「お面紛失!? こころの幻想郷旅」英語化プロジェクト
7月2日に「Kokoro's Gensokyo Journey: The Lost Masks」がSteamでリリースされました。
これは「お面紛失!? こころの幻想郷旅」の英語化に対応したものです。
従来通り、日本語でも遊ぶことができます、
この記事では英語化にあたり感想や留意点を備忘録・報告書としてまとめます。
経緯
- 5月下旬:HakanaiBlueさんから英語翻訳の提案を受ける
- 6月12日:英語版の仮完成
- 6月18日:Steamストアページ公開
- 7月2日午前:Steamリリース
- 7月2日午後:ver1.12bパッチ公開
- 7月8日:ver1.12cパッチ公開
きっかけ
「お面紛失!? こころの幻想郷旅」を英語化しようと思ったきっかけは、5月下旬にHakanaiBlueさん(@HakanaiBlue)から英語翻訳の提案を受けたことでした。
初めて提案を受けた時点では、承諾しようかすごく悩みました。
というのもこのゲームは初リリースから約3年経ってる昔のゲームであること、自身の英語力がほぼないこと、そもそも作ったところで需要があるか不明瞭なことなどあったからです。
一方で見ず知らずの自分に声をかけていただいたこと、自分のゲームを翻訳したいと思うほど評価していただいていること、これからゲーム開発者として復帰するための足掛かりにしたいことなどの肯定する気持ちもありました。
最終的には後者の気持ちが勝ち、英語化プロジェクトをスタートさせました。
配信プラットフォーム
さて英語化を作るとして、どこで配信しようかという話になりました。
今までこころの幻想郷旅はDLsiteとBOOTHで配信していました。
しかしこれらはほぼ日本のユーザーだけで海外向けとは言えません。
というわけで最初はitch.ioを考えていました。
これは過去にも検討したことがあり、無料で簡単に配信できる認識でした。
と考えていた矢先、HakanaiBlueさんからSteamでリリースしたらどうかという提案が...
「あの最大手プラットフォームのSteamで!?
自分のゲームを??」
と当然のように思ったので断ろうと思っていました。
が、やっぱりSteamで影響があるのかという好奇心が上回りSteamに決定!
Steamリリースの特徴
幸いにもSteamリリースの作業はこちらのブログにとても丁寧に書かれていたのでこれを見れば"多少は"簡単にできます。
そう、ブログを見ながらでも実は結構面倒だったのです。
そこは下の欠点で触れようと思います。
利点
ユーザー数が多い
Steam最大の利点。
宣伝が疎かでもなんだかんだ見てもらえる。
同じようなジャンルが好きな人にはおすすめに表示されるので見つけやすい。
バージョンアップが楽
今までバージョンアップをする場合、アップデート用の実行ファイルを作成→配布&告知→ユーザーがダウンロードして適用するという形でした。
ただこの形、開発者側はもちろんのこと、ユーザー側も手間がかかるものでした。
一方てでSteamだとアプデ後のファイルをアップロードするだけ完了。
告知もプレイ直前の見やすい場所に表示されるし、たとえ告知を見逃していてもアップデートボタンが表示されるのでアプデ忘れもない。
しかもこのアプデ、バイナリファイルの実行ファイルでさえ差分を取ってその分の通信をするだけなのですぐにできる。
さすが最大手なだけあってこの辺は非常によくできていました。
フィードバックをもらいやすい
ストアページに付随してレビュー欄と掲示板があるのは便利。
誰もレビューしないと思っていたのにリリース一種間で3件ももらえました。
ここら辺は上記のユーザー数が多いってところもあるかもしれません
欠点
SteamWorksパブリッシャー登録が大変
ありとあらゆる個人情報を入力しないといけないのが大変でした。
本名、住所、振り込み口座はもちろんのこと、本籍地や出生地まで聞かれました。
ちゃんと手元に資料を集めた上で3時間近くかかったので余裕があるときにやっておきましょう。
ちなみにこれは承認まで10日ほどかかるので注意。
設定項目が多い
あらゆるゲームや表示に対応するためなのか、作ったゲームについて設定しないといけない項目が多いです。
その中でも特に多いと感じたのは画像。
サイズ違いで10種類の画像を作らなければなりません。
追加でスクリーンショット4枚以上と予告動画。
今回の予告動画はHakanaiBlueさんに作っていただきましたがこれも負担が大きそうです。
