨーク州へ出動。
ニューヨーク内の、コロナによる肺炎患者のベッドを確保するために、肺炎以外の患者の移転先、または療養先として使用している。


日本の場合

ちなみに…現在の海上自衛隊には、「病院船」が在籍していない。
だけど、「特務艦はしだて(迎賓艦)」や潜水艦救難艦が、有事や災害時の医療機能を考慮して設計されているよ。
「特務艦はしだて」は、国内外の賓客を招いての式典や、海上自衛隊を訪問した諸外国の将校との会議・会食、マスコミやメディア関係者との懇親会などを行う艦艇。

この「はしだて」には、阪神・淡路大震災以降、重視されている災害派遣における医療支援機能や救難指揮機能を有している。
会議室は災害時の対策本部として運用可能で、パーティー用スペースはテントを張って、マットレスを並べることで臨時の医療室とすることができる。
休憩室も、折り畳みベッドを並べて、病室とすることができる。
これら医療支援任務に用いられる医療器具は、はしだての備品として常に搭載されている。

もう1つの「潜水艦救難艦」は、海中で遭難・浮上不能になった潜水艦などの乗員救助の任に当たる艦のこと。
海上自衛隊の「潜水艦救難艦・2代目ちはや」は、医療機能が充実しており、手術室やX線撮影室が存在する。
さらに…救助した乗員のために80名分の居住区を確保しているが、ここは「病室への転用」も考えられた作りになっている。

その他、「おおすみ型輸送艦」、「ひゅうが型護衛艦」、「いずも型護衛艦」にも、陸上自衛隊の「野外手術システム」を搭載することで、高度な医療機能を有することが可能。
自衛隊には、アメリカみたいな病院船はないけど、医療設備が整ったお船がちゃんとある…ってことだね。


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