片倉九時 2019/10/18 21:45

超ショートショート 木になるクジラ

 旅の途中、どうやら『木になるクジラ』なるものが近くの海にいるらしいという噂があった。
 その珍しい名前をもとに噂をたどっていくとその『木になるクジラ』が出てくるという湾にたどり着いた。 
 『木になるクジラ』は遠くの海からやってきて、最初はクジラだったのがだんだん体を海上に浮かし始め、体は大地になり、塩をふく場所から一本の木が成る小さな島ができ、この湾を漂い、ついには小さな島からなる大地が埋め尽くさんばかりになった。
 私は興奮した。このような面白いものが見れるのが旅の醍醐味だ。気づくと周りに小さな獣や鳥まで集まっている。まるで祝福されているようだ。
 よくよく見てみようと近寄るとそのクジラの木には実がなってるではないか。どんな味だろう?と手に取って食べてみるとこれがおいしい!この果実を集めてひと商売してみようか。そこまで考えてきたところでここまでの旅の疲れからか眠くなってきた。どれ一つこの大地になったクジラでひと眠りしていこう。

 その旅人はそこで眠り、ついには眠りからは覚めなかった。それは近くに寄った小動物たちも同じようだ。彼らはずぶずぶとクジラの大地に飲まれていき、最後は溶かされてしまった。
 その後『木になるクジラ』は大地にあるものすべてを覆い、海水にもぐり漂って行った。彼らは海に漂う大きな食虫植物なのだ。
 

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