リリースに時間がかかる
信頼があるプラットフォームなので審査が存在します。
そのため、リリースのスケジュールにはかなり余裕を持たせる必要があります。
今回の場合、ストアページの審査に3日、ゲーム本体の審査に2日でした。
その他にもSteamWorksパブリッシャー登録から30日、ストアページの公開(審査完了)から2週間が必要と制限が多いです。
ちなみに、リリース日は米国時間で月~金の間しか設定できません。
これはPDT 米国太平洋標準時なので金曜夜に設定すると、日本の土曜朝にリリースされます。
何か重大なバグが見つかっても対応しやすいのでオススメです。
英語版の開発
ここまではSteamの登録作業について書きましたが、当然ゲーム本体の英語版の開発も行う必要があります。
文字列の置き換え
私のゲームに表示する文章(以降、文字列と表記)はCSVファイルから読み込むものとソースコードから直接読み込むものがあります。
前者に関してはそのまま翻訳担当に渡すだけですが、後者は分かりやすいように1つのファイルにまとめる作業が発生します。
特にあらかじめ定義しないでそのまま書いてあるコードは変更に時間がかかりました。
基本的には翻訳担当の翻訳スピードがほぼ完成スピードに直結します。
量が多いなら分けて送るといいでしょう。
送る際には改行コード、コンマ、ダブルクォーテーションの扱いもスムーズにいきます。
デザインの変更
文字列を置き換えたら完成!簡単!
というわけにはいかないんですよね残念ながら。
そう、忘れてはいけないのは日本語と英語では文字列の長さが異なります。
文字列の長さは文字列の種類によってだいたい決まっていて
- 英語の発音そのままのカタカナは日本語>英語 例:ジャンプ(8)とjump(4)
- ひらがな、カタカナで発音が同じものは日本語≒英語 例:こころ(6)とkokoro(6)
- 漢字は日本語<英語 例:旅(2) Journey(7)
- 固有名詞はまちまち
固有名詞はファンの間で既に定着したものがある場合は要注意です。
今回のゲームでは迷いの竹林(10)とBamboo Forest of the Lost(25)が最も差が大きかったです。
日本語≧英語の場合はそのままで大丈夫ですが、日本語<英語の場合は枠からはみ出すため変更が必要です。
今回は主に3種類の変更をしました。
枠を大きくする
最も簡単な対策。
欠点としては日本語を入れた際に余白が生まれ少し不格好な形になります。
可能なら文字列の長さを読み取ってプログラム内で調整しましょう。
(このゲームでもしてるところがあります)
文字を小さくする
逆に中身を小さくしようという発想。
実は結構理にかなっていて、英語は日本語と比べ文字が小さくても読めるという性質が利用してます。
配置変更
もうそもそも配置すら変えて別デザインにする方法。
実装コストは高いですが、自由度が高いため違和感のないデザインにできます。
英語ロケールでのテスト
Windowsシステムの言語設定(ロケール)を英語にテストしてちゃんと動くか確認しましょう。
これを怠ったせいでver1.12bを急いで作らないといけない事態に陥りました。
なぜなら、リリース時点のver1.12では英語ロケールで動かないバグが報告されたからです。
結局バグの原因はCSVファイルの文字コードにShift-JISを使っていたことでした。
これは「コンピュータ上で日本語を含む文字列を表現するために用いられる文字コード」であるため当然英語ロケールでは動かなかったというわけです。
どの文字コードを使うかはゲームライブラリによって異なると思うので要確認です。
最後に
なんだかんだ非常に文章が長くなってしまいました。
これでもまだ書ききれていないこともあるためそれだけここ一ヶ月半の密度がすごかったってことですね。
でもこれぐらい書かないと未来の自分がまたSteamリリースを考えるときに同じ轍を踏んでしまうため仕方ないですね。
いろいろ苦労した点とか書きましたが全く英語化のことを考えていないゲームを約一ヶ月半で準備できたので思ったよりは上手くいけました。
最初からグローバル化を見据えて実装を考えていると早いかもしれませんが、それはそれで日本語オンリーより時間がかかるので後付けでいいと思います。
さて、本文中でもちらっと書きましたがそろそろ次のゲームの開発を始めないといけない頃かなーと思っています。
次の報告ができるのはかなり先になりそうですが、気長にお待ちいただけると幸いです。